さすがにこれは・・・ | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 医療ミスに関するニュースがありました。とても気になったので転載しておきます。

 山大付属病院が医療過誤謝罪 血管損傷で50代女性死亡

 宇部市の山口大学医学部付属病院(田口敏彦病院長)は、手術中に誤って血管を損傷させ50代の女性患者が死亡したとして、田口病院長らが24日に会見を開き、医療過誤と認めた上で謝罪した。

 女性は左腎臓の腫瘍摘出手術を受けるため、6日に同病院の泌尿器科に入院。腹腔鏡を使って摘出することになり、執刀医1人と助手3人で手術チームを編成。執刀医は、腹腔鏡手術38例の経験がある医師19年目の40代男性。助手は医師歴4~18年で、腹腔鏡1~10例の経験があった。

 手術は10日に実施。左腎動脈を切断するため、腹腔鏡を操作し、誤って腸につながる上腸間膜動脈を切断。左腎静脈の血流が十分に遮断されなかったため、誤切断に気付かないまま、肝臓などにつながる腹腔動脈を2本目の腎動脈と誤認して切断。その後、左腎静脈を切断したところ、左腎臓と腫瘍から大量出血があったため、腎臓への動脈に止血のクリップをして、誤って右腎動脈と大動脈もクリップし、開腹手術に切り替えた。

 術後、チームは誤切断や右腎動脈のクリップかけに気づいておらず、直後のCT検査で腹腔内臓器の血流不良が判明。誤切断の可能性があるとして緊急の再手術を実施したが、誤切断で血液が流れなかったための肝不全、腎不全、大量出血に伴う播種性血管内凝固症候群(DIC)など多臓器不全が進行し、12日に死亡した。


 以下は私のコメントです。

 今回の山口大学の医療事故はいけませんね。これは明らかなミスです。上腸間膜動脈や腹腔動脈を誤切断したが術中に気付いて修復できたとすれば、ミスとは言い切れないでしょう。つまり、術中のトラブルを何とかリカバーできたと言うことになるのでしょう。それができなかったらミスと言われても仕方ありません。

 今回のケースでは、誤切断に気付かず閉腹して手術終了してしまい、なおかつ対側の右腎動脈のクリップかけに気づいていなかったということは、さすがにお粗末と言わざるを得ないでしょう。これでは3段階のミスをしているということになります。医療ミスのあるべき典型例とも言えるでしょう。

 別の記事では、執刀医は腹腔鏡手術38例の経験がある医師19年目の腎がんのスペシャリストと記載されていましたが、産婦人科領域で言えば執刀38例の経験ではスペシャリストと呼ばないように思うのですが、この辺りは領域ごとに異なる温度差というものなのでしょうか。

 さすがに今回のようなケース、大反省が必要と思います。ちなみに、私はもし同様のケースを経験したらメスをおきます。そんな覚悟で毎回の手術に臨んでいます。

 医療行為の結果、患者さんに不利益な結果が起こった場合を医療過誤といいます。この医療過誤には、知識不足・技術不足による明らかな医療ミスから一定頻度で起こりうる不可抗力まですべてが含まれています。両者が様々な割合で混在することもあるでしょう。

 患者さんサイドはきっと医療あるいは医療者への不信があるからなのでしょうが、不利益な結果が起こった場合には、すぐに医療ミスと騒ぎ立てる傾向があります。私はこれはいただけないと思っています。難しい病気や稀な病気の治療あるいは難しい手術においては、どうしても不利益な結果がゼロにはなりません。しかし、不利益な結果=医療ミスという図式が成り立つと医療全体は萎縮します。難しい病気や稀な病気の治療あるいは難しい手術に対応する・挑戦する病院や医師が減っていくことにつながります。これは患者さんにとっても良いこととは言えません。

 医療過誤においては、まずは原因の究明が第一であり、その結果として医療ミスなのか不可抗力なのかが分かってくるものです。医療そのものを萎縮させないためにも、最初から不利益な結果=医療ミスという図式で騒ぎ立てるような行動は慎みたいものです。



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