女性のポートレートに詩が添えられた写真詩集をご案内します。40代半ばから50代の女性の隣に寄り添い立つような一冊です。
今日までそして明日から/佼成出版社

2015年6月発行

帯には阿川佐和子さんの笑顔とこんな文章があります。
自分の顔、嫌いですか?
私はときどき鏡の前で、
やんなっちゃうなあと思います。
でもたまに、ま、悪くないか、とも思う。
だって目尻のシワも、まぶたのタレも、
ハリのない肌も、
みんな頑張ってきたんだもん。


本のタイトルにも惹かれて手に取りページをめくったら…女性の顔・顔・顔。
わたしと同年代じゃないかな?いや、ちょっと上かな。と思いきや正解。50歳の女性たちだそうです。
オールカラーの写真は田淵章三さんによるもの。自然光で撮影しているそうです。

右側に顔。左側に群馬の嬬恋の自然。四季折々の顔。その上に一行ずつ谷川俊太郎さんのことばが重なります。

息つぎをするように、花や木、枝と葉などの写真が見開きで挿入されています。この自然の有り様と女性のポートレートの調和が印象的です。「50歳」という立ち位置となんだか一致しているような気がします。

田淵さんは初対面の女性たちを撮る前に一時間ほど話をするそうです。撮影中もしゃべってその人のすべてを引き出したい。「リラックスと緊張は均等に必要」と田淵さんが思う通り、その瞬間に切り取られた女性たちの表情は、おすまししすぎず、かといってあまりに砕けたかんじでもない。身近な人と向き合っているときにふと見せる本当のその人らしい素の顔のように感じました。

田淵さんは撮った写真をセレクトしながらこう思ったそうです。
シワに50年の老いを見た。シミに50年の疲れを見た。
ときどき見せるふとした表情と
厚めの化粧におんなであり続けたいと思う願望を見た。と同時に
シワに、シミに愛おしさを感じた。
そして何より、その凛とした佇まいに、
しなやかさと、たくましさと、したたかさを見た。
女はすごいと思った。しっかりと前を向いている。

ははは。思わず笑ってしまったのは、自分や同志たちの状況を思ったから。
50年近く生きていると、いろいろな顔を持つようになる。妻、主婦、母、働く人。ずっと同じ状態は続かない、ということがよくわかってくる。母であっても、子は成長する。だからその都度ちがう対応をしなければならない。地域のつきあいも、母同志のつきあいもある。面倒もあれば新たな出会いも絆も生まれる。めくるめく変化の中で、風に吹かれながら根を張る。場所が変わっても、またすぐ根を伸ばす。過去を振り返っている時期もあったけれど、次第に夢にも出なくなる。今とちょっと先のことしか考えない。遠い先を見越してするのはちょっとの貯金くらい。視野は狭いようでも、前を向いているのは確か。

谷川さんの詩が2つ挿入されています。「もうひとつの顔」(『手紙』1984.1)・「できたら」(『詩の本」2009.9)
谷川さんはあとがきの中でこう言います。
男性の生命力が動物的だとすれば、女性の生命力は植物的と言えるかもしれません。根を下ろし、葉を茂らせ、花を咲かせ、実を実らせる。男は化粧の下の女の素顔、そこに現れた歳月がもたらすものと歳月が奪うものが一つになった自然の力を、密かに畏れます。

50歳を目前にして自分の顔を鏡の中で見ると、これまでとのちがいが目立ってきたことがわかります。まぶたは下がってくるし、ほうれい線は目立ってくるし、視力も悪くなり眉間のシワも深くなる。肌はくすむしシミも目立つ。若い頃とは明らかにちがう。でも、これがわたし。変わっていくこと、顔にいままでの生き方が出てくることは、怖さ半分、おもしろさ半分。

詩のはじまりの文章はこうです。

これが私です


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