ハピネス/光文社
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ノンストッパブル、というのはまさにこのこと。読みだしたら止まらない。ひさびさに寝不足になってます。こんなに面白い本ってなかなかないよね。


舞台は豊洲のタワーマンション。主人公は同じタワーマンションでも「賃貸」住まい、仲良しの公園ママ3人組は「分譲」で、その公園ママグループにひとり、駅前の普通のマンション住まいの公園ママが混じった5人組の公園ママのグループ。

この5人がそれぞれ抱えた秘密をめぐって、イタくてどろどろの人間ドラマが展開します。

女性誌VERYに連載されていた、というだけあって、主人公たちの来ている服や、さりげない小物、乗っている車、なんかの道具立てがブランドまできちんと書かれていて、VERYの読者だったら、そこから彼女たちの生活レベルがわかるようになっています。こういう細かい芸を、あの硬派作家の桐野夏生がやる、というのはかなり驚きです。

で、たとえば、公園ママたちのリーダーの、いちばんリッチそうなママんちの車が、ベンツのゲレンデヴァーゲン、あとの「分譲組」の二人はシロッコと、プリウス。はっきりいって、すごい金持ちの乗る車じゃない。服や小物なんかも、ブランドものであるものの、いちばん派手なママでもカルチェのリングとか、ある程度リッチだけどさほどでもないぐらいのレベル。

そもそもパパたちは、たとえば銀座の一流出版社勤め、とはいえサラリーマン、大金持ちではない。

タワーマンション住まいで一見華やかな生活、とはいえ、リッチとは言えず、マンションの部屋から見える佃のリバーシティ21に住んでいるような「本物の金持ち」からすると明らかに「格落ち」。「ぎりぎりアッパーミドル」くらいの微妙な生活感。

でもだからこそ、名門私立幼稚園、名門私立小学校に娘を入れて、「上流」に混じりたい、という切なる上昇志向。

ここがきちんと読めないと、この作品の切なさイタさはよくわかりません。「タワマン」住まいだから金持ちだろう、とあっさり読んでしまうと、なんかよくわからないまま終わっちゃいます。


あと、普通のマンション住まいのママがユニクロのダウン・ジャケットをいつも着ているのを、だから「あの人は服装にかまわない人だ」と決めつけている「賃貸組」の主人公の来ている服は、H&MやZALAで、はっきりいって大差ないんだけど、でもそこに微妙な「階級感」を感じてしまっているところなんかの描写は絶妙です。服や小物で、ここまで生活感を細かく描ける桐野夏生はすごい。


話はイタくてどろどろだけど、キレちゃってる人とかはでてこないし、読後感が怖い、ということはない。そこが物足りなくもありますが、桐野夏生はこういうまとめ方もできるのか、と感心しますねー。


この本の舞台の豊洲は私の近所で、ららぽーとや公園もよく知ってます。かつてはその豊洲の公園で何回か紙芝居もやったことあるし、勝手知ったところが舞台なので、なんか登場人物がやたらと身近に感じられる。おまけにもう一つの舞台はわが門前仲町、出てくる飲み屋なんか「あ、これってあそこの店じゃん!!」ってわかります。こうなると、作品の世界が、あまりにリアル過ぎて、フィクションに思えない。ますますはまりましたねー。おまけに途中で出てくる新潟県の白根って、親戚のとこで、この前行ったばかり。タイムリーすぎるーっ。


ひとつだけ指摘すると、ひとりだけ「タワマン」じゃない普通のマンションに住んでいるママの実家が、門前仲町で寿司屋チェーンを経営していて、彼女が、婿を取った跡取り娘。どう考えても、会社勤めのサラリーマンより、このママが、いちばん金持ちだよね。ここに矛盾感じましたけどね。


私が若くて25歳の時、当時付き合ってた21歳の子とホテル・ニューオータニに泊まって、そこのベッドの上で、彼女に「実はわたし一度結婚して、子供がいるの」と告白された時には、腰が抜けたなあ。懐かしい思い出だなあ、と、この本読んで思い出しました。


とにかく、公園ママやったことある人は必読ですねー。本当に面白いぞーっ。