☆アメンバー100人記念☆
風月さまよりリクエスト
『カメラマン蓮様とグラビアキョーコちゃん』のお話♡












明くる日からキョーコの生活は一変した。

今まで尚に尽くすために朝から晩まで働き通しだった掛け持ちのバイトは全て辞め、それよりもいい給料を出せるからと、言われるがままにしばらく蓮のアシスタントをすることになったキョーコ。

アシスタントの傍ら、グラビア撮影がどういったものかを常に蓮の隣で吸収していった。


そんな生活を数日過ごしたある日、キョーコが蓮よりも先にマンションへ帰る日があった。

何日か一緒に過ごしてみて、キョーコは蓮の空腹中枢が壊れていることに気がついていた。
また、撮影や移動の合間に摂る食事はとても食事とは言い難いものも多く、当然栄養バランスも決していいとは言えないものばかりだった。


そこで、食材を買って帰ったキョーコは、全く使われていない様子の広いシステムキッチンで夕飯の準備を始めた。

ちょうど夕飯が出来上がる頃、蓮が帰ってきた音が聴こえたキョーコは、玄関先まで出迎えに行く。


(……いい匂いがする……)

食事の匂いに気が付いた蓮。

すると、リビング側からパタパタと小走りでやって来たキョーコ。


「お帰りなさい、敦賀さん!」


「……ただいま……。

  いい匂いがするね?」


「お夕飯を作ってみました。

  あ、キッチン勝手にお借りしてすみません……。」


「いや、それは別に構わないよ。」


誰かに “ただいま” と言って帰宅するのはどれくらいぶりだろう?
ましてや、家に食事の匂いがしているなんて、と蓮は少しだけくすぐったい気持ちを感じた。


見た目も味も然ることながら、少食の蓮が無理なく食べられる量で、出された食事を綺麗に完食した蓮。


「ごちそうさま、とっても美味しかったよ。」


「えっ!本当ですかっ!?」


キョーコの反応に少し不思議に思った蓮。


「ん?本当だけど?」


思ったままの感想を述べただけなのに、と首をかしげていると、


「ショーちゃんには、私の作った料理を美味しいって言われたことなんて……一度もなかったから……。」


少し寂しそうにそう言うキョーコ。


「一体、君の王子様はどんな奴だったんだ……。」


まだ16歳の少女が作ったとは思えない程、こんなに美味しいご飯を、一緒に住んでいて一度も美味しいと言わないなんて、元来フェミニストの蓮には到底想像がつかなかった。


「ショーちゃんは……、かっこよくて、歌が上手くて、いつも皆の人気者で……。

  ホントだったら私みたいな地味な女、ショーちゃんみたいな男の子には相手にもされないでしょうけど、幼馴染みだからっていうだけで仲良くしてくれてたんです……。
  でも、ショーちゃんが歌手を目指して東京に行くことになったとき、一緒に来てって……私を選んでくれた……。」


これだけの仕打ちをされてもキョーコの尚への変わらぬ想いに、その “ショーちゃん” がどうにも気にくわない蓮。


「それなのに、キスすらなかったような関係で……?
  ご飯作ったりっていう家事全般と、生活を支えるための掛け持ちのバイトを昼も夜もしていたの?
  高校にも……通っていないよね?最上さん……。」


「はい……。
  高校の制服を着るのは憧れていたんですけどね。
  ショーちゃんの夢を叶えることだけを考えていたので……。」


「……………………。

  でも、それってーーー


  いや、何でもない。」


キョーコの目を覚まさせたい気持ちもあったが、蓮は続く言葉を飲み込んだ。



 *  *  *  



蓮のマンションの暗室を見て以来、そこはキョーコにとってちょっとした安らぎの場所となっていた。

自由に見ていいと蓮に言われたこともあり、蓮より先に帰ってきた日など、吊るされた風景写真を見ながら、一人穏やかな時間を過ごすのが楽しみになっていたキョーコ。


いつものように写真を眺めていると、小さな台の引き出しが一つ、少しだけ開いていることに気が付いた。

普段は閉まっていただろうと、閉めた方がいいのかと考えながら引き出しに近づくと、中には人物の写真が何枚か入っているのが見えたキョーコは、勝手に見るのも如何なものかと思いながらもそっと手に取った。

すると、そこに映っている人物は、どれも同じ一人の女性。
明らかにプライベートな様子を感じさせるその写真に、キョーコは見てはいけないものを見てしまったと、慌てて元に戻した。


カタンーーー

物音がしてキョーコが振り返ると、蓮が扉の所に立っていた。


「おっ、おかえりなさいっ。」


「ただいま。

  ……どうかした?」


「いえ、別に……。」


余り自身のことを積極的に話しはしない蓮には、とても写真のことは聞けなかったキョーコ。

何もなかったかのようにいつも通り過ごした。



*  *  *  



そして翌日もまたいつものように、蓮のアシスタントとして一緒に行動していたキョーコ。

この日の蓮の仕事は、とある新番組の番宣用のポスター撮影だったため、テレビ局のスタジオを借りた撮影となっていた。


撮影の途中、蓮に頼まれた交換用のレンズを取りに控え室へと向かっていたキョーコは、とても聞き覚えのある声がしたことに気が付き、足を止めた。


「祥子さーん、もう次の雑誌の取材、今度にしようぜー?」


(っっ!!
……この声はっ!やっぱりショーちゃんっっ!!)


キョーコは、尚に会いたいが一心でパーティションの向こう側へと飛び出して行こうとした、
その時ーーー


「ダメよ、尚。
  この間の延期が今日なのよ?
  これ以上先延ばしには出来ないわ?」


(っ!?
一緒にいる女の人……!
この間ショーちゃんといた人だわっ……!!)


祥子の存在に気が付いたキョーコは、飛び出して行こうとした足を止めて、身を潜め聞き耳を立てた。


「ねぇ、ところで尚?
  あの女の子、えっとキョーコちゃんだっけ?
  に押し付けた借金、大丈夫なの?」


「あー?
  大丈夫だろ。
  あいつ毎日ガッツリ働いてたし、何とかしてるだろーよ。
  それに華々しいデビューを飾った俺様が借金苦だなんて、格好つかねーよ。」


「そうよね……。
  でも地元から連れてきた彼女だったんでしょう?
  彼女のところに戻らなくていいの……?」


「彼女な訳ねーよ、あんな胸も色気もねー女。
  始めから家政婦代わりに連れてきたんだからよ。
  あいつは子どもの頃から一方的に俺に尽くすのが唯一の趣味なんだよ。

  俺は祥子さんみたいな女が好きなんだよ。わかってるだろ?」


「んもぅ、尚ったらぁ……。」


……………………。

結局、飛び出して行くどころかキョーコはパーティションの奥から身動きが取れなくなっていた。

尚はそんなキョーコの存在には全く気づくことなく、そのまま祥子と共に去っていった。


するとーーー


「最上さん……?」


背後からの声にぴくりと肩を震わせたキョーコは、何事もなかったかのように応じた。


「すみませんっ!すぐ取ってきますっ!」


「いや、やっぱりさっきのレンズ、MFじゃなくてAFで…………
  って、聞いてる……?」


蓮に背中を向けたまま、下を向いているキョーコ。

キョーコの様子を伺うため蓮が覗き込もうとするとーーー


「…………て下さい……。」


「え?」


「撮って下さいっ!

  私を…………。」




⇒ 密室の写真撮影 (7) へ続く


web拍手 by FC2