Her Strangelove For Sister | ジュセー 徒然。

ジュセー 徒然。

てきとーに。
創作とかやってます。

魔界の辺境、カルガラ地方と呼ばれる場所。

そこには、シムクド村、ログスト村、アシロス村、そしてドグモ村。四つの村があった。

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アシロス村。人の賑わう広場にて。

三人の男女が、談笑していた。二人が男、一人が女である。三人とも、かなり若い。十代前半頃であろうか。
二人の男女が隣同士に座り、もう一人の男は対面になるように座っている。

「へっへっ……にしてもよお、お前らが、な……仲良くやりなさいな……友として見守ってやるぜ」

目に少しかかるぐらいの長さの茶髪の男が、対面に座る二人に笑いかける。彼の名はオヴサヴァ。
対面に座る角刈りの男が、顔を赤くしながら俯く。彼の名はアルガー。

「ちょっと、アル!なに照れてんのさ!」

少女が、アルガーの肩を叩き笑う。彼女の名はアラーニャ。気の強い娘だ。髪は白く、無地のリボンを着けている。目は翠。腕や足にはボディステッチがある。

アルガー、オヴサヴァ、アラーニャの三人は幼馴染である。この貧しい村で共に過ごしてきた友であった。

「アルは女子と一緒にいるとこれだからな……ま、お幸せに」

「オヴ、あんたはどうなのよ?」

アラーニャが目を輝かせながらオヴサヴァに話し掛ける。彼は陰鬱に笑いながら答えた。

「あぁ、いや。気になるのはいますよ……でもそれが多過ぎてね、決められないんだ。なんせ俺は優柔不断だから……へへ」

オヴサヴァは肩を竦めた。彼の言葉に虚偽は無い。多数の女性と噂が有り、色恋沙汰の絶えぬ男である。

「もうそろそろ決めた方がいいと思うよ。だって、兵隊さんでしょ?独り身だとさ、色々とキツイんじゃない?」

「キツイ?」

「そう。この村を長いこと離れることもあるでしょ?そうなったらさ、心の支えが無いと、さ?」

「ああ、ああ。そうだな。まぁ、気楽にいくよ。何とかなるさ……何とかな」

アルガーとオヴサヴァは、この地方の軍に所属している。
アルガーは心身共に文句無しの男であることを買われ。オヴサヴァは特殊能力を買われ。二人とも若い新人ではあるが腕は立ち、順調に功績を挙げていっている。

「なぁ、おいアラーニャよ。失礼かもしんないけどさ……お前んとこの姉君にはさ……いるのかい?」

オヴサヴァが小指を立てながら陰鬱に言う。アラーニャは無言で首を振った。

「へぇ……意外だね……美人だし体型いいしで……結構、良さげなのに」

「……あんたが色恋沙汰でよく騒がれる理由が分かった気がする。見た目だけしか見てないでしょ?」

アラーニャは呆れたような顔でそう言った。オヴサヴァは陰鬱に笑う。

「へぇへぇ、悪いね……ってことは姉君は性格悪りぃんだ?」

その言葉を聞き、アラーニャはため息を吐いた。そして憎々しげに言葉を放つ。

「悪いなんてもんじゃない!……ほんとに。やめておいたほうが良いよ。真剣に。あいつは。駄目だから。存在すら認めたくない」

彼女は両腕を抱えた。ボディステッチ部を。同じくボディステッチの入った両脚は震えている。彼女の翠の目には、怒りや憎しみ、恐怖……様々な色が見えた。

「アラーニャ……?」

アルガーが心配そうに話しかける。アラーニャはハッとして、いつもの快活な笑みを浮かべた。

「ああ、ごめん!空気悪くしちゃったね……」

「……いやいや、気に病みなさんな……元を辿れば俺が悪りぃのさ……へっへっ……ん?おいアル」

「……何だ、オヴ?」

アルガーは心配そうにアラーニャの方を抱きながら、オヴサヴァに問うた。オヴサヴァは、四つの村の中心に聳える時計塔を顎でしゃくり、アルガーに言う。

「そろそろ戻んなきゃ、だぜ」

「ああ、そうか。もうそんな時間か」

二人は立ち上がる。アルガーがアラーニャを見た。彼女は笑顔で頷いた。それがアルガーにとっての励ましとなった。彼は力強く頷き、オヴサヴァと共に軍宿舎へと歩んでいった。それを見届けると、アラーニャも立ち上がり、持ち前の明るさを振る舞いながら帰路に就いた。
……彼女は一瞬立ち止まり、後ろを振り返った。が、特に何も見受けられなかった。彼女は首を傾げ、再び歩みを進めた。

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……そんな彼女の姿を遠く物陰から
見る者が居た。背の高い少女だ。下着に近い、踊り子のような服装。長く白い髪は二つに結わえてある。目は翠。重く、暗い表情を見せるその顔は、まだ幼気が残っていた。手には小さな袋が握られている。その手は小刻みに震えていた。

「私の……アラーニャ……私の、なのに……」

譫言のように、或いは呪詛のように彼女はブツブツと呟く。彼女は愛をほっしていた。極度に愛を欲していた。両親に愛されなかった。だから愛を欲した。両親に愛されなかったから、妹を愛した。愛した。深く深く。深く深く愛する程に、妹は離れていった。彼女には、それが何故なのか理解ができなかった。

「何で……?何でなの?私は、こんなにも貴女を愛しているのに」

彼女は小袋を握る力を強めた。中に入っているのは彼女の『愛を込めた手作り菓子』だ。

「愛しているのに。愛されたら、愛さないと。いけないのに。何で、貴女は……貴女を愛する私を愛してくれない?」

何度も何度も呟く。時折、髪を掻き毟り。爪を噛み。動悸に苦しみ。
彼女の名はエスコルピオン。アラーニャの姉。愛に飢える少女。

噫。噫。

エスコルピオンは憎悪に悶えた。そうしながら、彼女もまた、帰路に就いた。妹の待つ家へと。

妹の。妹の。妹の。妹の。妹の。最愛の妹の……。

エスコルピオンの脳裏に浮かぶは、アラーニャの冷たく侮蔑的な目。

『もう二度とこんなことしないで』

何度聴いたかわからない、涙混じりの怒りの声。何故自分が怒られたかは理解できなかった。
そうした思い出が浮かび上がる度に、エスコルピオンは都合の良い幻視で思い出を塗り潰した。自分を求め、自分を愛し、縋る……そんな妹の姿を、幻を。現実の妹を理想の妹の姿で塗り潰す度、エスコルピオンはエスコルピオンでいられる。いられることができる。

エスコルピオンは笑った。目を見開きながら、笑った。彼女は幾分か幸せなようであった。