10分でわかる「平家女護島」鬼界が島の段【文楽のあらすじ】 | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫

 





豊竹咲寿太夫
オフィシャルサイト

club.cotobuki
HOME

 

 


 鬼界が島の段




▲令和6年初春公演チラシより



平安時代末期、真言宗の僧の俊寛は平家討滅を企て、捕えられた後に九州南方の流刑地だった鬼界が島へと流されました。


同じく、その反逆の罪に問われた平康頼丹波少将成経も鬼界が島への流刑となっていました。





流刑となってから3年の月日が経ち、俊寛はやつれていました。


同じくやつれた姿の康頼を見て、仏教の六道・三悪道のひとつ、飢えに苦しむ世界である飢餓道へ落ちたか、と思いを馳せていました。




浜辺の芦をかき分けて、成経がやって来ました。

康頼は、この3人の伴いが4人になったことをご存知か、と俊寛に尋ねました。


1人増えたと聞き、俊寛は新たに島流しになった人が現れたのかと心配します。


その心配は無用でした。


流人が増えたわけではなく、成経が島の海女と恋に落ち、夫婦の契りを結んだのです。


成経は顔を赤らめながら、海女の千鳥との恋を語りました。


喜ばしい話に俊寛は笑顔になり、千鳥に会いたい、小屋へ向かおう、と早速その場を離れようとしました。


成経はそれを止め、康頼を兄と、俊寛を父と拝みたく、千鳥をすぐ傍まで連れてきていると言うと、芦の向こうに呼びかけました。



すぐに芦を掻き分けて、可愛らしい海女が姿を現しました。


俊寛は会釈をして千鳥に挨拶をしました。

そして、この3人は親族も同然、娘だと思いたい、と言い、早く赦免となって4人で京へ入る楽しみを思いました。

4人は、この場に酒はないけれども目出度いという言葉が三々九度だ、と喜びました。







4人が気持ちばかりの祝言を祝っていると、沖に大きな船影が進んでくるのが見えました。


京の武士の印を立てた大船が着岸すると、都からの使者とその使いの者たちが降りてきました。


瀬尾太郎兼康丹左衛門基康の2人の使者は、流人はいるか、と高らかに呼ばわりました。


俊寛、康頼、成経の3人は使者の前に手をつき、頭を下げました。


瀬尾太郎は首に掛けていた赦し文を取り出すと、康頼と成経に対して、流罪の赦免を述べました。

中宮のお産の祈りによる異例の赦免だということです。


しかし、同じ罪で流罪となっているにも関わらず、俊寛の名前はありません。

俊寛が悲しみにくれていると、もう1人の使者の丹左衛門が懐から文を取り出しました。


小松重盛の情けにより俊寛も赦免となる、との文でした。



嬉しさに心を振るわせ、俊寛と康頼、成経と妻の千鳥は船へ乗ろうとしました。


それを妨げたのが瀬尾太郎でした。

船に乗ることができるのは赦免のあった3人のみ、夫婦となったといえども船に乗せることはできないと言うのでした。


さらに瀬尾の言うには、もともと俊寛のお赦しはなく、2人のみが船に乗って関所を倒れるところを、小松重盛の情けで「二人」に線をひとつ足して「三人」と書いてまで関所を通れるようにした今回の事態。

それを4人とするなど誰の許しがあってできるものか、それに俊寛の妻は平清盛に首を討たれ、赦免があったといっても俊寛は囚人同然、と瀬尾はまくしたてると3人を船底へ押し込めろと家来に命令しました。






千鳥は浜辺にただ1人残され、あまりの容赦のなさに泣き喚きました。

嘆き悲しんだ千鳥はとうとう頭を岩に打ち当てて自ら命を断とうとしました。


俊寛は慌てて船から降りて、千鳥に駆け寄りました。


妻が討たれ亡くなった場所へ戻っても喜びは何もない、都の月花も見たくない、自分はここに残って千鳥が代わりに船に乗るといい、と俊寛は使者の2人にそう願いでました。


しかし瀬尾太郎は怒りて船から飛んで降り、そのように自由が通るなら赦免も何も関係ない、千鳥を船に乗せることはならないと許しませんでした。



俊寛はそんな瀬尾に「お慈悲を」と近寄ると、瀬尾の腰刀を稲妻のごとく抜き取り、肩先に斬りかかりました


血まみれの瀬尾は、けれども致命傷とはならず、差添を抜いて起き直り俊寛に打ってかかりました。


その様子に船中も騒ぎたて、丹左衛門は船首へ上がると、自分がこの争いの一部始終を見届けて報告すると宣言しました。



手負いの瀬尾と、飢えにやつれ果てた俊寛、両者とも危うく見えましたが、俊寛は瀬尾を蹴倒してその上に馬乗りになりました。


丹左衛門は、そこまでにせよ、と声をかけました。


俊寛は、ここで自分が使者を手にかけるという罪を重ねるのでそのまま島に置いていき、千鳥を代わりに乗せてくれ、と望みました。


恨みの刀を受け取れ、と俊寛は瀬尾の首を押し斬り、止めをさしました。




千鳥は自分の未練で俊寛に罪を重ねさせてしまい、どうして船に乗ることができるか、とその場を去ろうとしました。


俊寛は千鳥を縋り止めて「飢えに苦しみ続ける餓鬼道、今経験した争いの修羅道、鬼界が島の硫黄が燃える活火山の地獄道、現世でこの三悪道を経験し来世を助けてくれないか。自分はもはや現世の船に乗ろうとは思わない。彼岸へ向かう弘誓の船に乗るのだ」と言いました。


千鳥を船の前まで引き連れていくと、俊寛は抱え上げて船へ乗せました。




船はもやい綱を解いて出船しました。




俊寛は遠ざかっていく船を見送ります。

先程は悟ったつもりでいた俊寛でしたが、小さくなる船に心が抑えきれず、島の端まで船の影を追い、やがて崖の岩の先にまでよじ登って、先端の木に掴まり身体を乗り出して、その袖を涙に濡らすのでした。




 

 

 

 

 

 

 



とよたけ・さきじゅだゆう:人形浄瑠璃文楽
 太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
公演に主に出演。


その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
オリジナルLINEスタンプ販売中

 

 

 


豊竹咲寿太夫
オフィシャルサイト

club.cotobuki

HOME