家に帰る時はいつも、少しでも安静にできるように歩いて帰れる距離でも電車や、バスを乗り継いでいた。


でも。


もうそんな必要はない…




安静にしても
祈っても
願っても
何をしても…

赤ちゃんは私の中にいないのだから。





長い帰り道を歩いて帰る。
涙が出そうになると上を向いて、ゆっくり、ゆっくり帰った。






旦那さんに話すと、ただただ切なそうな顔をする。
旦那さんも辛い。
何もできないことが…
旦那さんには私のように赤ちゃんの宣告をされたり、手術をしたりと辛いことが無いことが辛いといつも言ってた。






2日後の朝早くに旦那さんを送り出し、手術に向かう。
今回は病院にも1人で行かなきゃならない。
心細かった。




総合病院に着いたのは診察が始まる1時間前。
意外なことに人はたくさんいた。

「〇〇さん、今回は注射だけですねー」
「〇〇さん、今回はお薬がでています。」

人が列をなして、男の先生がテキパキと部屋に案内している。




不妊外来の人たちだ…



ここでは曜日を区切って不妊外来もやっていた。
不育と不妊、どちらも赤ちゃんを望んで治療を頑張るもの同士。
なんだか不思議な気分でその様子をぼんやり眺めてた。




30分ほど待つと手術前の診察と前処置のために部屋に呼ばれる。





「はい、じゃ、エコーね。」

この前の高圧的な医者だった。

「…。」



部屋に入るなり、患者の顔も見ずに診察台へ促される。



「出血は落ち着いてきてるみたいだね。赤ちゃんも見えない。予定通り手術しましょう。」

「あの、出血は治ってきてるのですが手術しなきゃなりませんか?」


「残っては大変なので手術します。」




最後は強い口調で断言され、前処置の準備が開始される。





心が痛い。






流産というこんな辛いことが起こって、
これからもっと悲しい手術が行われるのに、私はなぜ冷たくあしらわれなきゃならないのか。




医者にとっては毎日みるような流産手術も、一人一人にとっては堪え難い辛いことなんだよ。




ほんの少しでも患者に寄り添うような言葉がかけられないものなのか。






前処置も前よりも痛くて、痛くて

それでも強引に淡々と進められるから




泣きながら歯をくいしばって耐えるしか無かった。




 






車椅子に乗り、1人の看護婦さんに連れられて、病室に向かう。




エレベーターが閉まる瞬間、やっと静かになったことで涙が止まらなくなり、手でぬぐう。


 





「辛かったですよね。もう痛いことはないですからね。」


どうやら看護婦さんは処置が痛くて私が泣いているとおもったみたいだった。


もちろん処置も痛みはあったけど、それ以上に心をズタズタにされたことが悲しかった。




「…、私は痛くて泣いてるんじゃなくて、辛くて…!」
それ以上は涙で声が続かない。


うんうんとうなづかれ、わかってくれたのか、わかってくれてないのか…



どうでも良くなった。



確かにもう後は眠りについて、眠っているうちに全ては終わる。
もう何も考えないで、早く家に帰ろう。

  


心を無にして淡々と手術までの時間を過ごした。