【自主避難者から住まいを奪うな】「追い出さないで」。東京都に署名提出するも事実上の〝門前払い〟 | 民の声新聞

【自主避難者から住まいを奪うな】「追い出さないで」。東京都に署名提出するも事実上の〝門前払い〟

原発事故による被曝回避のため東京都内に避難している〝自主避難者〟たちが9日、都庁を訪れ、6万4000筆を超える署名を舛添要一都知事あてに提出。2017年3月末で住宅の無償提供を打ち切るとした福島県の方針に対し、受け入れ自治体として翻意を促すよう求めた。しかし、対応した都住宅整備局の女性課長らは「福島県の方針に反した約束は出来ない」と事実上の〝門前払い〟。来年4月以降の強制退去についても「しないと確約する段階に無い」として明言を避けた。避難者らは今後も撤回方針に向けて運動を続け、最悪の場合、今の住まいに居座ることも辞さない構えだ。退去期限まで、あと10カ月…。



【「ご意見として伺いました」】

 事実上の「門前払い」だった。

 署名提出にあたり、都内への避難者を代表して「ひなん生活をまもる会」の鴨下祐也代表が舛添知事に宛てた「2017年4月以降もみなし仮設住宅の提供を延長するよう、国や福島県に働きかけて欲しい」、「避難者を現在のみなし仮設住宅から強制的に退去させないよう、避難者に確約して欲しい」などとする文書を読み上げた。

 鴨下さんは「これはただの紙ではありません」と言いながら6万4000筆を超える署名を手渡したが、対応した東京都都市整備局の女性課長は「福島県の決めた『新たな支援策』(家賃補助を中心とした民間賃貸住宅への転居促進策)に従った対応をさせていただく」、「福島県職員とペアで個別訪問し、転居相談などにていねいに応じる」と繰り返すばかり。

 「要望については理解した。福島県には伝えるが、東京都として(無償提供打ち切りを撤回するよう)意見する立場には無い」、「福島県の示した方針に反する約束は出来ない」などと、事実上、避難者らの要求を拒んだ格好だ。提供期間が終了した後の〝強制退去〟に関しても、「強制的な追い出し、というのがどういうことを指しているのか。今は確約する段階に無い」とはぐらかした。他の男性職員も「ご意見として伺いましたが政策の議論をするつもりは無い」、「政策上の問題は福島県に言って欲しい」などとして、今後は都内への避難者に対する転居相談を主眼に置いた対応になると繰り返した。

 個別訪問に対しても、鴨下さんが「相談に乗るというより、新たな支援策の周知徹底ではないか。一人一人説き伏せられてしまうのではないかと不安だ」としてオープンな場で避難者が意見を伝えられるような場を設けるよう求めたが、都側は「お一人お一人に話を聴かないと、それぞれで事情が違う」、「今回の要望だけが避難者の意見ではないだろう」などと一蹴した。

 結局、東京都はあくまで無償提供打ち切りを前提とする。強制退去も「どうなるか分からないがルールはある」として否定しない。原発事故でばら撒かれた放射性物質のおかげで避難を強いられている人々にとっては、歯がゆさとため息ばかりが漂った。
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(上)東京都知事宛てに提出された打ち切り撤回を

求める署名。6万4000筆を超えた

(下)都市整備局の女性課長は「福島県の方針

に反する約束は出来ない」と繰り返した

=東京都庁舎


【被曝か貧困か、二者択一】

 なぜ避難を続けるのか。答えはシンプルだ。依然として汚染が続き被曝のリスクが存在する福島には戻れないという想いがあるからだ。しかし、家賃負担は重く「福島に戻って被曝を受忍するか、避難先にとどまって貧困を受け入れるか。選択を迫られることになる」という声があがった。福島県田村市から都内に避難している70代女性は言う。

 「昨年11月に自宅玄関先の土壌を測ったら、放射線管理区域(1平方メートルあたり4万ベクレル)の倍以上の数値になった。帰還しろと言われても、とても出来ません。高齢の私は都営住宅を出て行きたくない。路頭に迷うということは命の危険にさらされるのです」

 別の女性は、打ち切りを前提として話を進める都側に、独自の経済的支援を求めた。

 「避難後、生活保護を受けながらの生活で、何度も自殺しようとしたお母さんもいます。腕にいくつもの傷があるんです。新しい支援策では無理なんです。お金がある人は既に転居しました。都が負担する家賃は東電に請求していただけないでしょうか」

 いわき市から2人の子どもと共に都営住宅に入居している母親は「私が望むのは現状維持。ただそれだけなんです。自分の足元が崩れていかないように、どうかお願いします」と頭を下げた。何も特別扱いして欲しいわけではない。自分たちがつくった汚染ではないのだから、余計な出費はしたくないとの想いもある。「このまま打ち切られてしまったら、居座るしかないですよね」。

 せっかく受け入れてくれた自治体と対峙するような事は避けたい。だからこそこうして頭を下げている。先の70代女性は静かにこう言った。「この先大丈夫ですよ、安心してください、という言葉さえあれば良いんです」。しかし、そんな避難者の願いも都職員には伝わらなかった。
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「5・3憲法集会」の会場にも避難者が出向き、

署名を集めた。打ち切り期限まであと10カ月。

避難者の不安は募る=東京都江東区有明


【「住まいは人権の出発点」】

 都側は「これまでの意向調査で避難者のニーズは把握している」と話す。しかし、今年2月に都内支援課が実施したアンケートそのものが福島県の打ち切り方針を前提にしたものであるため、民間賃貸住宅への転居や福島への帰還しか選択肢がないものだった。福島県が行った「意向調査」も同様で、鴨下さんは「最も回答が多くなるはずの『避難を継続したい』という選択肢がなく、欠陥調査だ」と憤る。 

 今年3月までに寄せられた署名は、3月に内閣府、4月には福島県、そして今回、東京都に提出された。署名集めは継続しており、まとまり次第、提出して打ち切り撤回を求めていく。3日に都内で開かれた憲法集会にも避難者が出向き、参加者から署名を集めた。避難者から住まいを奪うことは、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を破壊することになるからだ。今回の申し入れでも支援者から「住まいは人権の出発点」という声があがったが、都職員の反応は鈍かった。

 「福島県が決めた方針に粛々と従う」。そんな意思表示だけがはっきりした一日だった。それは結果として、国の「避難者減らし」と福島県の「帰還促進」に加担し、被曝を強要することになる。それを良しとするのが、現時点での避難者を最も多く受け入れている東京都の結論なのだろう。

(了)