第二十三話 | ジュセー 徒然。

ジュセー 徒然。

てきとーに。
創作とかやってます。

暗い城。
紅のカーペットが敷かれ、壁に掛けられた光を発する不可思議な石が、長い廊下を薄暗く照らしている。
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少女が一人。薄暗い廊下をよたよたと歩く。
肩を出した、黒基調のミニ丈のドレス。
白く美しい髪を、リボンで結っている。
その青く透き通るような双眸は、何かに怯えているかのような翳りを見せている。少女は、震えていた。
アラーニャ。それが、彼女の名。

「……また、だ……うっ、くっ……あぁ、はぁっ……!」

アラーニャは震えながら壁に手をついた。動悸。徐々に激しくなっていく。彼女は壁に手をつけたまま、ずるずると力なくへたり込んだ。もう片方の手で口元を覆い、えずき、涙ぐむ。

彼女は、記憶が曖昧になることがある。不定期的に。そのたび、なにか得体の知れない恐怖が彼女を襲う。恐怖は彼女の精神も、その華奢な肉体も。どちらも等しく削り取っていく。
あの日……灰崎 黒星との戦闘以降、その恐怖の襲いかかる間隔が狭まってきていた。黒星自体への恐怖も多分にある。鎖に締め付けられた時の感覚が身体から離れない。鎖。締め付けられた。黒星に。黒星に?

なぜだろう。

「はぁっ、はぁっ……」

なぜだろう。

「……くるしい、よ……お姉様……」

黒星の放った鎖に締め付けられた感覚を想起する身体。そこに、何か違和感があった。

こんな感じだったっけ?

「……」

アラーニャは壁に触れていたほうの手を戻し、己のチョーカーをカチカチと引っ掻き始めた。一瞬後、わけがわからない、といったような表情でチョーカーから手を離した。彼女は戸惑った。なぜチョーカーに手を?なぜ引っ掻いた?

「う……うあ……あ」

「どうしたの、アラーニャ?」

蹲るアラーニャに柔らかな声で問いかける者。彼女は弱々しく振り返った。そこに立っていたのは、心配そうな顔をした、アラーニャの姉……エスコルピオンであった。彼女はしゃがみ込み、アラーニャの身体を優しく抱擁する。

「お姉、様」

アラーニャは安堵の声を漏らし、エスコルピオンの目を見た。

「ひっ……」

「……?どうしたの?」

碧の目がアラーニャを見つめる。なんてことはない、優しい目。

「く……くさ、り」

「鎖?」

「ああ。ああ、うああ」

突如アラーニャは、もがき、エスコルピオンの手を引きはがし。呆気にとられる彼女を一瞥もせず、這いずりながら、その場を去ろうとする。

「アラーニャ?どうしたの?」

エスコルピオンはゆっくりと彼女に近づき、問うた。

「いや、いや!もう、い」

「どうしたの?」

碧の目は、恐怖に震える妹の様をじっと見つめる。

「どうしたの?何か怖いことでも思い出したの?……それなら……忘れちゃいましょう」

エスコルピオンは、笑い、アラーニャを抱き寄せ。空間を切り裂き、自分たちに与えられた部屋へと赴いた。

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「……」

ゴシック調の、広い部屋。壁にもたれるアラーニャの瞳孔の開ききった目からは、涙。だらしなく開いた口からは涎や、吐瀉物。息は……息は、ない。首には強く締められた跡。エスコルピオンはその傍で、彼女の手首を握り。脈が動いていないことを確認すると、立ち上がった。

「はぁ。最近、調子が悪いわね……」

エスコルピオンは困ったような顔をしながら、タオルで床の吐瀉物や失禁跡などを拭き取る。それから、アラーニャの口元や股の辺りも拭き取った。

「もっと調整をきつくするべきなのかしら?」


彼女はぶつぶつと何か呟きながら、棚へと向かう。中から、不穏な雰囲気を醸し出す殺傷器具を取り出し、アラーニャの元へ。
エスコルピオンが再びアラーニャの傍らに。直後、アラーニャの華奢な身体がピクリと動いた。瞳孔が元に戻っていく。彼女は瞬きをした。

「おはよう、『アラーニャ』。」

エスコルピオンは笑いながら彼女の腕を掴むと、強引に引っ張り上げ、椅子に座らせた。殺傷器具をアラーニャの身体に向けながら。

「お……おはよう、ござい、ます……わ、わたし」

「『わたし』?」

「……!あ、わ、あたしは、ソフィ、ソ……アラー、ニャ?」

エスコルピオンは殺傷器具を振るった。悲鳴が上がり、鮮血が飛び散った。

「『アラーニャ』。あなたは、アラーニャでしょう?私の、大切な、大切な妹。ね?」

「げほっ、げっ、あたし、あたし、は、アラーニャ。あたしは、アラーニャ。あたしはアラーニャ、あたしはアラーニャ、あたしはアラーニャあたしはアラーニャあたしはアラーニャ」

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暗い城。
紅のカーペットが敷かれ、壁に掛けられた光を発する不可思議な石が、長い廊下を薄暗く照らしている。

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廊下を歩く二人の少女。
エスコルピオンと、アラーニャだ。
二人は仲睦まじく談笑しながら、廊下を歩く。途中、エレッタとすれ違った。二人は柔和な表情で彼女と言葉を交わした。

「あら、エレッタさん。怪我の方はもういいの?」

「ああ、大丈夫……本当に仲がいいのだな、二人は。羨ましい限りだ」

それだけ言うと、エレッタは立ち去った。その背を二人は、エスコルピオンとアラーニャは、笑顔で見送った。そして互いに目を合わせると、更に明るい笑顔を浮かべた。

二人は、いつも一緒。
二人は、いつも幸せ。
二人は、二人は。
二人は。