自民党国防議員連盟において同志社大学特別客員教授の兼原信克先生をお招きし、台湾有事と日本の対応について講話いただいた。概要についてお伝えする。

〇台湾有事は日本有事
国防総省が公表した中国の軍事力に関する年次報告書によると、中国が核戦力の増強を加速、運用可能な核弾頭の数がすでに400を超えたと推定され、2035年におよそ1500発の核弾頭を持つ可能性が高いと見通している。更に、ロシア・ヨーロッパの状況が落ち着く前に中国は台湾有事を起こすのではないか、という不安がある。もしも台湾有事となれば、中国のA2ADで米国軍は台湾に近づけず、むき出しの自衛隊が中国と対立することになる。この状況は、朝鮮戦争とは話が違うのだ。
台湾有事は日本有事である理由は、尖閣、先島、米軍基地の3つの理由がある。
台湾有事の際、尖閣も取られる可能性が非常に大きい。中国は尖閣を台湾の一部と言っており、台湾を取るが尖閣は遠慮しますよ、ということは期待できない。また、尖閣は滑走路を設定できる地積があり戦略的価値は大きい。
先島は、台湾から110キロであり、台湾有事において戦闘空域になりうる。
米軍は、米軍基地から戦闘作戦行動を取るため、日本は後方支援・武力行使いずれをすることとなる。
以上から、台湾有事においては日本も有事になると言えるのだ。朝鮮戦争の時、戦場は朝鮮半島であったため日本は後方支援国家であったが、台湾有事においては前線国家となることを想定しなければならない。

〇3回の裏までしか戦えない自衛隊(継戦能力)
台湾有事が起きれば、最終的にアメリカが勝つことになるが、その時に日本国土がどれだけボロボロになっているかが問題であろう。生半可な気持ちで戦争になれば台湾だけでなく日本国土もかなりの被害を受ける。戦争はやらせない、という考え方と体制作りをしないと日本は取り返しのつかない大きな打撃を受けることになる。
しかしながら、自衛隊の継戦能力は悲惨である。弾無し、部品なし、弾庫なし、医者なし、基地もタンクも青空。核シェルターもなし。隊舎は地震で潰れる。今までGDP比1%に縛られていたしわ寄せが来ているのだ。
そもそもどうしてGDP1パーセントなのか。これは、三木内閣の戦略なき防衛力凍結(第一次防衛大綱)から始まっており、相手の軍事力を考慮せずに最低限の防衛力があれば良いという政府の責任放棄の結果である。自衛隊は、3回の裏まで北海道戦を頑張り、後は米軍任せという構想であったが、米軍が近づけない台湾有事は9回の裏までの長期戦である。防衛費をGDP比2%へ上げ、継戦能力を整備しなければならない。この際、米軍から買うのではなく、防衛基盤整備を民間が請け負わせて最終的に日本の産業へ貢献するよう仕組みを整える必要がある。

〇 反撃力(中距離ミサイル)は当たり前
日本は中距離ミサイルギャップがある。ロシア、中国、北朝鮮だけでなく韓国や台湾も中距離ミサイルを持っている中、日本だけが200kmの射程距離に制限しており一方的に丸裸なのだ。専守防衛だからと長い短いを検討している場合ではない。そもそも専守防衛と非武装中立をはき違えている論者が多い。全力でくる相手に対して、全力で立ち向かい、敵勢力を撃滅することが戦争である。打たれて国境を超えて打ち返すのは当然のことであり、早く戦争を終わらせることが重要である。国民が犠牲になっても良い専守防衛なんてものはない。

〇「竹光」の自衛隊サイバー防衛隊
東京オリパラでは、NISC(200名ほど)によりサイバー防衛はできたが、戦争等有事の際はサイバー軍と呼ばれる万単位の要員で守る必要がある。残念ながら、現在の自衛隊でサイバー要員は数百人しかいない。加えて、不正アクセス防止法、不正指令電磁的記録罪で手足を縛られており、サイバー上での偵察活動やウイルス作成、いざという時のサイバー攻撃を自衛隊ができない状態なのである。手足を縛られた自衛隊が戦えるのか。一刻も早い法整備が必要であろう。
では、日本のサイバー防衛体制はどうあるべきか。自衛隊が守るのは自衛隊のシステムが中心であり、政府や民間はNICSや民間自身でサイバー防護する必要がある。このため、民間に委託研究できるような仕組み、例えば量子・サイバー研究所の設置が必要であろう。

〇安全保障のための科学技術政策
戦後から我が国では科学技術を安全保障に活用しきれていないが、これは日本学術会議問題が足を引っ張っているためである。日本学術会議とは、GHQ民政局という左傾化した組織の名残であり、冷戦期の左翼思想が浸透(「米帝国主義に味方してはいけない」)した内閣府内に三四半世紀残った組織である。60年代のアカデミアが固着し、少しでも軍事に関わる研究であれば爪弾きにあう。これまでも総理の命に逆らっており、年間4兆円を差配するCSTIに常任しているが、防衛省には1600億円しか渡さないのだ。これは一般企業から見ても驚くほど少ない。
では、科学技術安保政策はどうあるべきか。採算の取れない最先端の科学技術に国家が安全保障のために予算をつけるとともに、科学の進歩こそ最善の安全保障という哲学を復活させる必要があるだろう。また、安保3文書だけではなく4文書目となる「防衛産業大綱」を策定すべきであろう。