2007年発売と今更な機種ですが、2022年の2月頃に筑波のハードオフで中古品を購入。常設機として使い始めました。


Windows11 64bit
Driver Version 2.07rc1(最新)
Fiemware Version 1.02(最新)


2022年夏頃から

・再生音に時々パチッとノイズが出る。
・PCからUSBを通しての認識が時々外れることがある。

という症状が出始めました。最初のうちは電源を入れなおせば使えたので気にしておらず、古いドライバとWindows11の相性があまり良くないのかな、と思っていました。が、さらに半年経つと症状が完全に悪化。

①電源ONして約20秒後に電子ノイズ混じりのザーッという耳障りなノイズが出る。
②再生音にパチパチバチバチと激しくグリッチノイズが混じる。
③PCからUSBを通しての認識が外れる頻度が極端に増え、まったく認識されない時がある。
※ノイズはMONITOR MIXをCOMPUTER側にした場合に聞こえてINPUT側にすると聞こえない。

電源を入れなおしても症状が改善されず、まったく使い物にならなくなってしまいました。ネットで検索すると国内外で同様にグリッチノイズが発生する例があるようですが修理に成功したという話は見当たりません。おおむね10年くらい前の話でその時点で使うのを諦められてしまったのかもしれません。

■対策の結果、使えるようにはなったが・・・
US-1641の内部。


最も面積が大きいのが緑色の「アナログ基板」で、入力のXLRコネクタ、入出力の増幅部と電源のレギュレータIC等が載っています。


AC100VをDCに整流する茶色の「パワー基板」。


SPDIF/MIDI/USBインターフェースと本体の制御マイコンが載った緑色の「メイン基板」。


背面のTRSフォンジャックが付いた上下2段の茶色い「出力ジャック基板」。


アナログ基板の上にある小さな「9ch入力ジャック基板」。


この他に「ヘッドホンアンプ基板」とフロントパネル裏の入出力ボリュームが並んでいる「コントロール基板」の合計8枚の基板があります。分解前は電源部分の電解コンデンサーかレギュレーターICが劣化して電源の電圧が下がったり、リップルかスパイク状のノイズが乗るようになったハードウェア故障ではないかと想像していました。アナログ基板のレギュレーター部にオペアンプの電源となるオーディオ用のA+12V/A-12VとA+5V、デジタル汎用+5Vと+3.3Vのテストポイントがあったので測定してみたところ、


A+12V(TP12) +12.59V
A-12V(TP11) -12.03V
A+5V(TP10) +5.00V
D+5V(TP14) +5.06V
D+3.3V(TP16) +3.36V

と電圧は正常範囲で、オシロスコープで波形を見てもリップルやスパイクノイズは見られず、いきなりアテが外れてしまいました。ちょうど症状①の「パチパチザーッ」というノイズが出ている状態だったので、色々と調べてみます。

・1chは必ず出て非常に大きなノイズ。
・2chは出たり出なかったりだが出れば1chと同じ音。
・3chにはノイズが出ない。
・4chには電子ノイズ的な雑音が出るが、音量は1-2chと比べると低い。
・メイン基板の電源ケーブルを抜くとノイズが消える。
・メイン基板からアナログ基板へのフラットケーブルを抜いてもノイズが消える。
・上記2本のどちらかのケーブルを抜いた状態で電源ONしてもノイズは出ない。

このため、アナログ基板上にあるICがノイズの原因である可能性は極めて低いと思います(まったく可能性が無いわけではない)。

メイン基板には機種名のシールが貼ってあるFLASH ROM内蔵マイコン(ATMEL ATmega8515 TQFP)の他に、USB通信ICのNXP ISP1583BS、SPDIF通信ICのAKM4114VQと、内蔵クロック用の水晶発振器等が搭載されています。


アナログ基板のレギュレーター部から汎用5Vと3.3Vが4Pinフラットケーブルで配線されており、安定化用にそれぞれ47uF/16V(C57)と47uF/10V?(C56)の表面実装型電解コンデンサーがあります。4pinコネクタの左側にある2pinのコネクタはフロントパネルのUSB LEDへの配線用です。


テストポイントの電圧は正常ですが、波形にはほんの僅かにノイズがあるようにも思われました。しかし測定ノイズかな?と思う程度で、これが原因だという核心が持てません。とはいえUSBの認識が外れるのは明らかにこの基板上のICの動作に起因していると思われるので、対処療法としてC56とC57の2つの電解コンデンサーを交換してみます。なお、基板上に指で触って暖かいと感じるようなICはひとつもありません。元々付いていたものよりも容量を増やし、100uF/25Vに交換しました。


交換後、②と③の症状は出なくなったように思われます。しかし、①の症状は相変わらず発生します。メイン基板には各種クロックのテストポイントがあるのでオシロスコープで見てみましたが、ノイズ発生時と正常時で変化が出るようなものはありませんでした。MCLKを見ると本機種はUSBを接続しない単体起動時にfs96kHzになるのではないかと思われました(96kHzx256=24.576MHz)。私が通常利用している時はfs48kHzかfs44.1kHzでしか使っていないので、96kHz動作にノイズの原因があるのだろうか、とUSB接続で96kHzに切換えて再起動してみましたが、USBで認識している状態であれば96kHzでも起動時・再生中共にノイズは出ませんでした。




はっきりとした原因がわからずもやもやしますが、その後3週間毎日使い続けても②と③の症状は一切出なくなりました。ノイズが出るのはPCと接続が無く単体で電源ONした時だけで、起動時にUSB経由で認識した後ならPCをOFFにしてもノイズは出ません。念のためメイン基板上の他の4.7uF/25Vのコンデンサ5個(C25/C27/C38/C39/C41)を10uF/50Vに、



アナログ基板上の5V/3.3Vレギュレータの出力平滑用C268/C271 47uF/10V?を同容量品で交換しました。



残念ながら①の症状が改善しませんが、私は本機をUSBで繋がずに単体で使うことは通常無いので実用上の問題は無くなりました。US-1641の出力にアンプやスピーカーを常時つないでいる場合はPCの電源を入れずに本機の電源を入れた時に爆音ノイズで機器を痛めてしまう可能性があり気持ちの悪さは残ります。USB通信が確立しない場合に何らかの理由でメイン基板側からI2Sで送られたノイズのデータをAKM4384ETが忠実に再生しているのではないかと思うのですが、こうなると自分の手には余ってしまい原因を追及することができません(後述)。

■内部各所を見てみる
本機は24bit96kHzに対応した多ch入出力のUSBオーディオインターフェースとしては発売当初から4万円を切った廉価機でした。後継機のUS-1800は同じ構成で更に廉価になり3万円を切っています。アナログ入力部は2SA1048/2SA1084/2SC5395とNJM4580によるディスクリートです。



A/DはAKM5381ET、D/AはAKM4384ET、



オペアンプはBEHRINGERの機器でも多用されるNJM4580で、やはりこれを大量使用するのが廉価機の音質とコストのバランスでは最適解なのかなと思います。


9ch/10chはフロントパネルから見ると上下にTRSジャックが並んでいるのでステレオで使いたくなるのですが、良く見ると単品基板の9chとアナログ基板上にある10chでは使われているコンデンサー等に差異があるようです。背面のTRS入力はNJM4580受けですが9ch/10chだけはハイインピのギターを接続する想定のためかNJM072BD受けになっていました。これも分解して眺めてみるまでわかりませんでした。


個人的な感想ですがアナログ基板は良く練られて作られているように見え、値段以上のものがあると思います。他方、アナログ基板以外は必要最小限という感じ。

ヘッドホンアンプ部。ここはとてもシンプルです。回路図を見る限り後継機のUS-1800のほうが良くなっているように思います。


さほど不満があったわけではないのですが、せっかく開けたので蓋を閉める前にコンデンサーを交換改造してみました。フロントパネルを外さなくてもネジ3本外せば基板だけ引き抜けるので作業はしやすいです(でもランドは弱い)。SAMXCON 22uFをMUSE BPに。


高域と超低域が出るようになりましたが、若干堅苦しい音になりました。元々付いていたSAMXCONも中低音が気持ちよく聞こえてシャラシャラ感の薄いFineGoldといった感じで悪くは無かったです。SAMXCON(萬裕三信電子有限公司)は香港のメーカーで歴史が長く、廉価機とは言えTASCAMが採用しているので信用があるのでしょうか。改造は気分転換ということで。

修理にあたり出力音を録音していて気付いたのですが、本個体は通電直後や96kHzに切り替えた時に若干音にビビリが付く傾向がありました。極めて僅かですが音量も変動しました。経年によるものかもしれませんが、再生音を録音に使う場合は通電後5~6分は何らかの音源を再生してからのほうが安全と思います。本体内蔵のクロックは若干丸い落ち着いたトーンの音で、SPDIFから外部クロックを入れたほうがシャッキリして輪郭のある音になります。TASCAM製品の常として現行機種では無い古い機種のドライバーサポートが早々に打ち切られてしまうので本機種もWindowsではかろうじて使えますが、最近のMacでは使えません。ここだけはなんとかして欲しいと昔から強く思っています(新製品でも他人にお奨め出来ない)。

■TASCAM US-1800のノイズ問題から
US-1641と機能がほぼ同じ後継機US-1800についても調べてみたところ、同様にグリッチノイズが出る例があることがわかりました。US-1800はネット上で回路図が入手できますので眺めてみました。US-1641がAC電源内蔵なのに対してコストダウンのためか外付けAC-DCアダプタを内部で分圧・昇圧するようになっているようで、この電源部の汎用5Vを作る回路の素子(Q3 RSL020P03 MOS-FET)がショート破損してしまい、5V動作前提のマイコン(ATmega8515)に12Vが印加されることでじわじわと焼けてしまうのがノイズの原因だそうです。

引用元: Tascam US-1800 not working(Sound On Sound)

ノイズが出るようになったUS-1800では付属のDC12Vアダプタの代わりにDC9Vアダプタをつなぐと何故か正常に動く、とか、内部からプラスチックが焼けるような匂いがする、とか、開けてみるとマイコンの上に貼ってあるシールが茶色になっている、といった悲しい報告が散見されます。こうなってしまうとATmega8515をリワークで貼り換えて何らかの手段でFirmwareを焼き直さないと完全に使用不能になってしまいますが、買った値段を考えるとそこまでする人はそうそういないでしょう。

US-1641の場合、内部が焼けているという話は見かけません。しかし以上の話から推測するに、もしかするとUS-1800と同様にマイコンが「壊れかけ」なのかもしれません(現物を見る限りメイン基板用の5Vを作っているのは一般的な三端子レギュレータNJM7805DLで、見ている間は正常電圧でしたが)。US-1800の回路図を見るとADCのデータはISP1583BSへ直接流れますが、DACデータは必ずATmega8515経由で、しかも1-2chと3-4chは経路が異なります(3-4chはパラレル出力された後シフトレジスタを通ってシリアル化される)。US-1641も同じでしょう。この辺にも1-2chと3-4chでノイズに違いが出る原因があるのかもしれません。いずれにせよこの推測が当たっていてATmega8515内部の問題だとすると完全修理はちょっと厳しい。気休めで最新Firmwareを焼き直してみたものの症状は変わらず。まだ3週間使えただけなので、今後再び症状が進行する可能性もあり得るな、と思っています。

こうして調べてみるとUS-1641やUS-1800のレビューに「ドライバが不安定」と書かれているのは実際にはドライバには問題が無く、ハードウェア故障だったのではないでしょうか。私の個体は電解コンデンサーの交換により現状まだ使えていますが、もっと症状が進んだ個体ですと同じ修理方法を試しても改善しないかもしれません。US-1641/US-1800をまだ使っている方は、少しでもノイズや認識不良の現象が出たら即座に利用を止めて内部の電源電圧を確認し、症状が軽いうちに修理されることを推奨します。また、中古機の場合、通電確認だけ音出し確認無しだと状態がわからない機種として考えたほうが良いでしょう。

※本記事を参考にした修理や改造は自己責任でお願いします。

(がんくま)