3月5日(木)

 世界の金融市場は、2月最終週に入ってから新型コロナウイルス感染拡大の影響による動揺から、下落が止まらぬまま3月に入りました。世界の株式市場全体の値動きを示すMSCI全世界株指数(ACWI・米ドル建て)は当該1週間だけで10%以上下落する程の大きな値下がりです。この瞬間で見ると、昨年秋以降右肩上がりの上昇幅が一気に帳消しになった状況で、世界のマネーが同時にリスク回避に動いているわけです。一方で株式市場から退避した資金は、安全資産と言われる先進国債券市場に流れ込んで、その代表格である米国10年国債の利回りは史上最低水準を更新し、即ち同価格は急上昇を見せています。なぜこうした連鎖が起こっているのか。まずはコロナウイルスの感染が中国以外の各地に拡大し始めたことで、それがどの程度まで拡散するのかの規模感がまだ見通せないことです。そのため様々な経済活動の停滞が不確実性として意識され、中国のみならず世界全体の景気を悪化させることが想起されて、短期筋の瞬間的な売りへと連鎖しているのです。

ウイルス感染源である中国は、世界の製造拠点として今やモノの輸出入に大きく関わっており、部品の供給網は世界中に網の目の如く張り巡らされていますが、そのサイクルが途絶えるとあらゆる産業活動が支障をきたす。そうして世界貿易が滞ることが大きな懸念要因になっています。

また中国人は観光面でも世界各地に大きなインバウンド需要を与えていますが、その消費減少も各国経済に多大なる影響を及ぼすでしょう。更に日本と同様に、不要不急のレジャーや外出などが自粛されることによる日常経済の萎縮も、景気の足を引っ張るであろうことは、マーケットがすぐに反応する処で、こうした実体経済への衝撃は、感染の収束が見込まれるまで続くことでしょう。

とは言え、過去にもSARS(重症急性呼吸器症候群)などの流行でマーケットが大きく影響を受けた出来事に鑑みても、これはやがて収まる一過性のショックであろうと推察でき、感染不安が拭われてくれば、経済活動は反動も伴って一気に回復に向かう可能性をしっかりと長期投資家は想定しておくべきでありましょう。そして米金融当局は早くも利下げの再開で政策対応の意志を見せるなど、各国の緊急経済対策も早晩動き出すことでしょう。

こうした一過性と言える騒動は、しばしば後になって振り返ると、大きな市場ノイズ(一時的調整)であることを、何度もマーケットは歴史に刻んでいます。私たち長期投資家は、現状短期投機筋が狼狽している動向を冷静に俯瞰しながら、実体経済の長期的活動が描き続ける成長軌道をしっかりと見据えて、決して慌てて投資行動を変えない胆力を、今こそ強く意識してください。相変わらずコツコツと投入し続ける資金が、将来の果実を大きく育んで行く機会となるはずです。