こんばんはー。

先週金曜日は工学院大学へ、土曜日は二松学舎大学へ、著名な先生方の発表の拝聴に行ってきました。


金曜日の方は、私の愛読書『三国志と乱世の詩人』著者の林田槇之助先生の講演で、曹操や陳琳、曹植の詩についてお話ししていただきました。

今回はそれについて書いていきます。

私の好きなとこピンポイントすぎて講義中にニヤけちゃったのは内緒です!(笑)

予定より結構時間が延びて、得した感じでしたし(笑)


先生いわく、曹操はコンプレックス(宦官の孫だとか、威厳に欠けるとか)があるから表現ができる、とのこと。

作品というのはマイナスの感情がバネになって生まれるという観点は、すごく共感できるものがありました。

建安文学に言い知れぬ奥深さを感じるものがあるのは、詩人達は誰もぬるま湯の中で詠んでいたわけじゃないからかも知れません。

建安文学は「社会に責任を持った者の文学」というのも納得しました。

ただ娯楽で詩を詠んでるんじゃなく、彼らは書記や檄文の担当として実際に戦地にも赴いていた身分でもあるので、切実に伝えたい何かが詩の中に表れている。

例えば曹操なら政治理想、晩年の曹植なら中央へ戻ることへの請願・・・。

『論語』の中の孔子の言葉に詩は「思無邪」という言葉で表現されているそうです。

これは心情の発露、ということを意味するとか。

孔子は弟子達にも詩作を勧め、官僚になるためにも必要なものだと教えていました。

なぜなら、詩を通して民衆の喜怒哀楽を知ることができるから。

民衆の苦しみを知った上での政治は不可欠ですからね。

民衆の心に重きを置く意味で、中国では散文より詩を重視する傾向が今でもあるそうです。

それ以外にも、自分の住む地域以外の地方の詩の描写から知らない地域のことも学べるし、自分の志・事物を観察する目・公共の精神を養うことができる・・・という利点が挙げられていました。

また、魯人は特に建安文学について「詩(文学)の自覚時代」と表したそうです。

私的にはやはり、無名氏ではなく名前のある個人として詩人(当時の人は自称していないと思われますが)の概念が生まれたことは大きかったと思っています。

それが、先に挙げた「社会に責任を持った者の文学」というのと重なって、私の中での建安文学の認識がより明瞭になったと感じています。

詩作ひとつひとつについては、本気で書くといつものように一作品で記事一つ分に相当してしまうので(笑)、特に気になったところを挙げてみますー。

曹植の「泰山梁甫行」についてです。

短めな作品なので、原文載せておきますね。


「泰山梁甫行」 曹子建


八方各異氣,千里殊風雨。
劇哉邉海民,寄身於草野。
妻子象禽獣,行止依林阻。
柴門何蕭條,狐兎翔我宇。

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八方各々気を異にし、千里風雨を殊にす。

劇しいかな辺海の民、身を草野に寄す。

妻子は禽獣に象て、行止は林阻に依る。

柴門何ぞ蕭條たる、狐兎我が宇を翔く。


悲惨な地方の様子が伺えると思うんですが、先生はこれを魏に対して訴える挽歌だとおっしゃっていました。

この時の曹植は辺境に追いやられていたので、自分のいる地はこんなにも酷いんだということを分かってほしい、という事ですね。

その解釈にも現在の私としては全面的に同意してます。

というか、三曹や建安七子の詩にはまってすぐに「三国志と乱世の詩人」を読んだものだから林田先生の考え方にはだいぶ染められているのかも知れません(笑)


ちなみに・・・次の日の学会後になんと先生とお酒の席をご一緒できる機会があって、この日にも取り上げられていた曹植の「吁磋篇」についてちょっと質問してみました。

三国志学会で頂いた「三国志研究」に収録されていた川合康三先生の文章で、「野火に随って燔かれん」という表現が仏教の影響を受けている可能性が指摘されていて、それについて私も以前このブログで触れてみてたので、仏教の思想がここにあるのかどうか、先生の考えを聞かせていただきたくて。

先生としては、仏教思想があるとは考えていなかったそうです。

私としては「戦火」だと思うんですけど・・・とちらっと言ったら「あー、面白い!」と言っていただけてそれだけで感激しちゃいました(笑)

だって、だって、詩の第一人者の先生に解釈の面白さを褒められたって名誉じゃないですか~!?

同席していた先生方皆さん頷いてくださって、この説は大事にしつつもっと膨らまそうと思いました(笑)


そんな学会のお話は次回にでもまた詳しく書きたいと思います♪

ちょっと出かけたり色々あるのでまた時間空いちゃうかも知れないのと、私なんかがいるのが場違いなくらい学術的な(当たり前だけど)学会だったので、私の文章で語りつくせるのか分からないですが。。

お待ちいただけたら幸いですっ。