わくわくした。
生地を選んで形を決めて。
見えない裏地にこだわって。
たくさんあるボタンの中から運命の子を見つけて。
全国選抜の監督さん用に、あたしはスーツを作った。
今、愛知にいる。
スーツも着ている。
だけど…
会場の中では、審判着を着ていた。
正直、悔しい。
「審判で選抜行ってくれ」
そう言われてずっとザワザワしていた。
愛知に来るが来るまでザワザワしていた。
審判という立場で試合場に入ることで、見えてくるもの感じることが絶対あるはず。
そう言い聞かせた。
この審判の勉強がきっと近い将来役に立つはず。
そう言い聞かせた。
目の前で戦況読んで真剣に人の試合見るなんて…
そうそうできやしないわよ。
そう言い聞かせた。
それでも悔しいもんは悔しかった。
金曜日、審判研修会が始まった。
コロナ禍での実施ということで、感染しない、させないために、特に鍔迫り合いからの展開や時間空費、公正を害する行為等、細かな決まり事があった。
これはあくまでも暫定的な試合、審判の方法ではあるが…
だからこそ、とにかく複雑だった。
やたらと難しかった。
だからといって曖昧な部分を作ったらいけない。
しっかりと理解した上で審判をしないと、試合者が混乱してしまう。
審判の先生方、皆が必死だった。
特に反則行為に関しては、そこばかりに気を取られると一番肝心な「有効打突」の見落としに繋がってしまうこともある。
それだけは絶対に避けたい。
常に試合前も試合後も審判の先生方と意見交換しながら、いい試合を作れるように研修を重ねた。
子ども達の夢の舞台で…
審判の先生方も必死に、必死に戦っている。
それを痛いほど感じた。
それは剣道の価値観がひっくり返るほどの衝撃というか…
この場に立たないと決して感じることのできない感覚だった。
もう正直悔しいとかなんとか考える暇もなかった。
言ってる場合でもなかった。
ただただ、試合に没頭した。
1日の終わりにはぐったりした。
長い長い3日間だった。