①体組成

2件の研究が、ケトン食による介入の結果、体重と体脂肪量の改善を報告していた。ただし、比較対照群(非ケトン食)でも体重や体脂肪量の有意な減少が観察された報告もあり、解釈には注意を要する。

アスリートに対する今後の研究では、蛋白質またはサプリメント(例えばクレアチンやロイシン)を利用したケトン食による影響の評価等が求められる。
 

②身体の健康

酸塩基平衡:理論的にはケトン食により酸塩基平衡の緩衝に悪影響が及び、代謝性アシドーシスを引き起こす可能性が考えられ、その結果、腎結石等が惹起され運動パフォーマンスへの影響も想定される。ただし21日間のケトン食介入からは、血中pH、重炭酸塩濃度、乳酸レベルに有意差は観察されず、ケトン食が酸塩基平衡に影響を及ぼさないことが示唆された。

骨代謝:ケトン食3週間の介入により、骨吸収マーカーが増加し、骨形成マーカーが低下したことが報告されている。これはケトン食により骨代謝に有害な影響を与える可能性があることを示唆している。


鉄代謝:理論的には、グリコーゲン制限下で運動を行うと、インターロイキン-6(IL-6)などの炎症マーカーが上昇して、ヘプシジンレベルに影響を与え鉄吸収が妨げられる可能性がある。3週間にわたりケトン食介入した競歩選手対象の研究からは、運動後のIL-6が有意な上昇が認められた。ただし、高強度の運動後のIL-6上昇は非ケトン食条件でも比較的よくみられ、ケトン食と鉄代謝との関連の理解にはさらなる研究が必要。

 

脂質酸化:ケトン食の脂質酸化への影響は、運動強度や性別などの研究条件により異なっていた。脂質酸化速度の増加は骨格筋組織の脂肪酸の貯蔵や、エストロゲンレベルなどの影響を受けることが報告されている。ケトン食の脂質酸化への影響の理解にはさらなる研究が必要。

腸内細菌叢:アスリートは、非アスリートと異なる腸内細菌叢を示すことが報告されている。その理由として、蛋白質摂取量が多いことや食事摂取量の違いが指摘されている。本検討からも、ケトン食介入による腸内細菌叢のプロファイルに有意な影響の報告が認められ、それらの中には抗炎症作用などの面で身体の健康に好影響を及ぼすことを示唆するものもあった。ただし、腸内細菌叢に関する研究そのものがまだ初期段階にあることから、エビデンスはいずれもプレリミナリなもの。

粘膜免疫への影響:食事のプロトコルと無関係に、運動後には唾液中の免疫グロブリンA(IgA)の増加が観察され、食事間の有意差はなかった。

便中微生物叢への影響:ケトン食が連鎖球菌などの量を増やす可能性が認められた。この変化は、硝酸塩やビート根ジュースなどの摂取によるパフォーマンス上のメリットを減弱する可能性がある。

③心理的な影響
持久力アスリートを対象とした1件の研究のみが、ケトン食の心理的な影響を検討していた。この研究では、初期に気分の低下を報告していたが、その持続期間は数週間で、その後は改善。ベースラインからは大幅に上昇したことを報告していた。痛みの自覚症状や倦怠感には、ベースラインから研究期間終了まで明らかな変化はなかった。

④スポーツパフォーマンスへの影響

8人の男性持久力アスリートを対象とした研究では、70%VO2maxを超える運動強度でのパフォーマンスに、悪影響を与えることが示された。しかし60%VO2max未満の強度では、疲労困憊までの時間に影響を及ぼさないことが報告されている。これらの結果はケトン食が、最大強度以下の運動能力には影響を及ぼさないことを示唆している可能性がある。

一方、テコンドー選手を対象とする研究では、ケトン食が2,000mのスプリントタイムを有意に短縮したことを報告している。また、競歩選手に対する研究では、VO2peakの有意な増加を観察した。

このようにスポーツパフォーマンスの結果は一致せず、さらなる研究が必要と考えられた。

 

このスコーピングレビューに含まれる各研究のサンプルサイズはいずれも小さく(5〜37人)、統計的検出力は十分でなかった。また、研究デザインは横断的または非ランダム化であり、比較的低質だった。

 

スポーツ栄養学の研究では、背景の一致した多数の対象を集めやすい医学・医療領域の臨床研究に比較し、高質な大規模コホート研究を実施しにくいことが認識されているが、今回のテーマであるケトン食の影響の検討も同様に、現時点で有効性に関する結論を出すことは困難と考えられた。

 

 

なお、アスリートが体重管理に行き詰ったときに、ケトン食が魅力的に感じる可能性がある。仮にケトン食を開始するのであれば、除脂肪体重(lean body mass;LBM)をモニタリングし、場合によってはサプリメント等の使用を検討したほうがよいことがある。また、本レビューの結果にかかわらず、食事介入に際しては各アスリートに対する適切な教育の確実な実施が必要とされる。



本研究の結論として、ケトン食は、体組成への影響(体重と体脂肪量の減少)と心理的幸福(長期的にはポジティブ)との間に、正の関連があることが示唆された。ただし、身体の健康とスポーツパフォーマンスへの影響については、一致した結果を得られなかった。

https://www.mdpi.com/2075-4663/8/10/131

 


SNDJ