■FIFINE K8

おそらく国内のプロ音響技術者には現時点でほとんど知名度が無いであろうマイクブランド、FIFINE(ファイファイン)社のダイナミックマイクです。ハードオフのジャンク箱の中にありましてお値段は1000円でした。手に取ってみるとずしりと重く、金属製で造りが良さそうに見えたので興味が湧いて購入したものです。


ネットで調べてみたところ、FIFINEは中国の新興マイクメーカーで、K8の他にUSBコンデンサーマイクなどの製品があり、動画サイトでゲームの実況配信などを行っている人々の間では「安くて品が良い」と評価されている模様。K8はマイクケーブルなどの付属品とセットで2,900円で買える安価なマイクでした。しかしClassic Pro CP5やベリンガーのXM8500と比べても明らかに重い。

Amazon FIFINE K8販売ページ


肝心の音ですが、後述のSAMSON R21SやAudio Technica AE4100と比べた所、低音が豊かで高音はさほどうるさくなく、少し暗めでどっしり系の音です。トークPA用途だとR21Sのほうが明解で元気な音になりますが、他の2本よりも指向性が鋭く、自宅からの実況配信用にマイクを固定して使う用途としては不要な音を拾いにくく、確かに悪くはないなと思いました。しかしこの個体、発振音のような非常に微小なノイズが常時乗っています。分解して内部の配線を別のケーブルでバイパスしてみましたが改善しません。カプセル起因なのだろうか。



カプセルはSM57/58系よりも大口径で低音を拾うようです。R21Sでは拾わない50Hz位のハムノイズもこのマイクは拾います。グリル内側のスポンジも厚めです。


内部はがらんどうで共振対策は特になし。このマイクが重いのは金属製の胴体部分によるものです。


アマゾンの販売ページでは新品購入時に付属のマイクケーブルについて図解入りで高品質であることを強調していますが、

外から見えないマイク内部の配線には特に高級感が無く、28AWGの線数のまばらな細いシールド線です(マイクの音声信号は微弱なので線材として不足しているわけではありません)。デザインの良いスライドスイッチは半田付け後に胴体にはめ込んだものらしく、外し方がわからない。無理やり取ると爪など折れそうなので、スイッチを活かすためにやむを得ずケーブルはそのまま使います。

アリエクで使えそうなマイクカプセルを眺めていると、これと同一とおぼしきカプセルを発見しました。

jWin Store(https://www.aliexpress.com/store/715108)


アリエクで販売されている交換用カプセルとしては珍しく詳細な特性表示があり、これが密林のK8販売ページに記載の特性表記とほぼ一致します。

・カプセル販売ページの表記


・K8マイク販売ページの表記


中国の音響機器メーカーは海外製品の委託製造をしているうちにコピーを製造するようになるパターンが多いので、もしかするとこれも元になった有名マイクメーカー設計のカプセルがあって、そのコピー品なのかもしれません。メーカーとして記載されているCoolVoxはダイナミックマイクのカプセルを多種販売しているブランドです。このカプセルは同ブランドのカプセルの中では高価な部類に入り、輸入すると送料込みで2000円近く。新品が2900円と知った以上、購入を躊躇する値段ですが、

好奇心が勝り、取り寄せました。発注から3週間ほどで届きました。写真では同じものかと思っていましたが、届いた品をよく見比べるとまったく同じではありませんでした。


レゾナンスキャップを通して見えるダイヤフラムとその奥の模様が異なります。


赤ぽちがホット側の印と思いますが基板の向きを基準にして見ると逆。しかし似ている。


元々カプセルを円筒に押し込む部分には抜けにくいように両面粘着テープ状のものが巻いてあったので、それにならって自己融着テープを巻いて押し込みました。突出部は交換後のほうがやや短くなりました(ダイヤフラムが口元から少し遠くなった)。


カプセル交換後、発振音のようなノイズは消えました。が、ハムが乗ります。音質は交換後のほうがわずかに低音の厚みが薄れ、すっきり寄りの音になりました。

このマイク、分解時に配線がアンバランスになっていて、XLRコネクタの1番がグランド(&コールド落ち)、2番がホット、3番は未接続でした。自分がケーブル交換を試した際に間違えたのかと思って初回分解時の写真↓を確認しましたがそのようになっています。新品を分解したわけではなく中古品なので、もしかすると前の持ち主が改造したのかもしれません。


出力コネクタのピン部の材質が華奢で、何度か付けたり外したりしているうちにネジ穴周辺のプラスチックがボロボロと崩れて胴体内でピンが斜めに傾いてしまい、マイクコードのプラグがスムーズに入っていきません。ツイッターでもマイクメーカーの方からご指摘をいただき、結局、ピン部を別のコネクタから移植し、1番フレームグランド、2番ホット、3番コールドで配線しなおしました。


ハムノイズの混入は最初の状態より改善し、なんとか実用になるレベルに。しかし、やはりノイズに敏感で周囲の電磁波の影響を拾いやすく、若干ケーブルや相手機材を選ぶ印象が残ります。元々インピーダンスもカラオケマイクと同じ600Ωで、個人の自宅でホルダーに固定して短い配線で静かに使うなら良いのでしょうが、ノイズ源が多い場所や、取り扱いが乱暴でケーブルを長く引っぱるライブ等の現場で使うには少々不安が残りました。

(がんくま)