USB-AudioとBluetooth機能を搭載した中国製の安価なミキサーBOMGE BMG-04Dを購入しました。



ここで言う所の中華ミキサーとは、欧米の既存音響ブランドが設計したものを中国が製造したOEM製品ではなく、現地ブランドが自社製品として設計製造したものです。数年前の『YAHAMAes事件』(見た目がYAMAHA MGシリーズにそっくりな中国製アナログミキサーがYAHAMAesという紛らわしいブランド名で販売されていたがYAMAHAから訴えられたらしく消えた。ただし作っていたと思われるメーカーはD*b*a Audioというオリジナルブランドで今なお健在)以来、ネタとして面白おかしく追っていましたが自身で購入に至ったのは本機種が初めてです。しかし、思わぬ落とし穴が・・・。

【スペック】
2ch Mic/LINE入力(+48Vファンタム電源対応)
2ch LINE/RCA入力
2ch XLR/TRS/RCA出力
USB-Audio/Bluetooth-Audio録音・再生機能(条件付き)
USBメモリーへの録音・再生機能
内蔵DSPエフェクト
USB電源端子によりモバイルバッテリーやバスパワーでの動作可能

デザインは悪くないと思う。小型軽量で、BEHRINGERやMACKIEやPHONICなどの各社から出ている小型ミキサーと似たような製品です。BMG-04Dは2021年頃には既に販売されていたらしく、後継はBMG-04F。違いはDSPエフェクトの数が24個に増えたのと外形デザインが少し変わった程度で大きな違いは無い模様。説明書も共通です。BMG-04D/Fと同じく筐体がプラスチック製で6ch入力のBMG-06D/Fと、鉄製で10~12chのBMG-10M/BMG-12Mがあります。最も安いBMG-04Dは送料込みで6千円程度。AliExpressで買うとセール時4千円台ですが送料を考えるとAmazonで買っても似たような価格で、ならばと3日で届くAmazonで購入。


都内から発送されて注文から3日で届きました。


■開封


横から見るとこんな感じ。


電源端子がMicro-USBであることに耐久性の不安がありましたが、届いたものはUSB-Cになっていました。USB-CからUSB-Aへの変換ケーブルとUSB電源アダプター、英文説明書が同梱。日本語(がちょっと怪しい)説明書はAmazonの商品ページから誰でもダウンロード出来ます。付属のUSB電源アダプターは高容量タイプで、試しにスマホで使うと7Wクラスで充電できましたが結構発熱します。



早速通電しBluetoothで鳴らしてヘッドホンで聞いてみると、ちゃんと音がでるし想像以上にホワイトノイズが少ないです。ヘッドホン端子が3.5mmのミニジャックですが、マスターフェーダー(MAIN OUTのボリューム)とは完全に独立していてC-R LEVEL的な使い方もできそう。


1-2chがコンボジャック入力のMic/Line inで、3-4chがLine in/USB-Audio in/Bluetooth inの排他切換。1-2chのファンタム電源スイッチがchごとに独立していることや、3-4chに全入力に対応するHA Gainがあることにも好感が持てます。


ボリューム部品が基板直付けでケースには止まっていないため、ツマミが若干グラグラしますが、コネクタ類のぐらつきは皆無で抜き差しに不安を感じません。


早速マイクを繋いでみました。出音は普通のオペアンプの音という感じで特に良いという気はしませんでこんなもんか?内蔵エフェクトが16種類ありますが全部ディレイ系でPLATE/HALL的なものは無くカラオケ用という感じ。


電源のUSB-Cと本体上面のUSB-A端子はつながっていて、背面のUSB-C端子の横のDIP SWでPCと接続するかUSBメモリーを挿して使うかを切り替えます。


PCとUSBで接続すると"JieLi-BR21-spker"という名前の2in/2outのUSBクラスコンプライアントデバイスとして認識され、DAWで再生や録音も一通りできました。

■アナログ出力のレベルが低い?
ここまでは良かったのですが、同じように廉価な小型ミキサーの定番機種、BEHRINGER UB502と比較するとTRS/XLRメイン出力のレベルがだいぶ低い気がします。音はBMG-04DよりUB502のほうがシャリっとした印象ですが、それ以前に音量がでかいのでどうしても印象が良くなります。


ポータブル測定器のPHONICのPAA3を使って測定してみました。PAA3の入力インピーダンスが不明ですがハイ受けと思われますので3KΩ以上と思います。取説記載値によるとUB502のメイン出力のインピーダンスは約120Ω(ただしアンバランス)、BMG-04Dも120Ω(バランス)です。


出力を調べる前に1ch XLR Mic inにSGから1kHzの正弦波を入力し、Peak(以下PK) LED(赤)が点灯するレベルを調べます。両機種とも入力ボリュームや出力ボリュームを上げずとも入力レベルが一定値を超えると点灯しますのでPK LEDはHAの飽和を示します。UB502はHA GAINを左側回し切りのMinimum時に+2dBmを超えるとはっきり点灯しますが、そこから聴感上で歪みを感じるまでは3~4dBm位のマージンがありました。

BMG-04Dも同様にHA GAINを左側回し切りの時、+2dBm入力でかな~り薄暗く点灯し始め+3dBmで暗く点灯、+4dBmではっきり点灯しました。ただし聴感上の音は+2dBmでも若干歪みを感じます。両者とも入力PK LEDはしっかり機能していますがBMG-04Dは点灯すると確実にレベルオーバーです。

続いて出力レベルを測定。UB502の本体のメーターは思ったより正確で、当家の実測で0位置の緑LEDは出力値+0.6dBuから点灯し始め、出力ボリュームセンタークリックの12時位置で+4.6dBu、更に入力ゲインを上げていくと+6.5dBuで6位置の黄色LEDが点灯し、+18.4dBuでCLIPの赤LEDが点灯しました。

BMG-04Dのメーターは省略されていてPKの赤LEDとSIGNAL(以下SIG)の緑LEDしかないので規定レベルがわかりません。


試しにUB502と同様にマスターボリュームや入力ボリュームをセンター位置に合わせて使おうとすると入力PKが点灯するレベルでもメイン出力が低すぎてSIG LEDすら点灯しません。マスターボリュームのセンタークリックには特に意味が無いようで、基本的に右側に回し切って使うようです。SGの出力を上げていくとSIG LEDは出力値0dBuから点灯し始め+1dBuで明るく点灯、そこからマスターボリュームを右側へ回し切っても+2.6dBuで、更に入力を上げていって+5.5dBuでPK LEDが点灯し始め+7.5dBuで明るく点灯します。XLR OUTの出力音を聴いている限り+7dBuより上だと聴感で歪みを感じるので、右側回し切りの時、入力と同様にPK LEDの表示は正確ですが+4dB機器としては出力性能がしょぼいです。0VU=+4dBuでVU計を振らせた場合、+3VUから先は歪んでしまうということですし、取説記載記載の定格ではXLR出力で+28dBu(@120Ω)まで出ることになってますが、とてもそんなレベルには行きそうにありません。UB502のほうがだいぶ出力に余裕があります。

USB-Audio側はどうでしょうか。3-4ch(USB/Bluetooth in)のHA Gainが0位置(10時)で3-4chボリュームとメイン出力ボリュームが共にクリック(12時)の時、USB接続したDAW内のOSCで1kHz正弦波を出力すると-6dBFSからミキサー本体のPK LEDが点灯し始め、0dBFSで明るく点灯します。BMG-04Dから音を送る場合もミキサー本体のPK LEDが点灯する時にDAWのメーターが0dBFSになります。しかしメイン出力ボリュームを右側へ回し切りだとDAW側では本体のSIG LED点灯時でもrmsで-7dBFS(peak-3.5dBFS)、PK LED点灯時でrmsで-2.4dBFS(peak0dBFS)になってしまうので、USB経由で録音する場合は出力ボリュームをセンタークリックか、それ以下で使ったほうが良いことになりますが、そうするとアナログ出力がかなり低い状態になってしまいます。ちぐはぐ感があります。

■分解してみた
保証が効かなくなるとわかってはいるのですが、中を見てみたい誘惑に勝てず分解してみました。裏蓋はネジ4本を外せば簡単に開けられます。


唯一裏から見える正方形のICは基板にANT表記があるのでBluetoothかな、と思いましたが、ここだけ別基板になっています(後述)。



謎だったのは基板にLGR表記があるにもかかわらず3線ではなく2線しか配線されていない所。


表側の各ボリュームのツマミとTRSフォンジャックをパネルに取り付けているナットを外し、裏側から基板をケースに止めているネジを外しましたが外れません。コネクタ類が並んでいる場所のシールを剥がすと表側から隠しネジで止めてありました。なるほどコネクタがぐらつかなかったわけだ。これはこれで好感のもてる設計ですね。


基板全景。集積度もそこそこ高く基板の質はさほど悪くないと思います。はんだ付けも微妙な部分がないわけではないが、値段からすると概ね良し。電解コンデンサーは中華1073クローンのAlctron MP73x2でも使われていたSUQIAN HUAHONG Electronic Industrial Co,Ltd(宿迁华虹电子工业有限公司) CD110が大半で、少しだけHyncdz(Shenzhen Hongyuan Nachuan Electronics Co.,Ltd 深圳市宏远纳川电子有限公司)製が混じっています。


各所のアナログ信号増幅用オペアンプは全部JRC4558のようです。音を聴いた時点でも典型的なオペアンプの音だな、と思いましたが納得です。BEHERINGERは同様の用途でひたすらNJM4580を使うので音の傾向が違います(4580のほうがやや派手)。




USBの+5Vから正負15Vを作っていると思われる箇所。ICはMC34063ACです。USB入力から正弦波を再生するとごくわずかに音が揺らぐので、ここが原因なのかPCから供給している電圧が悪いのかは不明ですが電源の安定度が少し弱い印象を受けました。


同じICが出力XLRジャックの裏にもう一つあります。ファンタム電圧用でしょうか?しかしMC34063ACはデータシート上だと+40Vまでしか出せません。


ここはコネクタ類の下になる所で、コネクタが後付けになっています。回路を追うなら外さないといけません。


最も大きなICはTaiwan Memory Tech.のT62M0001AというSRAM内蔵のDSPです。内蔵のディレイエフェクトをかけているものです。横のICはSTCの11F04eという8bitマイコンです。


購入前はUSB AudioにBEHRINGERのXENYXと同じようにV2902(PCM2902の中国版)を使っているのかなと思っていました。しかしそれらしきICは見当たりません。実際には最初に裏側から見えた小さなチップがBluetooth/USB-Audioの統合チップでした。


JieLi(珠海杰理科技)という中国のファブレスメーカーのチップです。なるほどこのロゴはJCではなくJLか。デバイス名が"JieLi-BR21-spker"なのも納得。型番が読めないので(チップ表面の文字列はロット番号であって型番ではないらしい)ほぼ同等品と思われるICのデータシートをいくつか読んでみましたが凄く多機能です。



上記はAC6925Aの例ですがなんとFMチューナーの機能も内蔵しています。これで液晶にFMと書いてある理由がわかりました。この部分だけ別基板になっているのは、このチップ用の汎用基板なのではないかと思いました。シルク印刷のANTはFMアンテナ用なのでしょう。USB/Bluetoothで鳴らせる廉価なホームオーディオ用アンプ用のICをミキサーに転用しているようです。より小規模のAC6963Aでもこれ。



ところでデータシートを見ていて気になったのが、アナログ出力こそ2ch Stereo DACになっているものの、入力が1ch ADCでモノラル仕様な点。あ、そういえばあの配線・・・。


RCA端子の下あたりから延びるLchとGNDだけの配線、追うとUSB/BT基板のマイク入力(モノラル)につながっていました。え、もしかすると再生系はステレオ音声だけれど、USB/Bluetoothヘ送れるのはモノラル音声だけってこと???


そういえば、このミキサー、1-2chにもPANのツマミがありません(一見PANのように見えるのはDSPエフェクトへのSENDです)。


■衝撃の事実が判明
確認してみました。PC側では2in(L/R)として認識されるけど、DAW上の1-2chには1ch/2ch/3chがモノラルミックスされた音がデュアルモノで送られて、4chの音は行かない(3chへの漏れ音程度は行くが、3-4chをL/Rステレオ音声としてPCへ送ることは不可能)という事実が判明しました。つまりこのミキサー、Bluetooth/USB-Audioインターフェースとして使った時は絶対にモノラル録音しかできません。ああ・・・同人オーディオドラマの現場録音用に1-2chをパラでDAWに送って録音する目論見がここで完全にハズレてしまった。販売ページには「ステレオレコード」って書いてあるのになあ。USBで繋いだ時にゲイン感がちぐはぐなのも、ライン入力端子ではなくマイク端子だとわかればなるほどとも思う。

配信用やビデオ会議用にBluetoothやUSBへモノラルで出力する用途ならこの仕様で使えると思いますが、まともなミキサーとして使うにはアナログ出力も弱いので、残念ながら当家では使いみちが無くなってしまいました。

(がんくま)