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川嶋未来(SIGH)のブログ

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 インターネット全盛の現在、世界中のありとあらゆる情報を容易に入手できるようになった。相当マイナーなメタルバンドについても、metalarchives.comや先日紹介したrateyourmusic.comを調べれば、大抵の情報は手に入れられる。YouTubeを検索すれば、こんなバンドのライブ映像あったのか!という動画が山のように見つかる。

 しかし、こんな情報の洪水のような時代になっても、いまだにその正体が良くわからないバンドというのが存在する。確かにmetalarchives.comやrateyourmusic.comにも登録はされている。しかしそれを見ても、今一つ核心に迫った感を得られないバンドである。

 そんなバンドの中から一つ。今回紹介したいのは、アメリカのDeath SSとも言うべきRipper。とは言ってもRipperも結成は1977年に遡るようなので、決してDeath SSに影響を受けて始められたバンドではない。しかしDeath SSとの共通点は多い。まず写真を見て頂きたい。



メンバーはそれぞれ墓堀人、ヴァンパイア、処刑人、死神。完全にDeath SSと同コンセプト。Kiss、Alice Cooper、Black Sabbath、Judas Priestそしてホラー映画から影響を受けたホラーメタルをプレイ。説明だけ読んだら、これってDeath SSでしょ?と思ってしまいそうだ。つまり70年代後半、イタリアとアメリカで、同時並行的にほぼ同じコンセプトを持ったメタルバンドが誕生しているということだ。イタリアのDeath SSが、その後多数の作品を発表、特に本国においてかなりの知名度を誇るまでになったのに対し、アメリカのRipperはアルバムを2枚発表したのみ。その存在もかなりマニアだけが知る、非常にカルトな存在に留まっているが。

 77年にテキサス州ヒューストンで結成されたRipper。結成当初から、コンセプトはホラーということで固まっていたらしい。写真でもわかるとおり、そのシアトリカルなイメージは徹底しており、かつコスチュームもまったくチープなものではない。コスチュームだけならKISSに匹敵すると言ってもいい。ライブでは緑や赤のスモークを焚き、大がかりなパイロセットを使用。きちんとパイロのライセンスを持ったスタッフが2人つき、さらにはどんな事態にも対処できるよう、消火器を携えたローディが常に6人も待機していたというから、相当なセット規模だったのだろう。これだけゴージャスなコスチュームに大きなセットでライブをやれば、かなりの話題になるはず。実際80年代のライブは、常に千人規模の会場で行われていた。



 というのがネット上のインタビューや記事などから拾えるRipper情報である。だがこれ本当に鵜呑みにして良いのだろうか?常に千人を集客するというのは容易なことではない。それなりのネームヴァリューが必要だ。正直このRipper、とてもそんな知名度があったようには思えない。そもそも当時話題になっていた記憶もない。さらにYouTubeなどを検索しても、当時のライブ動画が一切見つからないのだ。それだけのシアトリカルなステージ、千人規模の集客ということであれば、いくら80年代の話でも、一つくらいはライブ映像が残っているはず。YouTubeを探せば、80年代の、それも数十人しかお客さんがいないようなバンドのライブ映像が大量に転がっているのに。俺の探し方が悪いのか。それともすべてはただのアングルなのだろうか?しかし一方でこのコスチューム、豪華すぎる。相当の金がかかっているようだ。やはり本当に人気があったのか、それとも単にメンバーにお金持ちがいただけなのか。謎は深い。

 そもそもこのバンド、結成は77年だが、ファーストアルバム"...and the Dead Shall Rise"をリリースしたのが9年後の86年。(これもアルバムという形態はとっているものの、実際は2本のデモをLPとしてリリースしただけの模様。)一体9年間も何をしていたのだろう。Death SSも正式なファーストアルバムは88年の"...in Death of Steve Sylvester"なので、アルバムリリースまでやたら時間がかかったのも共通点と言える。さらにどちらもアルバムタイトルが"..."で始まっているのも面白い。Metal BladeのBrian Slagelは"...and the Dead Shall Rise"に(というよりもバンドのイメージに?)興味を持ったようで、Metal Massacre VIIIにRipperの曲を収録している。さらにBrianは新曲が良さそうならば、Metal BladeからRipperのセカンドアルバムをリリースしようと考えていたようで、これをチャンスと捉えたRipperのメンバーは、この時期カリフォルニアに移住。だが結局メンバーの出入りが激しく、Metal Bladeとの契約の話も進むことはなかった。まあ本当にメンバーチェンジが契約頓挫の主たる理由なのかはよくわからない。仮にメンバーが固定していなくても、音楽的にこれなら売れるとレーベルが思えば契約するはずだろう。ましてやこのRipper、バンドのイメージとしては十分に売れる要素を持ち合わせていた。となると問題は、そう、やっている音楽のクオリティ。"...and the Dead Shall Rise"を聞いてもらえればわかるが、これ、ゴージャスなコスチュームを持ってしても、商業的に成功する可能性は限りなく低い音楽的内容なのだ。タイトル曲などは悪くない。へヴィでイーヴルで、80年代以前のDeath SSなどが好きな人には溜らないだろう。ただ、ハイトーンのヴォーカルが出てくると、これが実にキツイ。イタリアのダークメタルにおいては、ヘロヘロな下手くそハイトーンが実に味となるのだが、このRipperアメリカ出身のせいだろうか、どうにも耳障りにしか聞こえない。どうやらメンバー4人それぞれがヴォーカルをとっていたようなのだが、中~低音域で歌っているパートは十分カッコいいのに、非常にもったいない。まあこれではMetal Bladeが契約を見送ったのもやむなしというのが正直なところ。その後90年に結局バンドは解散。Ripperは知る人ぞ知る伝説のカルトバンドとなり、唯一のアルバムは非常なレア盤としてマニア心をくすぐり続けた...のだが、Ripperの歴史はここで終わらない。

Ripper解散から10年以上、時代も21世紀になった2002年頃、元RipperのギタリストRob Gravesはネットサーフをしていて初めて気づいた。Ripperがカルトバンドとして崇められ、"...and the Dead Shall Rise"がレア盤としてeBayなどで高価で取引されていることを!そしてうれしさのあまり、Ripperを載せているウェブサイトの管理人に片っ端からメールを送りつけたらしい。何とバンドのイメージとは程遠い残念な話だろう。そんなやりとりを続けるうち、Black Widow Recordsから"...and the Dead Shall Rise"の再発の話が舞い込む。Black Widow RecordsとRipper。Black Widow Recordsと言えば、イタリアン・ダークメタルの総本山。完璧な組み合わせだ。さらにはRipper再結成、ニューアルバムのレコーディングにまで話が膨らんでいく。よくある話だ。メンバーにしてみれば、やっと自分たちが理解される時代がやってきたと思ったのかもしれない。だが、80年代に話題にならなかったバンドが、21世紀に再結成をして話題になった例は残念ながら無い。少なくとも私は見たことがない。Ripperも例外ではなかった。

 2004年頃から具体的に再結成、ニューアルバムの動きはあったようだが、結局セカンドアルバム"The Dead Have Rizen"がリリースされたのは2009年。バンドのせいなのか、レーベルの怠慢なのかわからないが、またしてもアルバムリリースまでに長い時間がかかった。そしてこのセカンドアルバム、ファーストに輪をかけた黙殺され具合となってしまった。2011年には"The Third Warning"というタイトルのサードアルバムが出るという情報もあったが、今のところリリースされた気配はない。

 と少々悲しい話になってしまったが、少なくともバンドのイメージとしてこれ以上カッコいいのはそうそうないだろう。Ghostを四半世紀先取りしていたと言える。