第六話 | ジュセー 徒然。

ジュセー 徒然。

てきとーに。
創作とかやってます。

「さて、そろそろ始めようか、説明会」

無数の水晶に、少年の、マルジャークの薄ら笑いが反射する。

「トモダチにも、参加者にも、ね」

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昼間。
太陽。
夏が近づいているため、気温も上がっている。
そんな中、暑さを気にもせず、彼は歩いていた。相も変わらず、独り言を呟きながら。夢遊病患者めいて。

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(illust :さい。@Sai_xx31)

通り過ぎる人々は、彼を避けながら歩いていく。
その目は。
あるいは、侮蔑の目で。あるいは、恐怖を孕んだ目で。あるいは、冷めた目で。あるいは、あるいは……。

彼は、灰崎 黒星は、この町では有名だったーーー無論、悪い意味でーーー好き好んで彼と親交を深めようという酔狂な人は居ない。それこそ、唯一の肉親たる白星ぐらい……唯一の?

「唯一……違う、誰か一人居たはずなんだ……誰だ、一人、知っている、彼女は。彼女?女なのか?」

頭痛に見舞われながら、彼は思い起こしていく。ただ肝心な所が、出てこない。
独り言の声のボリュームを増す黒星に、人々はまたその目を。
それらを彼は、何かしらのオブジェクトにしか捉えていない。
あるいは、光に集まる虫か。
黒星は歩みを進めて行く。道は勝手に空けられる。それだけだ。
歩みを進めて、どこか目的地に向かおうというわけではない。いつだって彼には、目的地は無い。
ただ、当てもなく歩き、なんとなく。
進んでいく。

それだけ。

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やがて彼が辿り着いたのは、極普通の公園であった。
座亭家町第二公園。なんら面白味のない、普通の名前。
遊具はブランコと滑り台のみだが、そこそこの広さがあるため、子連れの親も多い。
が、彼等は黒星の姿を認めると、何か顔を合わせてこそこそと話し合い、一人また一人と去っていく。
彼はそれらを無感動に一瞥すると、近くのベンチに。寂れた雰囲気を醸し出すベンチに、腰掛けた。

風が、吹く。
木の葉が、揺れる。

「白星……白星、お前なんで……」

白星が死んだ。
白星が、死んだ。死んだ……。

彼の心中を埋め尽くす空虚ーーー空虚なのに、埋め尽くす?
虚無で溢れる。なぜ?

白星が死んだ。
白星が、死んだ。死んだ……。

昨日の夜に告げられた、重い事実を反芻する。何度も、何度も。夜も眠れないほどに、彼は。

白星が死んだのなら、誰がこの空虚を、虚無を埋める?
誰が。
分かっている。
分かってはいるが、思い出せない。

頭痛。

「白星……それと、あと一人……!」

風で揺れる木の葉の音、黒星の独り言の声。
それだけが、この寂れた空間を支配していた。暫くの間だけ。

「夜までずっと、そうしているつもりかい?黒星君」

その声によって、空間の支配は無くなった。
いや、この少年に、マルジャークによって支配されたか。

「昨日はごめんね、説明せずに帰っちゃって。少し用事があったものでね」

「お前……お前だ、マルジャーク。お前。白星、腕、鳴聲、何が!何故?」

マルジャークを睨み付けながら、黒星が質問を投げる。欠陥した話し方で。彼にとっては、普通の話し方で。

するとマルジャークは肩を竦め、呆れたような声で言った。

「やれやれ、どうもこの世界の君は頭に何か欠陥でもあるのかね?まぁ、大概キミは狂っているけどさ。キミとは違う狂い方だね、彼なんか未だボクを追って……あぁすまない、こっちの話さ」

何の話をしているかは、黒星には分からない。
ただわかるのは、自分の質問に対する解答が無かった、というだけだ。

「まぁいいさ、どの道わかるだろうし。
キミは説明を望んでいるね?ボクもそらを望んでいる。
だから、さぁ、始めようか。ボク達とキミ達の『ゲーム』を」

彼は変わらない微笑を浮かべながら、語り始める。
『ゲーム』。

「シンプルなものさ、至ってシンプル。
ボクの刺客がーーーボクのトモダチが、キミ達の世界に侵攻する。
トモダチを全員倒して、ボクの元まで辿り着ければキミ達の世界の勝ち。
逆にキミ達が全員倒されれば、ボク達の勝ち。この世界はボク達の物だ」

愉快そうに彼は話し続ける。
黒星は、珍しく独り言を言わず、黙ってマルジャークの説明を聞いていた。

「キミ達といっても、この世界の住人全てというわけじゃあ、ない。そんなの骨が折れる。
キミ達というのは、《***》を認識し、それを理解した者達ーーー異能力者と呼ばれる者達。あるいは、その可能性を秘めている者達。あぁ、白星君は後者だったね。
それらが、『ゲーム』の参加者として、トモダチと戦うのさ」

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(illust :さい。@Sai_xx31)

今まで黙って聞いていた黒星が、口を挟む。白星、という言葉に反応したというところもある。だが、それよりも。
不自然な単語に気づいたから。

「おいまて、なんだその、それ……《***》?あぁ!なんだこれ!気持ちが悪い!不可解だ!」

自分でも発せれたかどうかわからない。
この言葉は、知っている言葉であるはずなのに、そこにデジャヴは無く。
この会話の中に、何回も出てきている筈なのに。
不明瞭で。

「《***》。ふふ、そうだね。キミはまだ分からない。でも、分からなければいけない、理解しなければいけない。そしてその奥まで。
もう死んでしまったけれども、白星君だって同んなじさ。同んなじ、だったか。
そして依然眠ったままの彼女にも。キミ達は異能力者の範疇では……これ以上は、まだ楽しみにとっておこうかな♪」

言い終わる頃には、マルジャークの姿は忽然と消えていた。
まるで始めから居なかったかのように。
虚空だけが、そこにあった。

「彼女。足りない、一人……。眠った、まま?」

マルジャークが先程まで居たであろう空間に、手を伸ばす。

風が、吹く。
木の葉が、揺れていた。