明日の工学院での講義を拝聴に行くに備えて、林田先生の「三国志と乱世の詩人」を読み返していました。

そこで、せっかくなので久しぶりに漢詩の引用でもしようかなと。

イベントレポートブログになりつつありますもんね(笑)

今回は曹丕の六言詩「寡婦」を取り上げてみます。

建安七子の一人である阮瑀が亡くなった時に、未亡人となった彼の妻の心境になって詠んだものとされています。

また、この当時は五言詩がメジャーな詩の形だったので、六言詩というの自体が珍しいです。

そして兮の字が入るのは楚風だそう。

調子を整えるための助字で、特に訳さないものらしいんですけど。

初の七言詩である「燕歌行」しかり、曹丕は想いを乗せるためなら作詩の形式に捕らわれない人ですね。



「寡婦」曹子桓


霜露紛兮交下
木葉落兮淒淒
候鴈叫兮雲中
歸燕翩兮徘徊
妾心感兮惆悵
白日忽兮西頽
守長夜兮思君
魂一夕兮九乖
悵延佇兮仰視
星月隨兮天廻
徒引領兮入房
竊自憐兮孤栖
願從君兮終沒
愁何可兮久懷

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霜露紛として交下り、
木葉落ちて淒淒たり。
候鴈雲中に叫び、
歸燕翩として徘徊す。
妾が心感じて惆悵として、
白日忽として西に頽る。
長夜を守りて君を思ひ、
魂一夕に九たび乖る。
悵として延佇して仰ぎ視れば、
星月に隨ひて天に廻る。
徒らに領を引きて房に入り、
竊かに自ら孤栖を憐む。
願くは君に從ひて終に沒せん。
愁ひは何ぞ久しく懷くべけんや。



内容的にはまさに曹丕節です。

女性的な感情、内に向かう負の想いの強さを詠わせたら三曹の中でも曹丕最も良し、といったところでしょう。

個人的に大好きな表現は「長夜を守りて君を思ひ、魂一夕に九たび乖る。」のところです。

どうやら儒教だと、死後の魂は厳密には魂と魄に分かれて、魂が天に昇り魄が地に降るという考えがされていたようです。

初冬の霜や木の葉が落ちる様を地の描写、太陽や星月を天の描写と考えると、自然の風景の中に一人の小さい女性の魂魄が溶け込んでいるという絵が浮かび上がるようです。

この詩のメインは天でも地でもなく、女性でもなく、彼女の魂魄という核心の部分なのです。

そうしたミクロの視点こそが曹丕の詩が持つ特徴であり魅力であると、改めて感じます。