ペンシル型SDCマイクいじりの4本目です。このジャンルSHOEPS,DPA,NEUMANN等の高級機を除けばAKG C451,SHURE SM81,RODE NT5あたりが定番でしょうか。どのマイクメーカーも製品を出していて商品層が多彩な分野です。個人持ち機材ではM-AUDIOのPULSER-IIを便利に使ってきましたが選択肢が増えました。

■TOA K4 Condenser Microphone
TOAのKシリーズマイクはK1~K4/KYまで5機種があり、K4/KYが最終型です。同社のマイクは店舗や公共施設などの設備用、学校の授業や会社のセミナーでのスピーチ用に販売されている印象があり、私はスタジオ録音や放送局の制作現場でこのマイクが使われているのを見たことがありません。しかし実物や説明書を見るとこのシリーズは楽器や声の高音質録音を狙ったスタジオ用の汎用マイクとして作られています。販売時期は1990年代前後ではないかと思われますがはっきりしません(説明書がすべて東亜特殊電機名義になっているのでK4の発売は社名がTOAに変わる1989年より前と思われます)。


メーカーWebサイトに資料が残っています。
K1 取扱説明書・製品仕様書
K2 取扱説明書・製品仕様書
K3 取扱説明書・製品仕様書
K4 取扱説明書・製品仕様書

読んでみるとK1/K2/K3は乾電池とファンタム給電共用で4μmの金蒸着ダイアフラム、K4は2μmの金蒸着ダイアフラムになりファンタム給電専用で出力レベルが強化されています。K1〜K3までは説明書にバックエレクトレットコンデンサー型と記載されていますがK4/KYはコンデンサー型としか記載されていません。

面白いのはフィルター特性に対する考え方で、K1はPrimo/SONY/AIWAのマイクに見られるものと同じでVOCAL(HPF)/MUSICの切換スイッチが本体に付いていますが、K2とK3ではこれがそれぞれ単機種になっていてK2がボーカル用、K3が楽器用です。K4はこれをカプセル交換で行い、楽器用(KMM)カプセルが標準添付、男性ボーカル用(KMV)と女性ボーカル用(KFV)のカプセルが別売り購入となっています。

KMV/KFV 取扱説明書・製品仕様書

KYはK4の変型版で回路は共通ですがグリップ部分に回路を移し本体部分を小さくしたもので実質的にはK4と同じです。カプセル部分の形状も異なるのでKMM/KMV/KFVにあたるものはYMM/YMV/YFVになるようです。

KY 取扱説明書・製品仕様書
YMV/YFV 取扱説明書・製品仕様書

入手した個体には標準装備のKMMカプセルが付いていました。オプションだったKMV/KFVカプセルって世の中にどれだけ現存しているのだろうか?


海外サイトでダースベーダーのマスクと表現されていた専用風防。個性的な外観に反して性能は良く、音色を損なわずにスッキリした音になります。


しかし経年でプラスチックにヒビ。


風防の内側にはスポンジが入っており、あと数年で自然崩壊しそうです。Φ21mmのペンシル型マイク用の汎用スポンジ風防が付けられるので、そのほうが見た目は普通になるけれど。



乾電池式のECMマイクと比べると出力レベルが10~15dBほど大きく現代主流のマイクと同等に使えます。が、1本だけ出力レベルが低いです。カプセル側には異常が無いとわかりましたので本体側を分解しました。ボディは金属製で胴内の基板が絶縁のため熱収縮チューブでシュリンクされています。



今回の一連のレトロなコンデンサーマイク記事の中では部品点数が多く複雑な回路です。海外記事でこのマイクがprimoのOEMではないかと書いている方がいましたが、本体基板の造りを見る限り、そうは見えないです。



基板裏に10pFのセラコンがありますが、別の個体には無かったので発振対策かもしれない。


スイッチの取付ネジ穴の片方はネジではなくLEDになっていてトークONの時に赤く光ります。ファンタムが通電していても出力がONになっていなければ点灯しません。このLEDの根本がスイッチ操作の振動でハンダ不良になり点灯しなかった個体がありました。


正常動作する個体はファンタム通電後15〜20秒くらいするとふわっとゲインアップしますが、出力レベルが低い不調な個体は最初から小さく音が聞こえているもののゲインアップせず、そのまま15分ほど放置しているとレベルが回復しています。そこでまずは電源の安定化用と思われる100uF/10Vの電解コンデンサー(ELNAセラファイン)を交換してみましたが改善せず。

 
電源電圧を追うために回路図を書いてみると、ファンタム電源の安定化に2SK30Aと2SC1775E、BIAS制御用に2SC1775E、カプセル受けと音声増幅に2SK170/2SC2602/2SA1114という構成で、今となっては希少なトランジスタが使われています。


2SK170の入力(Gate)側は基板を通らず足を後ろ側に折り曲げて直配線。


最初電源回路を疑いましたが、結局原因は2SC2602/2SA1114周辺のハンダ不良でした。


この手の接眼ルーペで見てやっともしかしてここかな?という位で回路図から場所を追い込んでいかないとわからず時間がかかりました。


出音は当初コンプ感(波形の上下端が潰れる感じ)があってナチュラルではなく低音寄りの鈍くて厚い印象でしたが、これは古くなったセラファインの寝起きが悪いせいらしく、しばらく通電したまま放置していると多少まともな音になります。修理のためニチコンKTに交換したものはファンタム電源通電直後のゲインアップの立ち上がりが速く出音自体もナチュラルで、スモールダイアフラムのマイクの用途を考えるとKTに交換したほうが良さそうです。修理後、可聴帯域外にあるノイズ(17Hz位)の原因検証のために元のセラファインに戻しましたが、サイズ的に入るならエージング後に高域のヌケが良くなるSILMIC2にしても面白そうです(と思ったのですがSILMIC2の16V100uF品だと大き過ぎのようです)。


このマイク、前述の説明書を除けば国内にも海外にもほとんど情報がありません。また、現在のTOAにはこのジャンルの後継機種が無いようです。Kシリーズのマイクは日本より海外のほうが中古品が出るようで、海外サイトではSHUREのSM81と比較されていました。メーカー資料によるとSM81のほうが周波数特性がフラットでK4は高域にピークがあります。TOAは日本の老舗音響メーカーですが海外でのブランドイメージはおそらく後発で、マイクはあまり信用が無かったと思います。もしかすると海外への切込みを狙った製品だったのかな?などと想像が広がります。

(がんくま)

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