数年前、まだ会社に勤めていた時のこと。
「こんなところすぐに辞めてやる！」
帰宅するために車を運転しながら私はそう誓うと同時に、
「会社を辞めて、自然に囲まれた場所でハーブティーを飲みながら執筆活動をするような穏やかな生活をするんだ」
というイメージを膨らませていた。
その後私は「引き寄せの法則」やら「潜在意識で願いを叶える」やらの本を読み漁り、依存するようになる。
その手の本には、「強く願ったことは必ず実現する」と書かれており、「強く願うためには願いを口で唱えたり文章にして書くのが効果的だ」と書かれているものがほとんどだ。
作家として小説を書く行為はまさにそれで、例え自分が経験していないことやあり得ない世界のことを描いていたとしても作家が作品執筆中に考え小説の中で表現していたことは本当に実現する。
「作品から最も影響を受けるのは作者自身だ」と身をもって実感することは今までに何度もあった。
今、3年以上執筆をしてきた「項羽と劉邦」の物語の最終話を書いている。
「この物語を書き切った時、私の人生にも何か大きな変化がある」
3年前、執筆にとりかかった時、すでに作家の宿命を知っていた私は当時からそう予感していた。
若い頃は飲んだくれの怠け者と評されていたにもかかわらず、戦に出ることになり最後は天下を統一し皇帝になった男、劉邦。
皇帝になったら酒池肉林の贅沢を極めるのかと思いきや、彼は天下統一後も各地で起こった謀反に自ら兵を率いて戦っている。
死因は謀反鎮圧の際に受けた矢傷。
……私は本当に「穏やかな生活」を手に入れられるのだろうか……。
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