SWITCHインタビュー 達人達(たち)「中井貴一×糸井重里」(完全版) | 日々のダダ漏れ

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日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

SWITCHインタビュー 達人達(たち)
「中井貴一×糸井重里」(完全版)

SWITCHインタビュー達人達「中井貴一×糸井重里」


(2人の対談の中から、私の印象に残った部分、
残しておきたい部分を抜き書きしてあります。)

完全版で、追加された部分だけを抜粋してあります。
●通常版の前半はこちら↓
SWITCHインタビュー 達人達(たち) 「中井貴一×糸井重里」(前半)
●通常版の後半はこちら↓
SWITCHインタビュー 達人達(たち) 「中井貴一×糸井重里」(後半)

**********

糸井は、自分のサイトで番組について、こう綴って
いる。「この企画は、面白いなぁと思っていました。
一般的には訊かれることの多い人物が、訊くという
役目をやらなければならないというルールが、なに
か新しいものを見せてくれるような気がしました」。

何を隠そう、中井は、糸井重里的生き方に、
憧れているという。


中井) いろんな事やりますよっていう…何かこう、何
    て言うんだろう、おもちゃ箱みたいな、イメージ
    っていうのかな、糸井さんの中に僕はあるんで
    すよね。自分のポリシーみたいなものが、きっ
    ちりなければああいう人生って歩めないって思
    うんですよね。「ああ、これ面白そう、ああ、これ
    面白そう」って思う事はできるけど、そこに一歩
    踏み出す、足を踏み出すパワーみたいなもの
    って、意外と俺にはないのかなと自分で思った
    りするわけ。でも、それ糸井さんって、簡単に一
    歩踏み出してるような気がするんですよね。そ
    れが、羨ましいなって思いますね。憧れるって
    いうか。

大学を中退し、広告業界に飛び込んだ糸井。「不思
議、大好き。」「おいしい生活。」など、時代を象徴す
るコピーを次々と生み出した。糸井によってコピーラ
イターという職業が、一躍注目されるようになる。若
者に絶大な人気を誇ったテレビ番組、「YOU」。糸井
は、独特な間合いで番組を進行。若者をスタジオに
集め、ゆる~く討論するスタイルは、後の番組に大
きな影響を与えた。インターネットが世に普及し始め
ると、いち早く独自サイトを立ち上げた。現在も、1日
140万ページビューを誇る人気サイトであり続けて
いる。中井を案内した先は、和風モダンな部屋。

という訳で、レギュラー版では、
泣く泣くカットした未公開トークを一挙放送!


**********

中井) 糸井さん、「あまちゃん」好きだったの?
糸井) 「あまちゃん」好きでしたね。
    楽しかったですね、毎日ね。
中井) よく出来てたと思う。
糸井) うん。


中井がめざとく見付けたのは、
「あまちゃん」のDVD。


糸井) やっぱりあの女の子が、
    持ってるものが大きかった。
中井) 大きかった、すごく。
    俺久々に何かこう…久々に来たなと思った。
糸井) 好きだ~って思ったですよねぇ。うん。
中井) ホントにあの何か、
    役にぴったり合ってたんでしょうね。
糸井) うん。そうかもしれない。久しぶりにそうかも
    しれない。久々感あるかもしれない。


2人してすっかりはまった能年玲奈ちゃん。
実は、糸井も「あまちゃん」に出演していた。


糸井) 自分ちに、息子がいないんで、
    嫁をもらうっていうのがないんですよ。
中井) ああ…。
糸井) 僕は、あの…理想は、
    嫁にやさしくしたいっていう気持ちがあって。

中井) へえ~。
糸井) 例えば息子がいたら、能年玲奈ちゃんが
    嫁に来るかもしれないじゃないですか。
中井) そうね。可能性としては。
糸井) 可能性としては。
中井) なきにしもあらずですもんね。
糸井) そしたら僕は
    デパートとかに連れて行ってあげてね。
中井) ハハハハ…。
糸井) 「何でも好きなものを買っていいよ」とかね。
    ちょっと言ってみたかったんです。
中井) 何考えてんだ、本当…。
糸井) そういうのは中井さんは、ないですよね?
    まだ若いし。
中井) いや、そんな事ないですよ。だって能年さん
    なんてもう、娘でも全然おかしくない訳でしょ?
糸井) ああ、そう…。
中井) だから…でもまだそういう目線ではまだ何か
    こう…。自分に子供がいないっていうのもある
    んでしょうけど。なかなかこう、「子供」目線で
    はまだ見れない自分がそこにはいるような感
    じがしますよね。何かその…下の子とやって
    も…別に、あわよくばとは思ってないですよ?
    あわよくばとかそういう、イヤらしい下心のあ
    る目では見ないけど。「ああ娘がこんななあ」
    とかっていう感じではないですね。だから、ど
    っちかっていうと、スケベな目線の方が、まだ
    強いのかもしれないですね。そういうのって。
糸井) スケベな目線っていうのも、よ~く考えてみ
    るとそうでもないんじゃないかと、僕最近思う
    んですよ。
中井) あ、そう?
糸井) 昔から自分で誤解してたんじゃないかな。
    その、そういう風に割りふらないと、収まりが
    悪いから、スケベな目線だって事にしてただ
    けで…本当はもっと人類愛みたいなものだ
    ったんじゃないか。
中井) 美しく言えばね。俺も、そう言いたいですよ。
糸井) だって、役者さんとかだって、絶えずその、
    ラブに囲まれるじゃないですか。その、映画
    なんていうのは。
中井) 囲まれてます。
糸井) ね?
中井) だから、僕は必ずその仕事が終わった後に、
    しばらくブレイクを取るんです。ここというのは、
    僕がいつも決めてるのは、「失恋の期間」って、
    僕は言ってるんです。ですから、ここで恋をす
    る、疑似的でも恋をするものの、それをここで
    1ヶ月なら1ヶ月で、自分の心の整理をする。
    っていう、それは、役との決別っていうことも含
    めて、やっぱり実際好きになる訳ですから、疑
    似的にでも。それが失恋の期間を…時間を取
    るっていう風に決めてるんですよね。やっぱり、
    夜夢を見るのは相手役の夢の方が。
糸井) いいですね~。
中井) それはもうやむをえないという風に思います。
糸井) その、疑似的にでもっていうのって、
    本当に分かんないですよね?
中井) 分かんないです。
糸井) 分かんないですよね。それ言ったら、現場が
    台なしになるから、言わないでしょうけど。そう
    いうもんですよねえ。
中井) 本当に。


**********

糸井) うちでよく企画ものとかで…「室町時代でも
    ウケるかな?」っていう言い方がある。
中井) 会議でね。
糸井) うん。どういうのを室町時代って言ってるか、
    よく分かんないんですけど、飛鳥時代でも何
    でもいいんですけど…。人はみんな好きだよ
    ってところに行きたいんですよ。
中井) なるほどね。
糸井) そういう事をやられると、今の人はうれしい
    けど、室町時代の人はうれしくないよってい
    うのがあったとしたら、今のほうがたぶん間
    違ってんですよ。その…やっぱり単なる流行
    なんですよね。


**********

糸井重里の仕事哲学の一つが、公私混同。
公私混同が上手にできている人は、楽しく
いい仕事ができる、という。

すべての企画の出発点は、社員自身が、
好きとか、面白いとか、こんなのあったら
いいな、と思う気持ちだという。

糸井の事務所を探検してみると…


中井) これは何のためにあるの?
    みんなで座って…。
糸井) そうですそうです。何か曖昧な場所があった
    方がいいと思って。ここでご飯を食べたり、打
    ち合わせしたり、社内の売りたいものとかあっ
    た時に並んだり…。
中井) なるほどね。僕のイメージの…糸井さんの
    イメージっていうのは、こういう事なんですよ。
    分かります? この曖昧な感じを作るっていう
    ところが、僕、糸井さんのイメージなんですよ
    ね、何か。
糸井) まあ、縁側みたいなものですね。
    雨は降らないけど。
中井) なるほどね。
糸井) こう、どこでもいいんです。ここで食べてもい
    いし…。これは、何かこう…ここはここでミーテ
    ィングに使ってます。
中井) 何か1個ずつがオシャレに見えるもんね。
    糸井さん、何か。
糸井) えっ、そんな事ないですよ~。
中井) 何となくさ…。何かこういうのいいな~。
    働きやすそう。
糸井) 大体ね、島ごとにね、しょっちゅう引っ越しと
    いうか、するんで。このチームは今はこうなん
    ですけど、ついこの間まではこのチームじゃ
    なかったんです。
中井) それどういう事?
    部署が決まってないっていう事ですか?
糸井) くじ引き。
中井) くじ引き?
糸井) くじ引き。席ね。
中井) あっ、席を。
糸井) だから、この人たちはみんな、
    違うタイプの仕事をしてたりするんですよ。
中井) あっ、固まらせないっていうね。
糸井) 固まらないで。固まらなきゃなんない時は、
    無理やりそういう事もしますけど。基本的に
    は、隣にいる人が、違う種類の仕事っていう
    のが多いですね。
中井) そうなんですか。へえ~。
糸井) 通りますか。鏡は、バットスイングをしたり。
中井) 本当に? これ。
糸井) いや、あまり不機嫌な顔をしてるとバレます
    からね。鏡はね。
中井) なるほどね。ありがとうございました。あの、
    ここの会社って仕事してて楽しいですか?
社員) 楽しいです。
中井) 楽しいですか。すごい。素晴らしいじゃない
    ですか。楽しいって。社員が楽しいっていう
    会社ってそうないですよ。
糸井) いや、じゃちょっと楽しくない人に手を挙げ
    てもらいますか。仕事してて楽しくない人。
    あの…挙げるわけないじゃないですか。
    挙げたら大変な事になるでしょう!

(手を挙げる糸井)
中井) 自分が挙げてどうすんだ。
糸井) いや、まあ、概ね大丈夫だと思いますよ。


**********

中井) あのね、僕最近、しみじみこれを思って
    人生が楽になったのはね…
    人はね、そんなに好かれない。

糸井) ああ、そうですね。そうですね。
中井) それが、分かってから…。「あっ、大丈夫です
    か? あっ、大丈夫ですか?」って言ってたって、
    そんなに好かれない。それが分かってから、
    「大丈夫?」、ぐらいにしようかなと。
糸井) そのこと一つ分かることって、百科事典のこう、
    5、6冊分ぐらいの価値があるんじゃないでしょ
    うかね。
中井) 僕ね、それ気づいた時に、
    「年とってよかった」と思ったんですよ。
糸井) ああ、若い時には分かんないですもんね。
中井) 分かんないもん。
糸井) 「あっ、おみ足は・・」みたいな事、
    やってましたよね。
中井) だからそれやったからってどうも思われない
    んだっていう事が、臨床例として分かってくる。
糸井) 臨床例ですね。
中井) だから、年を取るっていう事。
    僕、それしかないと思う。
糸井) 臨床の連続ですね。
中井) 連続でしょ? だから、僕20代の時に、50の人
    に、多分偉そうな事言ってたと思うんですよ。
    「僕はそう思わないです!」みたいなことをね。
    今恥ずかしいもんね。あの人たちは、もう、キ
    チッと臨床例をとって新薬を出してた。
糸井) そうですね。
中井) 俺ら、臨床例をとらずに新薬を出そうとしてた
    わけで。ここまで経験すると、「あ~あのおじさ
    んの言ってた事正しかったな」って、思ったりす
    る…って。
糸井) イージーに漢方薬を出したりね。
中井) 「混ぜてみよう」とかってね。
    でもね、俺、その、最近、これから先に何をした
    いですか?」って、言われる事があるんですよ。
    で、自分で考えるじゃないですか。そうすると、
    確実に俺がやりたい事は、知識をつけたいっ
    ていう事なんですよ。でね、50っていう年を過ぎ
    て…50を過ぎた時も別に思わなかったんです
    けど、50をトントンって…今53になったんですけ
    ど。3つぐらいくると、「あれ? ちょっと見えてる
    景色が変わってきた」って、最近すごく思うよう
    になったんですよ。だから、今までは 先輩から
    バトンを渡される渡されるっていうことばっかり
    考えていたのが、バトンを渡さなきゃいけない
    んだっていう、もらったバトンはね。…って思っ
    てきたんですけど。そうすると、今から勉強しな
    いと、今度は、教えられる勉強の仕方から、教
    える勉強の方法を、取らないとダメだって。バト
    ンが渡せないって事に、はたと気づいてきて…。
    ものすごく知識をつけたいな、って思うようにな
    ってきたのが、この53なんですよ。
糸井) 役者さんって、因果な商売で、全部知る必要
    があるような気がするじゃないですか。
中井) そうなんですよ。
糸井) その、世界中の人間1人1人が全部自分の
    役柄の対象だから。その意味では、どっかの
    専門の領域にいる人に比べて、知っとかなき
    ゃって思わされることが多いですよね。
中井) 多いんですよ。
糸井) それは、気の毒なんですけど。
中井) だってどっかの議員の人がね、泣いて謝った
    じゃないですか。謝ったわけではないんだろう
    けど、あのオーバーなね、何とかさんっていう
    人がね。
(耳に手をあてて議員の真似をする糸井)
中井) そう、この方がね。あんな事を現実にやられ
    たら、俺らはどうしたらいいんだって話ですよ。
糸井) ねえ。
中井) あれを僕たちが、芝居で「あ、このケースはあ
    れだな」と思ってやった時に、酷評しか出ない
    ですよ。
糸井) アイディアに満ちすぎてましたもんね。
中井) だからね、僕、昔ね、新幹線に乗るんで、東
    京駅にいたんですよ。僕が20代の頃ですけど。
    それで、ホームで立ってたらね、まだ当時、赤
    電話っていうか、公衆電話が、駅にあった時に、
    あるおじさんが、電話をかけ終わって、そのま
    ま、その人のイメージでは、その電話に、こう
    やって寄りかかろうとした時に、これ(電話)が
    なかったんですよ。それで、そのままそのおじ
    さんがこのまま床に倒れてったんですよ。それ
    で僕、「はっ!」と思ったんだけど…これを芝居
    でやったら、「オーバーだよ」って言われるんだ
    ろうなって思ってしまうんですよね。でも現実は、
    確実に芝居を超えてるっていう、そこにぶち当
    たった時に、「俺は何をしたらいいんだろう?」
    って、悩む事があるんですよ。
糸井) その、悩んでる中井さん像は、僕が映画の中
    で見てる中井さんがやってるお芝居の中に全
    部出てますよね。だから面白いんじゃないです
    かね。
中井) だから、それを…いかにやりすぎだと思わな
    い域でやるかって事が、僕の割と勝負なんで
    すよね。
糸井) 楽しみにしてますよね。
中井) はい。
糸井) 中井さんからこんな話が出てくるのは、とても
    面白いんだけど。中井さんがやってる芝居見
    て、僕らが面白がってるのは、そこのところで、
    境界線の引き方について毎回考えている節が
    あるから。つまり、ここはお父さん…大体お父
    さんを演じる事が多い方なんで。お父さんって
    いうのは、本当の心を隠したりすることが多い
    もんですから。本当の心を隠す。じゃあ本当の
    ことを丸出しにしちゃったらもっといいのかって
    いったら、やっぱりそれをする事で不都合があ
    るんですよね。で、その線をしょっちゅう、こう、
    高速で引き直してるみたいな。そういうお芝居
    をしてるのを、僕らは、これやってる本人、楽し
    いだろうなとか。
中井) 僕ね、リアリティって
    そこにしかないような気がする。
糸井) ああ、震えてますよね、それこそ。
中井) だから人間って、何かそんなに決まった形の
    中で、リアリティってあるもんじゃないような気
    がするんですよね。だからさっき言ったそんな
    オーバーな事をやられた時に、俺らのリアリテ
    ィはどこにいくんだみたいな。だから、本当に
    それが常にこう、線の位置が変わってくる事を、
    瞬時に理解をして、相手役の心の震えと同時
    に、こっちの震えの場所を変えてかなきゃいけ
    ないっていう。それが僕は、芝居っていうもの
    のリアリティだと思ってるんですよね。
糸井) いや、それがものすごい僕には面白くて。
    1回その事を考えてここに立ってる人がいる
    って思うだけで、人って面白いなって。


**********

中井) 好奇心を持つ事は誰でもできるんだけど、そ
    の好奇心に向かって一歩を踏み出すかどうか
    って事が実はすごく大事なこと。それ、僕、糸
    井さんはあるって思うんですよ。それがたぶん、
    つよさなんですよね。例えば、「ちょっといいや。
    寒いもん、表」っていう事を、1歩踏み出してい
    くっていう事の…。
糸井) 寒いんですよね。
中井) 「やだよ、寒いの。俺死んじゃうもん」
    なんて思ってる時に…。
糸井) 口では散々言ってますけどね。
中井) そう。だから、それがやっぱり僕は
    すごいなあって思うとこですねえ。
糸井) あの、それは一つは僕は、大きい夢を語らな
    いからだと思う。大きい夢を語ってダメになっ
    てきたものってやっぱり長年生きてくると、たく
    さん見てて。やっぱり「吹く」ヤツで生き残った
    ヤツって相当なヤツしかいないですよね。
中井) 本物だよね。
糸井) 本物。
中井) それこそ本当に、天下を制するヤツですよね。
糸井) なかなかいない。永ちゃん(矢沢永吉)とかね、
    ある意味では健さん(高倉健)もそうですよね。
    あれは吹いてたと思うんですよ、大きい意味で。
    そんな人はなかなかいなくて。食えるサイズに
    して食うっていうか。出来るサイズにしといて、
    出来ましたって言って積み上げてったり。あの、
    そこに運が来て、バンと上がったりとか。そうい
    うのはいっぱい見てるんで。その意味では、そ
    の、夢を語るっていうことを僕はあんまりしない
    んですね。


**********

糸井) だから、「やってごらん」って言った時に、
    グズグズしてるのは本気じゃない
ってこと
    なんですよね。
中井) そうそうそう。
糸井) すぐ分かるんですよ。本気かどうかって。あ
    の、犬とかさ、美味しそうなものを人間が食べ
    てる時、ものすごくキラキラするじゃないです
    か。あれをもう夢っていいんじゃないですか。
中井) そうですね。うちの犬は特にそうなんですけ
    ど、よだれを垂らすわけ。
糸井) ああ、垂らしますね!
中井) だから、人間もよだれ垂らしてった方がいい
    んじゃないかなって気がするんだよね。
糸井) そう!
中井) よだれ垂らしてる人間ってそういないもんね。
糸井) そう。
中井) 何かこうなってる自分みたいなのが、
    いた方がいいなって思う。
糸井) 昔それ、僕、作詞した事あるんですよ。
    「子犬みたいにしっぽがあったらいいな」
    「PATA PATA」っていう。松本伊代ちゃんの歌
    で「PATA PATA」っていう歌があるんですけど。
    B面なんで、みんな知らないんですけど。
中井) ごめんなさい、知らなかった。
糸井) ほぼ知らないですよ、誰も。
中井) ああ。
糸井) しっぽがあってね、俺はそんなつもりはない
    んだけどさ、パタパタパタって。バレちゃう。
中井) 本当に。
糸井) こういうとこぶつかって痛いんじゃないかと
    いうぐらい、振るじゃないですか。
中井) すごいきれいな女の人が入ってきた時に、
    「いや、俺、別に…」って言いながら、
    しっぽが振れてるみたいなもん事でしょ?
糸井) それ。
中井) 「お前、喜んでんじゃねえか!」ってやつね?
糸井) それそれ。あのしっぽとかよだれに自分が
    気がつくかどうかが、その人が、その後嘘つ
    きで生きるか、本気で生きるかの、瀬戸際じ
    ゃないですかね。
気が付くべきですよね?
中井) 俺もそう思う。

**********

中井) 僕はね…男っていうのは、女性に男にされ
    てきたと思う訳。だって、母親から生まれて、
    母親が、男の子を教育する訳じゃないですか。
    それは…母親の理想像の男を作りたいから、
    母親は、「男の子は泣いちゃダメよ」って、言
    われる。母の教えを守ろうとする男の子は泣
    かないように努める。そこには、ある見栄を
    張る訳ですよね、男は。見栄を張る事を女性
    から教えられる。

糸井) ああ…。
中井) そうすると、見栄を張り続けていかなきゃいけ
    ないっていう事は、女性に言われる。だから女
    性の前では見栄を張らなきゃいけないっていう。
    あれが僕らにはまだギリギリあった。
糸井) はあ~!
中井) 今の女の人たちはあんまりそういう教育はた
    ぶん男の子にはしないんじゃないかな。だから
    見栄がなくなっていく。だから俺らは、何となく
    女子の前で、「頑張ります」みたいな。
糸井) それがそうなんですか?
中井) 「気張っちゃいますよ」みたいな。「お金とかい
    いから。俺払うし」みたいなね。何かそういうの
    が、どっかにあるじゃないですか。でも最近の
    子たちは、「割り勘ね、割り勘」みたいになる訳
    でしょ。だから、俺はほら、おやじが早く亡くなっ
    ていたので、おふくろに教育されてきたじゃない
    ですか。だから、幼稚園のころから、家の外で、
    ガタンと音がする…幼稚園ですよ、僕。幼稚園
    生ですよ。「ねえ、貴一。行って見てきて」。
糸井) はあ~。
中井) 一番怖いのは僕ですよ。ところが、「男なんだ
    から見てらっしゃい」って、「男は女を守るのが
    当然だ」と、「あなたが見てらっしゃい」って、僕
    は靴べらを持って外に出るわけです。この靴ベ
    ラを持って、例えば本当に、何かがいた時に、
    何ができるんだって。幼稚園生に…。
糸井) まあ、ちょっと出来ないですね。
中井) だから、そういう事の教えを僕は多分受けて
    きてしまったんでしょうね。どっかにね。だから、
    何かそういうところのその見栄を張ったりとか、
    意地を張ったりとかっていうのは、僕は女目線
    の何かそういうものがあるような気がする。
糸井) 面白いな。そこは、その強さ弱さとかやさしさ
    じゃなくて、面白さの中に組み入れて考えるべ
    きじゃないでしょうか。
中井) そうだね。
糸井) うん。中井さんは、
    そういう「面白さ」を持っている。
中井) そうそう。
    そうしていくと、嫌な気がしないもんね。

**********

中井は、1961年、俳優・佐田啓二の長男として生まれ
た。貴一という名は、映画監督・小津安二郎が付けた。
しかし、大スターだった父は、中井が2歳の時、37歳
の若さで、この世を去る。中井は、大学在学中に、映
画「連合艦隊」で俳優デビュー。父と常に比較される
という重圧を背負いながら、俳優の道を歩み始めた。
26歳で、大河ドラマ「武田信玄」に主演。最高視聴率
は、49.2%を記録した。デビューから34年。押しも押
されぬ、正統派俳優であり続けている。

今、53歳。俳優中井貴一が目指すカタチとは?

中井) ピカソが、最終的には、子供の絵のような、
    非常に抽象的な絵を描くようなったって。ピカ
    ソは最終的にあそこにたどり着いて、非常に
    描写が上手い人で細かい絵を描く事が上手い
    人だったのが、なぜあそこにたどり着いたかっ
    ていう事が、最近すごくよく分かるようになって
    きて。何か、俺が最終的に役者として目指し
    たいのは、棒読み、無表情、これで、すべて
    が伝わる俳優になりたいって。今僕の目指す
    ところはそこなんですよ。

糸井) それは…中井さんが思っているそういう人は
    既に頭の中にいるんですか?
中井) 僕ね、小津安二郎の映画なんですよ。
糸井) やっぱり! そうですよね。
中井) だから…。
糸井) 「そうかい」ってね。
中井) そう。あの…笠(智衆)さんのね、あの、うち
    は小津先生と、近いということもあるんだけれ
    ど、子供の頃は別にその、あの映画に何も感
    じなかった。でも役者をやっていて突き詰めて
    いくと、あそこに行き着くんですよ。で、「やあ、
    どう? 元気にしてる?」「ああ、元気だよ」って
    言ってるのに、そのセリフの奥にものすごい元
    気だったか、会ってない期間がどのくらいあっ
    たのか、広がって聞こえてくる。そこが出るま
    で小津先生はやらせた訳じゃないですか。何
    か、俺は最終的にそこにいきたいなって。でも、
    それは…いろんな事を経験して、いろんな事
    が出来るようになっていないと、ただの下手で
    終わってしまう。で、だから今僕はそこに向か
    うための、自分の中に修得して…いろんな事
    が出来る自分でありたいと思ってる時期なの
    かな、と思ったりもするんですよね。


**********

「あまちゃん」ネタで、「嫁にやさしくしたい」という糸井
さんに笑いました。分かるけどね、そういう気持ち。な
んか義理の父というよりは、おじいちゃん的な気持ち
に近い感じもしたけれど。能年ちゃんをお嫁さんに想
定するからそうなるのかも? だって、私も能年ちゃん
だったら、デパートに連れていって何でも買ってあげ
たくなるもの。甘やかして、可愛がってあげたいもの。
今の年になってこそって思う、すご~く若い子にやさ
しくしてあげたくなる気持ちってあるかもしれないなと。

あの大泣きした議員さんの話も面白かった。そうそう、
あれは反則だった。まさかいい大人があんな泣き方
をするなんて…フィクションじゃ描けない嘘くささだっ
たものw 現実の方が、フィクションを超えて面白すぎ
ることって結構あって、フィクションとしてのリアリティ
ーって、役者さんそれぞれが持っている感覚によっ
て、リアリに感じる境界線は変わってくるのかもしれ
ないんだなあって、そういうことを日々考え悩んでい
る貴一さんって、やっぱり素敵な役者さんだなあと♪

人はね、そんなに好かれない。

貴一さんが、人生が楽になったという言葉。うんうん、
なかなか認めたくないというか、そんなはずはないと
抵抗してしまうのだけれど、そうなんだよね。逆に言
えば、人はそんなに嫌われない…んじゃないかとも
思う。人は、他人のことを自分が思うほど気にかけて
はいないってこと。自分が自分のことを気に掛けるほ
ど、相手のことを考えたりはしない。それは自分が他
人のことを気にかけていないのと同じ。もちろん、特
別な感情(好きとか嫌いとか)を持っている人以外に
はということで。自分がすごく好きになる人の数以上
に自分が好かれることはないと考えてもおかしくはな
いと思うし。でも、人は欲張りだから、自分だけはより
多く好かれていたいと思ってしまうんだよねえ…。ま、
普通はそんなことはないわけで、自分ができる範囲
で仲良くできたらいいかなあと思ったりするこの頃w

母親が「男」をつくるっていう、見栄を張るように教え
てきたっていうのも、なるほどなあって。男らしく、女
らしくって、最初は親から教わるし、ある意味人生初
の呪いをかけられるというか…良くも悪くも、親の影
響って、大きいとしみじみ思う。幼稚園児で家族を守
るため、靴べらを持って戦おうとしたチビ貴一っちゃ
んが愛おしいよ! 今のお母さんたちは、息子たちを
どんな男に育てたいと、育てようとしているのかな?
時代の空気が、その時代の男らしさ、女らしさを変え
ていくのかもしれない。大人のボーイズトーク完全版、
放送してもらってよかった~! カットされたままでは、
勿体なさ過ぎるお話ばかり。ホント、楽しかったです。