【自主避難者から住まいを奪うな】「県が、県が」逃げる国。役人には届かない「住み続けたい」の願い | 民の声新聞

【自主避難者から住まいを奪うな】「県が、県が」逃げる国。役人には届かない「住み続けたい」の願い

叩きつけるような強い雨が、切り捨てられる避難者の怒りを表しているようだった。都内に住む原発事故避難者らが7日、参議院会館で内閣府や復興庁の役人と住宅支援打ち切り問題について話し合った。避難者らは、福島県が決めた2017年4月以降の「新たな支援策」について国の評価を迫ったが、役人らは「福島県が決めたことに口出し出来ない」と一蹴。あくまで決めたのは福島県。国もそれを追認する。「どうしたらいいっぺ」と戸惑う避難者の心情などお構いなしに、避難者減らし・避難者切り捨てを着々と進める構えだ。



【「これから、どうすっぺ」】

 これまでも何度、同じ光景を見てきたことだろう。

 何を尋ねても、役人たちは「福島県が考えて判断されたので、国がどうこう言うものではない」とくり返す。それしか言うなと上司から言われているのか、そもそも当事者意識が希薄なのか。〝官僚答弁〟の見本のような淡々とした言葉が続く。何度となく実施された避難者意向調査でも、現在の住まいに住み続けることを希望する声が常に多い。しかし、この日も「福島県の決定を国が覆すことは出来ない」とバッサリ。汚染も被曝のリスクもなくなったとする国は、福島県の帰還政策を歓迎しているかのようだ。

 「このような場に初めて来たが、こんなに怒りがこみ上げてくるとは思わなかった」
 福島県いわき市から都内に避難中の女性(74)は、ハンカチで涙を拭った。原発事故直後に避難をし、今は都営住宅で独り暮らし。右も左も分からない東京での生活だが、どのバスに乗れば病院まで行かれるかなど、ようやく慣れてきたところに浮上した住宅支援打ち切り問題。「こんなに情けない答えとは思わなかった。結局、みんな他人事なんですよ。原発推進は国の政策なのに」。

 来年からどうするか、尋ねられても困ってしまう。今の住まいに住み続けたいという希望しかないからだ。しかし、国も福島県も東京都も、現段階で退去以外の選択肢を示してはくれない。住み続けるのなら居座るしかないが、それにも多大なエネルギーが要る。「これから、どうすっぺ」、「来年どうしたらいいっぺ」。そんなやりとりが最近、多くなったという。
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ずらりと並んだ内閣府や復興庁の役人たち。「福島県

の決めた住宅支援策について云々することは控えたい」

と繰り返し、避難者の怒りを買った=参議院会館


【「福島県の施策で一定の効果ある」】

 話し合いを主催したのは、都内の避難者でつくる「キビタキの会」。事前に福島県が公表した「新たな住宅支援策」について、次の5項目の質問や提言を事前に国にぶつけていた。


①「新たな支援策」で、避難先にとどまる避難者の住まいの安定は確保できると考えているか

②親戚宅に避難した人や中古物件を購入する人も家賃補助の対象者とするべきだ

③家賃補助の3万円という金額は妥当か。帰還しない避難者へも転居費用を補助するべきだ

④希望する避難者が都営住宅に住み続けられるよう、東京都と協議するべきだ

⑤福島県や避難者受け入れ自治体とどのような協議の場を設けているのか


 しかし、内閣府も復興庁も「福島県がまとめた施策を評価することは出来ない」、「福島県がいろいろな状況を勘案して決めたもの。どうこう言えない」と繰り返すばかり。住宅支援の対象となる避難者数についても「福島県からは、2015年10月時点で1万8千人と聞いている」と回答。家賃補助の金額を算出するにあたって6万円という金額が基準になっているが、福島県と東京都では同じ6万円でも借りられる部屋の間取りは異なる。しかし、役人は「福島県の個々のやり方については、そこまで細かく聴いていない」と逃げた。そのくせ、最終的に復興庁の担当者は「どんな施策でも、すべての人を救済することは出来ない。福島県の施策で一定の効果はあると思う」と〝お墨付き〟を与えたのだった。

 しかし、そもそも現在の住宅無償提供は2012年12月28日までに避難した人しか対象となっておらず、しかも収入要件を満たさないと家賃補助を受けられない。当然、避難者から「〝一定の効果〟からもれた人はどうなるのか」との質問が出たが、復興庁は「まずはお話を伺う」と答えるにとどまった。そして、次のようにきっぱりと言い切った。

 「復興庁として、現状が『子ども被災者支援法』に抵触しているとは考えておりません」

 これが、原発事故被害者を守らない「支援法」の現実なのだ。
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山本太郎参院議員は「福島県と一体となって原発

事故の矮小化を進めている」と国の姿勢を批判した。

「皆さんの立場も分かるが、もう少し寄り添って欲しい」


【住み続けることは可能?】

 淡々と「福島県の判断」と繰り返す役人に、避難者からは思わず失笑が漏れた。しかし、一つだけ収穫があった。復興庁の担当者が「『目的外使用』など、制度上、公営住宅に住み続けることは不可能ではない」と明言したのだ。すぐに「無償になるかは分からないし、入居を希望する応募者の状況もあるので約束できるものではない。東京都の公営住宅は需給がひっ迫している」と〝フォロー〟したが、避難者の1人は「これまで、2017年3月末で絶対に退去しなければいけないと考えていたが、そうでないことが分かったのは大きい」と話した。

 退去せず、訴訟も辞さない避難者もいるが、そんな余力もなく福島に戻ることを考え始めている避難者もいる。そもそも原発事故がなければ避難などする必要がなかった。なぜ被害者が追い詰められなければならないのか。なぜわが子を守るという当然の行動が認められないのか。避難者たちの当たり前の疑問はしかし、霞が関の住人たちには理解されない。
 話し合いに駆け付けた山本太郎参院議員は「原発事故被害者を被害者でないことにするために数字をいじり、どんどん福島に帰そうとしている。国は福島県と一体になって、原発事故の矮小化を進めているのではないか」と声を荒げた。「この場に来た決定権のない役人の立場も分かるが、もう少し被害者に寄り添って欲しい」。
 原発事故がなければ、避難者など生まれなかった。放射性物質が降った。住環境が汚染された。被曝のリスクを避けようと自ら逃げた人々は「自主避難者」と呼ばれ、冷遇されてきた末に切り捨てられる。

 「ナイフでも持ってきて死んでやれば良かった」

 避難者の1人がつぶやいた。雨は上がっていた。しかし、自主避難者を取り巻く状況はどしゃ降りのままだ。


(了)