美味しんぼ・雁屋哲さんが憂慮する生産者の内部被曝。〝鼻血騒動〟には「嘘つきはどっちだ」と怒り | 民の声新聞

美味しんぼ・雁屋哲さんが憂慮する生産者の内部被曝。〝鼻血騒動〟には「嘘つきはどっちだ」と怒り

漫画「美味しんぼ」の原作者・雁屋哲さんと前双葉町長・井戸川克隆さんの講演会が7日夜、埼玉県さいたま市内で開かれた。2年前、鼻血の描写を巡って激しいバッシングを受けた雁屋さんは「鼻血は内部被曝の典型」と語り、「福島の作物を買って応援することは、農家の内部被曝につながる」と語った。井戸川さんは「除染は住民を避難させないためのカムフラージュだ」と批判した。2人に共通するのは、低線量被曝は他人事ではないということ。原発事故から5年。被曝についてもはや考えなくなりましたか?被曝リスクは過去の話ですか?



【「鼻血は内部被曝の典型」】

 雁屋さんの静かで低い声が会場に響いた。

 「嘘をついているのは誰なのでしょうか」

 週刊ビッグコミックスピリッツ2014年4月28日号に掲載された「美味しんぼ」を巡り、激しいバッシングを受けた。福島第一原発の取材から戻った主人公が鼻血を出すという場面。井戸川さんも実名で登場し「同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」「疲労感が耐え難い」と語っている。

 「あれは僕の実体験です。福島から帰ると異様な疲労感に襲われる。地べたに引きずり込まれるような感じです。そして鼻血が大量に出た。内部被曝の典型が鼻血なのです」

 福島県は「総じて本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず、極めて遺憾」とする文章を、騒動から2年が経った今でもホームページに掲載している。石原伸晃環境大臣(当時)は「専門家からは福島第一原発の事故による被曝と鼻血の因果関係はないと評価が出ている。風評被害を引き起こすようなことがあってはならない」と発言。安倍晋三首相も「放射性物質に起因する直接的な健康被害の例は確認されていない」、「根拠のない風評には国として全力を挙げて対応する必要がある」などと批判し、時の政権が被曝リスクを躍起になって否定する異常事態に発展した。雁屋さんは、著書「美味しんぼ『鼻血問題』に答える」で低線量被曝にも触れて説明したが「当時、私を批判した人々は全く触れない。取り上げない」と怒りを込めて話した。

 雁屋さんは、福島県選出の森雅子参院議員を「野党時代は参考人まで国会に呼んで鼻血問題を(肯定的に)取り上げていたのに、与党になった途端に『風評だ』と言い出した」と批判。「安倍晋三も五輪招致スピーチで公然と嘘をついたのに、なぜ日本人は怒らないのか。汚染水は外海へ出ているじゃないか」とも語った。安倍首相は2013年9月、アルゼンチンで開かれたIOC総会で「福島については私が保証します。状況は制御されています(the situation is under control)」と語っている。しかし、誰が事故後の原発が「コントロール下にある」と思っているだろうか。

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雁屋さんは、自身が福島県浜通りで撮影した

写真を見せながら「内部被曝についてよく考え

欲しい」「福島産の野菜は安全でも生産者

には被曝の危険がつきまとう」と訴えた


【「避難させないための除染」】

 井戸川さんは、雁屋さんとの対談形式で登場。「疲れやすく、呼吸器系をやられていて声を出しにくい」、「最近になって『鼻血出たわ、町長』と言ってくる町民もいる」と語った。

 安倍晋三首相は2014年5月の記者会見で、安全保障に関し「生命、自由、幸福追求に対する国民の権利を政府は最大限尊重しなければならない」と語っているが「私たちは(国民に)含まれていない。棄民ですよ」と批判。「原発事故では地元町村を含めずに全て中央だけで決めてしまった。熊本地震では地元が物を言うべきです。そもそも、緊急事態条項など無くても災害には対応できます」と語った。
 福島県内で行われている除染についても「除染が必要ということは、人を住まわせてはいけないということ」として「人を住まわせておきながら除染ををやっていることがおかしい。いったん人を動かして除染をするべきだ。除染が、人を動かさずに住まわせておくためのカムフラージュになっている。お金をかけることだけは一生懸命だ」と痛烈に批判した。「政府自体がいい加減。元々『山も除染します』と言っていたのが、大臣が交代したら『年1mSvの基準に根拠など無い』と言い出す」。

原発事故直後から福島入りして「安全講演行脚」した長崎大学副学長の山下俊一氏について「原発事故前はまともな論文を書いていた。一番最初に放射能にやられたのが彼なんじゃないか」と話すと、会場から笑いが起きた。しかし、井戸川さんは「笑っている場合ではないですよ」と制した。

 「250km圏内は汚染されているんです。他人事ではありませんよ。東海原発に何かあったらどこに逃げますか?避難先は決めていますか?国には必ずだまされます。電力会社の広報部は情報操作に長けているのです」
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「万が一の時の避難先を決めるなど、原発事故を

自分たちの事として考えて欲しい」と警鐘を鳴らし

た井戸川さん=与野本町コミュニティセンター


【「作物が安全でも農作業で被曝する」】

 原発事故直後は、福島の作物を広く買ってもらうことで農家を応援していたという雁屋さん。「福島を巡っているうちに、これはいかんと思うようになった。作物が良くったって、農家が被曝する。野菜だけは安全。でも農家には危険。そういうものを勧めて良いのでしょうか。これは応援、助けることにはならない。だから今は福島の作物を買わないよう言っている」。

 ある無農薬農家が生産した米は、全袋検査で99%が11Bq/kg以下だったという。雁屋さんが「良かったですね」と言うと、こんな本音を漏らしたという。

 「でも怖いですよ。農作業で被曝するんですから。現実に疲れるんです」

 厚労省は今月2日、栃木県産のコシアブラ(流通品)から2200Bq/kgの放射性セシウムが検出されたと発表した。「コシアブラの天ぷらは最高に美味しいのに、もう食べられない…。皆さん、のんびりしていてはいけません。内部被曝についてきちんと考えて欲しい。声をあげないと、政治家の嘘にやられっ放しになってしまいますよ」。

 雁屋さんの低い声が会場に響いた。

 井戸川さんも、こう続いた。

 「(被曝を避けるには)何しろ、福島から離れるしかないのです」

(了)