ふるさと豊北の伝説と昔話、ツル、狐、海坊主 | 日本の歴史と日本人のルーツ

日本の歴史と日本人のルーツ

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(豊北の伝説と昔話 挿し絵)



ツルのいた頃

子どもの頃、今の滝部小学校の附近には、水田が五、六町歩もあり、その多くは深田でレンコンや稲を作っていた。秋になると、ここにナベヅルが毎年10羽から20羽やってきた。日中はこの附近でドジョウや落ち穂をついばみ、大庭の水田との間を往来し、夜は現豊北高校の近くの森で休んでいた。

ある年、村人の一人がキツネか野犬に襲われて脚を傷めたツルを見つけた。これを捕らえてトリ小屋でエサを与え傷の手当てをしたので、ツルは元気になった。ツルは家の人に慣れて、ついて歩くようになった。かわいいツルのことを考え仲間のもとに放したが、翌秋には数が増えたので、ツルがお礼に仲間をつれて渡ってきたとうわさしていた。今から30年以上も前のことです。静間昇輔さんも「ツルが子どもの頃、滝部にいたことを書き残したい」と語っておられた。

ところで、日支事変(日中戦争)が起こった頃からツルが姿を消した。村では悪者がツルを捕るために鉄砲を打ったからだといわれているが、その頃から食糧増産のために二毛作が奨励され、ツルの定住した湿田を暗渠排水して乾田化したのでツルのエサがなくなり、姿を消したのが真相だと思う。

(豊北の伝説と昔話 第四集)


滝部のおサン狐

昔、神田口で鍛冶屋をしているおじいさんがきょうも神玉へ仕事に出かけました。帰りに鞴を担いで根崎と神田口の境の淋しい夜道を急いで歩いていると、通りすがりに美しい娘さんが近 づいてきて、やさしい声で頼みました。「私は今から岡林まで帰らなければなりません。すみませんが、家まで連れて行ってくださいませんか」

おじいさんは「もう日も暮れて暗くなった」「女一人で夜道を帰るのは大変だ」「神田口に帰るので私の家に泊まって翌朝、岡林に帰りなさい」と言って娘の手を引っ張った。すると娘は「お宅にお世話になることは出来ません」と言いました。親切なおじいさんは「今から岡林まで帰るのは無理だ」と娘の手を強く引っ張って、わが家の方に帰りはじめました。

家の近くまで帰り着いたが、鞴が少し傾いたので担ぎ直そうとしたとき、握っていた娘の手が離れ、その途端、娘はみるみるうちに大きなキツネになりました。口を大きくあけて「グウグウ、ギャーギャー」と吠えながら走り去っていきました。

驚いたおじいさんは息を切らして、わが家に走り込んだ。家の人たちはおじいさんを見て「何かあったんか」とたずねると、「手が離れたすきに、娘は大きなキツネに変った」「とてもこわかった」と言いました。

おばあさんは、「あそこには昔からおサンという人を化かすキツネがいるが、その仕業ではないか」と言いました。鍛冶屋ではゴンタという猛犬を飼っていたので、おサン狐はゴンタを恐れて逃げたのかもしれません。

(豊北の伝説と昔話 第四集)


二見の海坊主

昔、冬も近いある朝、漁師の吉弥は、伝馬をこいで沖にでかけた。その日は朝から魚が一ぴきも釣れない。グチをこぼしながらがんばっていると、昼頃から潮が変り、急に釣れ始めた。タイ、ブリなどが面白いようにかかる。

夢中になっているうち急に海がしけ、暗くなり始めた。あわてた吉弥は、港へ帰ろうといかりを上げ漕ぎはじたが、舟が前になかなか進まない。おかしなこともあるものだと、ひょいとヘサキをみると、見たこともない真っ赤な坊主が舟に乗り移ろうとしていた。

「こら!何をする」といってカギ棒をもって追い払おうとするが逃げない。何かものを言っている。聞きとると、「ヒシャクはないか、ヒシャクをくれ」と言う。水あかをくんで捨てるためにヒシャクを一つ、二つ舟に積んでいるものである。

さては海で水死した亡霊が迷い出たか、と勘づいた吉弥は穴の開いたヒシャクを「ほうら!これをやる」といって海に投げた。海坊主がそれをとる間に必死に漕いで逃げたが、しばらくすると舟が重くなった。再び海坊主が現れ「ヒシャクはないか、ヒシャクをくれ!」と言う。

波が高くなり船足が鈍り、この分では浦に帰れそうもない。そこで、急いで残りのヒシャクの底を割り、釣ったタイやブリとともに沖に投げ捨てて二見浦へ舟を急がせたが、なお海坊主は追って来る。もうこれまでかと観念しながら「ナンマイダー、ナンマイダー」とお経を唱え、なんとか海坊主を振り切って港へ帰りついた。

さて、海坊主とは一体何者であろうか、北浦には海坊主の話はあまり残っていない。一説には、海坊主は海の遭難者の亡霊であり、大タコのような姿をしているそうだ。この話しのようにヒシャクを所望し、与えるとこれで海水を舟にくみ、沈めて漁師を海にひきずりこむといわれている。だから、海坊主に穴の開いたヒシャクを与えれば助かると信じられている。

(豊北の伝説と昔話 第四集)

(彦島のけしきより)