青春にケリをつける。映画「アゲイン 28年目の甲子園」 | 忍之閻魔帳

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映画 アゲイン 28年目の甲子園 中井貴一


▼青春にケリをつける。映画「アゲイン 28年目の甲子園」

年明け一発目の紹介は何にしようかとあれこれ考えて、
やはりじんわりと染みる小作品が良いなとこちらにしてみた。
1月17日より公開になる映画「アゲイン 28年目の甲子園」
「風が強く吹いている」(2009年)で監督デビューを果たした
人気脚本家・大森寿美男の6年振り2作目の監督作品。
原作は「青い鳥」「とんび」の重松清。
出演は中井貴一、波瑠、和久井映見、柳葉敏郎、門脇麦、大賀。
主題歌は10年振りの新曲リリースとなる浜田省吾の「夢のつづき」。



恥ずかしながら「マスターズ甲子園」なるものを初めてこの映画で知った。
甲子園を目指していた元高校球児ならば誰でも参加できるこの大会に、
かつてチームメイトの不祥事により出場停止を余儀なくされた
坂町(中井貴一)高橋(柳葉敏郎)らが、
青春を取り戻すべく奮闘する「親父達のスポ根」である。

映画は、28年前の事件の真相を描いた回想パートと
40代半ばを過ぎた男達が、未だ心の中でくすぶり続ける
甲子園への想いを描いた現代パートを交互に描きながら進行する。
このふたつのパートを結びつけるのが、
チームの出場停止の原因にもなったチームメイト松川の娘である美枝(波瑠)。
「マスターズ甲子園」の運営委員会に関わる美枝が
父の死をきっかけにかつてのチームメイトを訪ねて回ることで
28年前に凍結された物語が再び動き始める。

時間経過は多くの傷を癒してくれるが、全ての傷を癒すわけではない。
他人からすれば取るに足らないことでも
何年経っても忘れられない傷は誰にでもある。
妻の死後、娘との距離をはかりかねている男(中井)もいれば
パッとしない現状を28年前の不祥事のせいにして
現実と向き合わない男(柳葉)もいて、
そんな「いい歳した男達」の凝り固まった心を、
娘達が少しずつ溶かしてゆく展開がいかにも重松清らしい。
美枝(波瑠)に肩入れするうちに疑似父娘のような感情を抱き
それが実の娘・沙奈美(門脇麦)との関係修復へ繋がるあたりにも説得力がある。

現在と過去でドラマを進行させつつ、
物語の軸足が「マスターズ甲子園」からブレないのも大森寿美男らしい。
後半、28年前の事件の真相に時間を割き過ぎて
坂町と沙奈美の父娘関係がやや駆け足になってしまった感はあるものの
歴史モノとしてもドラマとしてもピンと来なかった
「バンクーバーの朝日」よりずっと良くできている。

今年は松竹らしい正月作品も見当たらないので
年始1本目はやはり定番の人情劇だろうという方ならお薦め。

映画「アゲイン 28年目の甲子園」は1月17日より公開。




01月13日発売■CD:「Dream Catcher 通常盤 / 浜田省吾」
01月13日発売■CD:「Dream Catcher 限定盤 / 浜田省吾」
01月13日発売■CD:「アゲイン 28年目の甲子園 オリジナル・サウンドトラック / 梁邦彦」

還暦を過ぎての新曲は、私が思い描いていた
「こうなっていくんだろうなあ」というハマショー像そのまま。
余計なものを削ぎ落としたシンプルで温かいメロディは
「クレイジー・ハート」のジェフ・ブリッジスを彷彿させる渋さ。
10年振りのりリースながら、限定1万枚生産の7インチサイズ紙ジャケ仕様の
限定盤は既に完売となり、根強い人気ぶりを証明している。
予約を逃してしまった方は発売直前での復活に期待してちょこちょこ覗くべし。




発売中■Blu-ray:「42 ~世界を変えた男」

史上初の黒人メジャーリーガーとして名を残す伝説のプレイヤー、
ジャッキー・ロビンソンの半生を追う伝記ドラマ。
黒人選手がメジャーリーグのチームに入るということが
どれほど革命的なことだったのかを、白人選手達から巻き起こる拒絶反応や
ジャッキーと二人三脚で頑張るGMブランチ・リッキーとの交流を通して描いてゆく。

理不尽な差別に対し憤りを抑え来てないジャッキーに
「やり返す勇気ではなく、やり返さない勇気を持て」と諭すブランチの言葉に痺れる。
全体的にお約束の多いオーソドックスなドラマではあるが、
永久欠番「42」を獲得した名選手のエピソードだけあり見応え充分。

公開中の映画「バンクーバーの朝日」もこのぐらいやってくれれば・・・




発売中■Blu-ray:「人生の特等席」

世代交代の波に押し出されようとしている老スカウトマンが
キャリア最後の旅を通して愛娘との関係を見つめ直すヒューマンドラマ。
「グラン・トリノ」を最後に俳優業から遠ざかっていた
クリント・イーストウッドが4年ぶりにスクリーン復帰を果たしたことも話題となった。
共演はエイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク。

データ至上主義を掲げ、見事に弱小チームを優勝に導いた
ブラッド・ピット主演の「マネーボール」とは真逆に位置する作品。
パソコンも扱えないスカウトマンのガス(イーストウッド)が
「そんなもんで野球がわかってたまるか」と毒づくシーンで
昔気質な野球ファンは溜飲が下がる思いだろう。
「長年蓄積された経験と勘は、どんなハイスペックのPCでも再現不可能」という
「マネーボールがなんぼのもんじゃい」論を展開するのが痛快。

エイミー・アダムスとジャスティンの恋物語が
思ったほど盛り上がらないのは残念だが
主人公はあくまでもガスなのだから仕方ないか。
ある意味では、これは仕事より男より父を選んだ娘の映画である。



映画 風が強く吹いている 小出恵介 林遣都
発売中■Blu-ray:「風が強く吹いている」

脚本家として様々な作品を手掛けてきた大森寿美男氏の初監督作品。
原作は「まほろ駅前多田便利軒」「舟を編む」「WOOD JOB」と
本作以降次々に映画・ドラマ化されている三浦しをん。
出演は小出恵介、林遣都、森廉。
スポ根モノの多くが、競技そのものよりも
そこで培われた友情や恋愛に比重を置いているのに対し
本作は真っ向から「箱根駅伝の魅力」「走ることの楽しさ」を
伝えるために全力を注がれている。

チームメイトひとりひとりにドラマを持たせ、
その全てが箱根駅伝のゴールに向かって集約されていく後半の展開は圧巻。
林遣都の走る姿が本物の選手のように美しく、未だに脳裏に焼き付いている。
ベタではあるが、「ROOKIES 卒業」のベタとは全く違う、流行に迎合しない感動作。
2009年に観た邦画の中で数少ない「泣けた」作品。



映画 青い鳥 阿部寛 本郷奏多
発売中■DVD:「青い鳥」

重松清の同名小説を阿部寛の主演で映画化したドラマ。
いじめを苦に自殺未遂を起こし転校してしまった生徒(野口)のいたクラスに
赴任してきた吃音の臨時教師(村内)が、生徒達に真正面から向き合うドラマ。
「反省した」と言っているのにまだに責め続けるのかと反発する生徒達、
子供からの話を聞きつけて学校に詰め寄る親達、
終わった事件を今更蒸し返したくない教師達、、
皆が野口のことを忘れよう、無かったことにしようとしている中で
村内と接するうちに胸の内に抱えたものを吐き出そうとする生徒も現れる。
主演は「歩いても 歩いても」の阿部寛。
共演は本郷奏多、大賀、伊藤歩。

反省文を5枚書いても反省が見られない時は、どうすれば良いのだろう。
反省文を10枚書けば、今度こそ反省してくれるのだろうか。
そもそも、反省文が「5枚」である必要はあるのか。
いじめのやっかいな部分は、いじめた側が「これはいじめだ」と
自覚していない場合も多々あるということ。
この映画は、目に見える陰湿さも、無自覚が与える暴力も、
どちらも非常に上手く描かれている。
ラスト近く、阿部寛と本郷奏多が繰り広げる長いやり取りに
この映画の全てが凝縮されている。
阿部寛も素晴らしく上手いが、このシーンの本郷奏多の上手さは特筆モノ。
近年はマンガ原作ばかりに出演しているが、もっとこういったドラマにも出るべき。
現在「学校」と名のつくものに通っている人達、
学校に通う子を持つ親達には是非観て欲しい。
私的には、2008年公開作品で「歩いても 歩いても」に次ぐ第2位。