留袖。
昨年の話から入りますが2022年度INAMURA奉納の稽古をしようと大島紬と黒留袖で仕立てた濱口梧陵の衣装を保管箱から出しました。よく見ると、至る所に破れが。古着の大島紬をリメイクしたのが5年前。黒留袖のズボンに関しては10年は超えてます。いずれも試行錯誤して自分で仕立てました。アンサンブルの羽織を袖に足したり、ズボンの裾を切って赤い裏地をつけたりそれが遠心力でめくれるよう釣り用の鉛を縫い付けたり。でももう修復しずぎてボロボロでした。今年でこの衣装達は引退やなぁと思いながら稽古を重ね、無事にこの衣装での最後の奉納を終えました。そして明くる日、このINAMURAの奉納をたまたま観覧してくれた地元の有力者の方から過分な来期の支度金を頂き、この度新調する事に。
僕が探していたのは黒い留袖で柄は津波をイメージして波模様。
ヤフオクやメルカリ、古着屋さんで探すもこれといったものが見つかりませんでした。
そんな折、心友の小池朱美に誘われた浜松でのLIVEイベントにゲストとして参加させてもらいました。ギタリストは浜松ではお馴染みのイナッチこと稲津清一さん。
そして彼との本番前の雑談の中で彼のお母さんが観覧に来ていると聞き、以前お会いしたこともあったので挨拶させてもらう事に。するとお母様も僕の事を覚えていて下さって、「着物で踊られる和歌山の辻本さん、覚えています。」と。そして続けて「あ、そうだ。もし良ければ私が着なくなった着物とかも使って頂きますか?どんな風にして頂いても結構です。もう着ないので着物もそれの方が喜ぶと思います。」との事。
そして最後に「お柄が気にいるかどうか分からないので、気に入らなければ遠慮なく破棄して下さいね。」
「柄は波模様なんです。」
震えと涙が止まりませんでした。
次の日に画像が送られ、次の週には手記が添えられた現物が和歌山に届きました。
その上品な波模様はお母様が大好きだった女優さんが身に着けていたのを気に入り同じものをオーダーして作らせた留袖だそうです。
僕は新たにこの着物に命と使命を与えるべく、生徒さんでもある服飾デザイナーに製作依頼。そしてズボンとは別にギタリストの彼が使う名刺入れとお母様が使えるようにカバンも切り出して作って頂きました。
奇しくもギタリストさんの名前は稲津。
稲むらの「稲」と津波の「津」である事にこれを書いていて気付きました。
いつか彼に弾いてもらい、そしてお母様に観て頂きたいと思いました。
何かを起こす事で縁が生まれ、その何かを続けることで縁が深まる。