郡山で子どもを産み、育てる覚悟と消えぬ不安~滝田春奈郡山市議 | 民の声新聞

郡山で子どもを産み、育てる覚悟と消えぬ不安~滝田春奈郡山市議

東日本大震災後の市議選で、初出馬ながらトップ当選を果たした郡山市議の滝田春奈さん(35)。出産を7月に控え、少しふっくらした滝田さんに、依然として放射線量が高い中での子育てについてインタビューした。消えぬ被曝の不安と子育ての覚悟。そして県外避難…。「子どもの日」に考えたい。福島で子どもを産み、育てるということ


【原発事故前の生活はできなくなった】

市内議員1年生の滝田さんが妊娠に気づいたのは昨年11月。その年の4月に滝田さんの母親が59歳の若さで他界し、夫婦で「新しい家族が欲しいね」と話していただけに、待望の赤ちゃんだった。

だが、被曝の不安がなくなったわけではない。滝田さんは2011年10月、本紙のインタビューに「これから生まれてくる子どもに、親が被曝を押し付けて良いのか悩みます」と、妊娠・出産への不安を口にしている。

「当時の不安は変わりません。夫とも何度も話し合いました。屋外で子どもを遊ばせられないなど、原発事故前の生活はできなくなってしまいましたからね」

生まれてくる子どもは既に男の子だと分かっている。女の子よりも走り回るだろうから、外遊びは工夫しなければならないと考えている。そもそも、子どもは公園などに連れて行けば土に触るもの。「土いじりは、子どもの成長において非常に重要だと聞いています。それを何で補おうか、思案中です」と話す。

5歳年下の夫は、郡山市の中でも放射線量の低く、市が移動教室で利用している湖南地区の出身。「1歳くらいかな、首がすわるようになったら、湖南地区への移動保育も考えています。周囲にお世話になりながら子育てをしていきたい」。

福島原発の事故から2年以上が経過したものの、郡山市内には依然として放射線量の高い地域が存在する。原正夫前市長の下では除染を進める一方で、安全安心が叫ばれた。「放射線量をきちんと測って知らせて欲しい」と滝田さん。「数値を全て出して、それでもそこに行くかどうかは市民の判断ですから。でも、現実には数値を知らずに子どもを遊ばせている人もいます。細かい数値の公表が必要です」。
民の声新聞-滝田議員

7月に第一子を出産予定の郡山市議の滝田さん。

夫の実家のある湖南地区の放射線量が低いこと

から、そこを利用して子育てをしていく予定だ


【議会を手放して県外避難はできない】

郡山市情報政策課によると、郡山市の出生数は2010年が3079人、東日本大震災が起きた2011年は2978人。昨年は2575人と減少傾向に歯止めがかかっていない。今年1-3月の出生数は575人で、昨年同時期を45人、震災前の2010年同時期と比較すると160人少ない。震災前から続いていた少子化と人口減少の流れは、震災と原発事故でさらに拍車がかかった格好。佐藤雄平福島県知事も、今年の課題に「人口流出の阻止」を第一に掲げている。

滝田さんも、福島県外への避難・移住を考えないわけではない。むしろ夫は内部被曝を避けるため食べ物に気を付けており、夫婦の会話の中で避難の話題が出ることも少なくない。「年齢が若いことや、まだ家も土地も買っていないことで動きやすいのかもしれませんね」。
周囲には、県外避難をした家族もいる。「子どもを連れて県外に避難しても良いよ」と言ってくれる夫。しかし、2011年の市議選でトップ当選を果たしてから、まだ2年足らず。次の選挙に向けてようやく折り返し地点に立ったところ。中途半端に手放したくないという思いがある。「避難だけでなく、産休や育休をきちんととって見本になりたい部分もあります。でも、市長が替わったばかりで議会を離れるわけにはいきません。郡山市政はまだまだ、変えなければならないことがありますから」。

そこで、新たな目標となったのは市役所内託児所の設置だ。若い市議が増えれば、子育てとの両立は必須の課題となる。議員だけではない。市職員も同様。市役所に子どもを連れて出勤するのが当たり前の光景になるよう、働きかけていく。
民の声新聞-郡山①
民の声新聞-郡山②
依然として放射線量が高い郡山市内。「ここで暮

らす以上、線量を気にしてはいられない」という声

もよく耳にする(2013.04.17撮影)


【〝覚悟〟が要る郡山での子育て】

インタビューの間、滝田さんは何度も「覚悟という言葉を口にした。

「正常な状況ではない中で子育てをしなければならない覚悟、ですね」

議会ではこれまでも、子どもたちの被曝回避に関して取り組んできたが、今後は母親として、さらに力を入れて行く。

「これまでの活動を自己採点?50点もいかないのではないでしょうか。議会は多数決。いくら熱く語っても、通らなければゼロです。教室へのエアコン設置がいい例です」
「真夏に窓を開けることによる被曝を回避するため、教室にエアコンの設置を」と市民から議会に提出された請願は、ことごとく否決された。「ストレートに放射能のことを口にしても、味方は増えません。反対派の人も賛成するように、時には自分の想いと逆のことも言わなければならない。ストレスはたまりますが、目的を果たすためには仕方ないですよね。議会は0か100ですから」
現在の郡山市が安全だとは思っていない。ある日、20代と思われる若い女性が除染作業に従事しているのを目にし、驚いた。

県外避難と議員としての仕事。葛藤は続くが、まずは健康な赤ちゃんを産むことを第一に考える日々。そして、少しでも被曝のリスクを減らす子育てを。

(了)