ウイルスを使わないでiPS細胞を樹立 | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

ウイルスを使わないでiPS細胞を樹立

iPS細胞の作製における最大の問題点は、遺伝子導入にあたってレトロウイルスを用いるため、それに起因する挿入変異により、細胞がガン化する可能性があることです。
そこで、染色体上に遺伝子を挿入しない、一時的な遺伝子発現誘導によりiPS細胞を作製する技術の開発が進められました。
アデノウイルスを用いたiPS細胞の作製
で説明した論文により、染色体上に遺伝子を挿入しない一時的な遺伝子発現誘導でiPS細胞を作製できることが示されましたが、この論文では依然としてウイルスを遺伝子導入に用いています。
他のメジャーな遺伝子導入方法として、プラスミドベクターが挙げられますが、これにはウイルスベクターと比べ、実験者への安全性、コスト、作業効率が格段に向上するという利点があります。
ただ、プラスミドベクターを用いた一時的な遺伝子発現誘導は、遺伝子発現の持続時間が2、3日と短く、導入効率もウイルスベクターに比べて劣ります。

そこで、一つのプラスミドに複数の遺伝子をのせて、2日に1回、数回に分けて細胞にリポフェクションすることで、1週間以上持続的に複数の遺伝子を発現させ、iPS細胞を樹立することに、京都大学の山中伸弥先生らのグループが成功し、Scienceに論文を発表しました。

Science DOI: 10.1126/science.1164270
Generation of Mouse Induced Pluripotent Stem Cells Without Viral Vectors
Keisuke Okita, Masato Nakagawa, Hong Hyenjong, Tomoko Ichisaka, Shinya Yamanaka
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1164270

山中先生らは、まず最初のステップとして、4つの遺伝子のうち、一つか二つを、レトロウイルスの代わりにアデノウイルスを用いて、残りの遺伝子をレトロウイルスを用いて導入し、iPS細胞が樹立できるかを調べました。
一連の実験では、Nanogの発現制御領域によってGFPとpuromycin耐性遺伝子の発現が制御されるような、Nanogレポーターを持つマウスの細胞を使用しています。
肝臓および胃の細胞からのiPS細胞の樹立 」で紹介した以前の山中先生らの研究により、肝細胞は線維芽細胞に比べ、より少ない遺伝子挿入数でiPS細胞を樹立できることが分かっていたので、肝細胞を用いて実験したところ、Sox2かKlf4をアデノウイルスで導入し(6日間、毎日感染させる)、残りの2遺伝子(Oct3/4とKlf4、Oct3/4とSox2)をレトロウイルスで導入した場合は、アデノウイルスによる遺伝子挿入なしに、iPS細胞を樹立することに成功しましたが(Nanog, Rex1, ECAT1などの多能性マーカーの発現、テラトーマ形成による三胚葉分化を確認)、Oct3/4をアデノウイルスで導入し、Klf4とSox2をレトロウイルスで導入した場合は、GFPポジティブなコロニーを得ることができませんでした。
また、二つの遺伝子をアデノウイルスで導入した場合も、GFPポジティブなコロニーを得ることはできませんでした。
これは恐らく、複数の遺伝子が、同じ細胞に、十分な量だけ、導入することができないからだと考えられました。

そこで、一つの発現ベクターに3つの遺伝子のcDNAをいっぺんにのせることを試みました。
この際、効率的なポリシストロニック発現を可能にするために、口蹄疫ウイルスの2A self-cleaving peptideを用いました。
まずは、レトロウイルスベクターであるpMXsに、すべての組み合わせの順序で3遺伝子を入れて、NanogレポーターマウスのMEFに感染させてiPS細胞が樹立できるかを調べたところ、Oct3/4, Klf4, Sox2の順序でcDNAを組み込んだベクターを用いた時、最も効率的にGFPポジティブなコロニーが得られることが分かりました。
(OKSの順序の他に、SKOの順序の場合もOKSに比べて半分くらいの効率でGFPポジティブコロニーが得られた。その他の順序は、全くもしくはほとんどGFPポジティブコロニーが得られなかった。)
そこで、CAGプロモーターの制御下で恒常的な発現が期待できるプラスミドベクターに、同じ順序で3遺伝子を組み込んだベクターを作製しました(pCX-OKS-2A)。
また、同じプラスミドを用い、c-Mycの発現ベクターも作製しました(pCX-cMyc)。
最初の試みとして、pCX-OKS-2Aをd1とd3に、pCX-cMycをd2とd4に、リポフェクションによりトランスフェクションしたところ、GFPポジティブなコロニーが現れ、多能性マーカーを発現し、キメラに寄与できるようなiPS細胞が樹立できることが分かりましたが、PCR解析の結果、プラスミドがホストゲノムに組み込まれてしまっていることが分かりました。

そこで、プラスミドの組み込みを回避するためにトランスフェクション手法の改良を試みました。
pCX-OKS-2AとpCX-cMycを一緒に、d1, d3, d5, d7に、トランスフェクションしてみたところ、GFPポジティブなコロニーが現れ、多数の多能性マーカーを発現するようなiPS細胞を樹立することができました。
16セットのプライマーペアーを用いて、プラスミドDNAのゲノムへの挿入があるか調べたところ、11個のGFPポジティブクローンのうち、9個でプラスミドDNAの増幅が見られないことが分かりました。
また、これらのクローンにおいては、サザンブロッティングによっても、ゲノムへの組み込みが起こっていないことが確認されました。
(ただ、PCRやサザンで検出できないような小さなプラスミド断片がゲノムに挿入されている可能性は残ります。)
また、得られたiPS細胞は、SSLP解析によりコンタミでないことが確認されました。

この改良法を用いて、10回実験を行ったところ、7回でGFPポジティブなコロニーを得ることに成功しました。
この際、1×10 6 個の細胞にトランスフェクションして、1~29個のGFPポジティブコロニーが得られました。
レトロウイルスを用いた場合、3遺伝子なら100個以上、4遺伝子なら1000個以上のGFPポジティブコロニーが得られるので、それに比べて効率が悪いと言えますが、10回の実験のうち、6回の実験において、プラスミドの挿入がないiPS細胞株を得ることに成功しました。
得られたiPS細胞は、テラトーマ形成により三胚葉分化能が確認され、キメラに寄与できることも示されました。




レトロウイルスを使用する場合と比べてiPS細胞の作製効率が低いことについては、レトロウイルスによる遺伝子挿入がiPS細胞樹立を促進するか、もしくは、プラスミドの発現誘導レベルの低さが原因であろうとディスカッションしています。
恐らく後者だとは思いますが。。

この手法で作製されたiPS細胞には、ジャームライントランスミッションする能力があるのか分からない、成体の細胞でも作製できるのか分からないという問題がありますが、これに関しては時間の問題だと思います。

一時的な遺伝子発現誘導によってiPS細胞作出が可能になったことで、再生医療への応用に向けて、非常に大きな一歩を踏み出したと言えます。
今後は、いかにして樹立効率を改善するのかについての研究が主流になるかもしれませんね。




(09年3月27日追加)
ウィスコンシン大学のJames A. Thomson、Junying Yuらのグループによって、プラスミドベクターにより外来因子挿入のないヒトiPS細胞を樹立したという論文が発表されました。

上記で紹介した山中先生らのプラスミドiPSの「ヒト」バージョンと言え、従来の手法だと効率が悪くて無理だったのを、導入する遺伝子を増やし、oriP/EBNA1-based episomal vectorを使うことで克服したというものです。
ウイルスフリーのヒトiPS細胞に関しては、「piggyBacトランスポゾンを利用したiPS細胞の樹立法」で紹介したような梶先生ら・NagyらのトランスポゾンiPSが一番乗りでしたが、「ヒト」では導入因子の除去には至っていませんでした。
今回のトムソンの報告は、導入因子挿入のない「ヒト」iPS細胞を初めて作製したというところがポイントですね。

Science Published Online March 26, 2009
Human Induced Pluripotent Stem Cells Free of Vector and Transgene Sequences
Junying Yu, Kejin Hu, Kim Smuga-Otto, Shulan Tian, Ron Stewart, Igor I. Slukvin, James A. Thomson
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1172482

Thomsonらは、oriP/EBNA1(Epstein-Barr nuclear antigen-1)-based episomal vectorを用いており、このプラスミドは、細胞内に導入されると宿主の細胞周期と同調して自立的に複製し、染色体外DNAとして保持されることが知られており、染色体に挿入されにくく、薬剤選抜により約1%の割合で安定的にエピソームとして存在でき、薬剤選抜をやめるとそのうち~5%の細胞においてエピソームが消失するという優れた性質を持っています。

まず、リプログラミング効率を向上させるために、OCT4, SOX2, NANOG, LIN28, c-Myc, KLF4の6遺伝子を様々な組み合わせ・リンカーでレンチウイルスベクターに入れて、リプログラミング効率を調べたところ、OCT4とSOX2をIRES2(internal ribosome entry site 2)で繋いだベクター、NANOGとLIN28をIRES2で繋いだベクター、c-Mycベクター、KLF4ベクターを導入した場合が最も高率であることが分かったので、これら6遺伝子全てをoriP/EBNA1ベクターにサブクロして用い、新生児包皮線維芽細胞にnucleofectionでトランスフェクションし、ヒトiPS細胞を樹立できるかを調べましたが、この組み合わせでは、c-Mycの発現が強すぎたからか、細胞死を起こしてしまいました。
そこで、c-Mycの毒性を中和しようとSV40 large T(SV40LT)を加え、これら計7遺伝子の様々な組み合わせを検討したところ、①pEP4EO2SET2K, pEP4EO2SEN2K, pCEP4-M2Lと、②pEP4EO2SCK2MEN2L, pEP4EO2SET2Kと、③pEP4EO2SEN2L, pEP4EO2SET2K, pEP4EO2SEM2K(E:pEF, O:OCT4, 2:IRES2, S:SOX2, T:SV40LT, K:KLF4, N:NANOG, C:pCMV, M:c-Myc, L:LIN28)の3つの組み合わせを用いた場合において、iPS細胞様コロニーを得ることができ(~3-6コロニー/10の6乗細胞)、①と③で得られたクローンについて解析を行いました。
(ちなみに、トランスフェクション後すぐにMEFフィーダー細胞上にまき、d4からヒトES細胞培地を使い、フィーダーがへたれてくるd8-10からはMEFのコンディションメディウムを用い、d18-20で一部のディッシュでAP活性を調べてコロニーを検定、d25-30で継代、d30-35でコロニーピックアップしています。)
これらの細胞株は、ヒトES細胞と類似した形態を示し、グローバルな遺伝子発現もヒトES細胞と類似していることが示され、テラトーマ形成により三胚葉分化能を持つことが確認されました。
しかし、PCRによって、ゲノムへのベクター挿入が見られない一方、エピソーム画分において残存が見られることが分かったため、リプログラミングが成功するためには、長い導入遺伝子発現が必要であることが示唆されました。

そこで、これらの細胞株でサブクロを行って、自然にエピソーマルベクターが消失したクローンを得られるか調べたところ、エピソーム画分のPCRにより、3分の1以上のサブクローンにおいてベクターの消失が見られることが分かりました。
これらのうち、4つのサブクローンについてさらに詳しく解析を行ったところ、RT-PCR、ゲノムおよびエピソーム画分のPCR、サザンブロッティングにより確かにベクターが消失していることが確認されました。
また、ヒトES細胞様の形態を示すこと、核型が正常であること、ヒトES細胞様の遺伝子発現を示すこと、テラトーマ形成により三胚葉分化能を持つこと、OCT4とNANOGのプロモーター領域の脱メチル化を確認しています。




なかなか大きな当たりが出なかったトムソンの久しぶりの長打と言った感じでしょうか。
ただ、ホームランとまでは言えないと思いますが。
データはあまりきれいなものではなく、再現性やら均一性に問題出そうで、まだまだ改良の余地がありそうですし。
この論文で使われているベクターは細胞内で増殖できるので、山中先生らの手法のように何度もトランスフェクションすることなく長期的に発現誘導でき、染色体へ挿入されにくい上、エピソームを除去する際もサブクロだけでよいという点が画期的ですね。

しかし、やはりアメリカは恐ろしいくらい層が厚いです。。




(09年5月24日追加)
単一のプラスミドベクターを用いてマウスiPS細胞を樹立したという論文が、ソーク研究所のJuan Carlos Izpisúa Belmonteらのグループにより報告されました。
髪の毛一本からのヒトiPS細胞樹立」の記事で紹介したのと同じグループですね。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 May 19. [Epub ahead of print]
Generation of mouse-induced pluripotent stem cells by transient expression of a single nonviral polycistronic vector.
Gonzalez F, Barragan Monasterio M, Tiscornia G, Montserrat Pulido N, Vassena R, Batlle Morera L, Rodriguez Piza I, Belmonte JC.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19458047?ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum

Belmonteらは、2A peptideでOct4, Sox2, Klf4, c-Mycの4遺伝子をこの順番で繋ぎ、CAGプロモーターによって発現制御を受けるプラスミドベクターにサブクロしたもの(pCAG-OSKM)用いました。
①d0にnucleofectionによりトランスフェクション、d3までESコンディションメディウムで培養、d3にフィーダー上に継代してES細胞培地で培養、もしくは、②d0とd3にnucleofectionによりトランスフェクション、d6までESコンディションメディウムで培養、d6にフィーダー上に継代してES細胞培地で培養、の2つのプロトコールでMEFのリプログラミングを試みました。
どちらの手法でも、最後に細胞をまいてから約12日後にコロニーが出現し、さらに1週間培養後、コロニーをピックアップしました。
すると、最初はES細胞様の形態を示しませんでしたが、2回の継代後には典型的なES細胞様の形態を示すようになり、46ライン(/75コロニー、①から10ライン、②から36ライン)のiPS細胞株を得ることに成功しました。

次に、まず、Sox2の配列をプローブとしてサザンブロッティングを行ったところ、43ラインで遺伝子挿入が見られたので、遺伝子挿入が見られなかった残りの3ライン(すべて②の手法で得られたもの)について、Oct4, Klf4, c-Mycの配列をプローブとしてさらにサザンブロッティングを行い、遺伝子挿入がないことを確認しました。
さらに、22セットのプライマーペアーを用いて、小さな遺伝子断片の挿入が見られないことも確認しました(1ラインはちょっと怪しいが)。

遺伝子挿入の見られたiPS細胞株および見られなかったiPS細胞株それぞれ3つずつを解析したところ、すべて内因性の多能性遺伝子(Oct4, Sox2, Nanog, Utf1, Zfp42)が活性化されており、線維芽細胞マーカーであるThy1とCol6a2の抑制が確認されました。
また、導入遺伝子の発現は、遺伝子挿入の見られたiPS細胞株でのみしか見られないことも確認されました。
さらに、細胞株間によって差はあるけれども、Oct4プロモーター領域の脱メチル化も確認されました。
これらの細胞株は、OCT4, SOX2, SSEA1, NANOGタンパクおよびアルカリフォスファターゼポジティブであり、胚様体形成およびテラトーマ形成により三胚葉分化能を持つことが示され、キメラに寄与できることも確認されています。

次に、スクリーニングを容易にするために、OSKMに2A peptideでさらにGFPを繋げたベクター(pCAG-OSKMG)を用いました。
導入遺伝子発現解析の結果、遺伝子挿入を受けたクローンの大部分は、何回かの継代を経た後でも導入遺伝子のサイレンシングを受けないことが分かったからです。
遺伝子導入後、d1の時点で37%の細胞がGFPポジティブであり、d10の時点で6%の細胞がGFPポジティブであることが分かったのですが、結局、得られた12個のiPS細胞様コロニーはすべてGFPポジティブだったとのことです。




piggyBacトランスポゾンを利用したiPS細胞の樹立法」で紹介したエジンバラ大学の梶圭介先生らのグループによるプラスミドiPSの手法から一歩後退したような論文ですが、せっかくやったから一応論文にしたって感じですね。
それでもプロナスってのが納得いきませんが。。

それにしても、DNA脱メチル化が細胞株間によってかなりばらばらなのが気になります。。
エピジェネティックリプログラミングが不完全なんでしょうね。
外来遺伝子の発現時間とか発現レベルが十分ではない可能性も考えられます。
こんなのでは分化抵抗性持つかもしれないし、ジャームライントランスミッションするのも難しいだろうなぁ…




(09年9月22日追加)
カルフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のAlysson R. Muotriらのグループにより、Oct4とNanogをエピソーマルベクターで発現させて、ヒト胎児神経幹細胞から作製した、ゲノム挿入のないヒトiPS細胞の遺伝子発現を調べ、iPS細胞に特徴的に発現する遺伝子があること、ドナーとなった神経幹細胞の遺伝子発現の名残があることを示し、また、ヒトES細胞由来の神経幹細胞にOct4のみをエピソーマルベクターで発現させてもiPS細胞コロニーが得られることを示したという論文が発表されました。

PLoS One. 2009 Sep 18;4(9):e7076.
Transcriptional signature and memory retention of human-induced pluripotent stem cells.
Marchetto MC, Yeo GW, Kainohana O, Marsala M, Gage FH, Muotri AR.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19763270?ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum

ヒトiPS細胞における転写の特徴と記憶の残存」をご参照ください。




(10年2月11日追加)
スタンフォード大学のJoseph C Wu、Michael T Longaker、Mark A Kayらのグループにより、バクテリアDNAを含まず、高発現可能なベクター種である‘minicircle’DNAを用いて、成体ヒト脂肪幹細胞から外来因子フリーのiPS細胞を樹立したという論文が発表されました。

Nat Methods. 2010 Feb 7. [Epub ahead of print]
A nonviral minicircle vector for deriving human iPS cells.
Jia F, Wilson KD, Sun N, Gupta DM, Huang M, Li Z, Panetta NJ, Chen ZY, Robbins RC, Kay MA, Longaker MT, Wu JC.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20139967?dopt=Abstract

minicircle vectorは、バクテリアの複製起点や抗生物質耐性遺伝子を持たないスーパーコイルDNA分子であり、真核生物発現カセットより主に成り立っていて、プラスミドと比べ、高率でトランスフェクションでき、ほとんど外因性のサイレンシングメカニズムの活性化が起こらないので、長期的に外来発現を維持できます。
Wu, Longaker, Kayらはまず、OCT4, SOX2, LIN28, NANOGおよびGFPレポーター遺伝子を2A self-cleaving peptideで繋いだ4リプログラミング因子の単一カセットを含むプラスミド(P2PhiC3l-LGNSO)を構築し、PhiC31-based intramolecular recombination systemを利用して、バクテリア中でプラスミドバックボーンを除いて分解、minicircleを分離・精製しました。
293FT細胞中で個々のタンパク質因子の発現を評価した後、iPS細胞作製のためにヒト脂肪幹細胞(hASCs)に導入したところ、KLF4はヒトES細胞の3-4倍、c-MYCは~1.2倍高発現していることが定量PCRで分かりました。
成人3人由来のhASCsを用い、nucleofectionでminicircle vectorを導入したところ、10.8±1.7%の細胞がGFP陽性になることが分かり(プラスミドでは2.7±0.8%)、72時間後にGFP陽性細胞集団を濃縮してマウス胎仔線維芽細胞(MEF)フィーダー上にまきました。
すると、細胞増殖に伴うminicircle vectorの希釈により、細胞におけるGFPタンパクおよびgfp mRNA発現が徐々に消えていき、同時に内因性OCT4発現が観察されるようになりました。
この際、gfp発現は4週までには検出できなくなりました。
そこで、この外来遺伝子発現の欠損を補うためにminicircle vectorのトランスフェクションをd4とd6にも行いました。
なお、プラスミドベクターに比べ、長期間の間、高い発現を維持できることを確認しています。

d14-16でヒトES細胞に形態が類似したGFP陽性クラスターが観察されましたが、多くのクラスターは全くGFP蛍光を示さず、外来遺伝子発現の欠損が示唆されたので、以降、これらのクラスターを単離し、解析に用いました。
こうやって樹立されたiPS細胞(mc-iPSC)は、アルカリフォスファターゼ, OCT4, SOX2, NANOG, TRA-1-60, TRA-1-81, SSEA4陽性であり、内因性のOCT4, SOX2, NANOG, LIN28およびERAS, DPPA5, ECAT1, TDGF1が発現していること、OCT4, NANOGのプロモーター領域が脱メチル化されていること、グローバルな遺伝子発現がヒトES細胞と類似していることが示されました。
また、サブクローンにおいてminicircle transgeneのゲノム挿入が検出できないことがサザンブロットにより示されました。
さらに、核型正常なこと、胚様体およびテラトーマ形成により三胚葉分化できることが示されました。

全体で、22のmc-iPSCクローンが得られたので、リプログラミング効率は~0.005%となり、以前に報告されたプラスミドを用いた手法よりも高率であることが分かりましたが、用いた細胞種やリプログラミング因子の数に起因するかもしれません。
そこで最後に、新生児線維芽細胞IMR90でも同様にiPS細胞を作製したところ、効率は10倍悪くなったものの、プラスミドベクターではiPS細胞が得られなかったことから、minicircle DNAの方が有利であるとしています。




ほんと次々と新しい手法が開発されますね。。
山中ファクターで同様の実験をすると、どれくらい効率が上がるのかが気になるところです。




(10年9月12日追加)
ウィスコンシン医科大学のStephen A. Duncanらのグループにより、OCT4, NANOG, SOX2, LIN28をコードするプラスミドをトランスフェクションし、エピソームによる維持や選抜なしに、ヒトiPS細胞を樹立したという論文が発表されました。

BMC Dev Biol. 2010 Aug 3;10:81.
Generation of human induced pluripotent stem cells by simple transient transfection of plasmid DNA encoding reprogramming factors.
Si-Tayeb K, Noto FK, Sepac A, Sedlic F, Bosnjak ZJ, Lough JW, Duncan SA.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20682060?dopt=Abstract

リプログラミング因子を持つプラスミドDNAの単純な一時トランスフェクションでのヒトiPS細胞樹立」をご参照下さい。




(11年5月9日追加)
ジョンズ・ホプキンス大学のLinzhao Chengらのグループにより、新生児臍帯血(CB)および成人末梢血(PB)由来のCD34陽性血液細胞および単核細胞(MNCs)は、線維芽細胞と比較してよりiPS細胞やES細胞に近いグローバルなプロモーターDNAメチル化パターン・遺伝子発現を示すことを示し、非挿入性プラスミド(OCT4, SOX2, KLF4, c-MYC, LIN28を発現するポリシストロニックEBNA1/OriP plasmid(C5)にSV40 Large T antigen(Tg)もしくはNANOGもしくはp53shRNAを発現するEBNA1/OriP plasmidを組み合わせた。)を用いてヒトiPS細胞を効率的に作製したという論文が発表されました。
なお、CB由来CD34陽性細胞を用いた場合のTRA-1-60陽性コロニー数は、C5+Tg>C5+p53shRNA>C5+NANOG>C5で、sodium butyrate(NaB)処理によりそれぞれ効率が上昇すること、一時的なTg発現ではゲノム変異が検出されないことも示しています。

Cell Res. 2011 Mar;21(3):518-29. Epub 2011 Jan 18.
Efficient human iPS cell derivation by a non-integrating plasmid from blood cells with unique epigenetic and gene expression signatures.
Chou BK, Mali P, Huang X, Ye Z, Dowey SN, Resar LM, Zou C, Zhang YA, Tong J, Cheng L.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21243013

非挿入性プラスミドを用いた血液細胞からのヒトiPS細胞効率的作製」をご参照下さい。




また、ソーク研究所のJuan Carlos Izpisúa Belmonteらのグループにより、トランスフェクション試薬としてPoly(β-amino Esters)を用い、ヒトiPS細胞を簡便に樹立したという論文が発表されました。
ベクターとしてpCAG-OSKMG(CAGプロモーター制御下で2Aペプチドで接続されたOct4, Sox2, Klf4, c-Myc, GFPを発現するプラスミドベクター)を使い、1-4回トランスフェクションして出現するコロニーを拾っていますが、ベクターが挿入されたiPS細胞しかとれなかったようです。(見た感じ、拾っているprimary colony自体、外来因子が発現しているのによくある形態をしています。)
なお、pmaxGFPで検定した際、Lipofectamine 2000, Fugene HDのトランスフェクション効率がそれぞれ50%, 25%だったのに対し、Poly(β-amino Esters)では50-70%で、生存率も約90%だったとのこと。(pCAG-OSKMGのトランスフェクション効率はそれぞれ、3%, 5%, 10%程度)

J Biol Chem. 2011 Apr 8;286(14):12417-28. Epub 2011 Feb 1.
Simple Generation of Human Induced Pluripotent Stem Cells Using Poly-{beta}-amino Esters As the Non-viral Gene Delivery System.
Montserrat N, Garreta E, González F, Gutiérrez J, Eguizábal C, Ramos V, Borrós S, Izpisua Belmonte JC.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21285354

Poly(β-amino Esters)を用いたヒトiPS細胞の簡便な樹立」をご参照下さい。