「Do you agree or disagree ?」
かわいらしいポニーテールをゆらして彼女が満面の笑顔で聞いてくる。
言わずもがな、私はこのシチュエーション含め全てにagreeをして、彼女とハグをした。彼女の華奢な腕にはなんの違和感もなかった。
私はこの数時間を思い返しながら、この状況を全て楽しみ倒した自分の進化をちょっぴり誇らしくも思っていた。





フィリピンにきて一週間あまりが経ち二度目の週末が来た。サタデーナイトにかぶったハロウィーンは、日本同様、むしろそれ以上に、カトリックが大半を占めるこの国では盛大に祝われる。こちらでは日本でいうお盆のようなものらしく、ハロウィーン翌日の11月1日の夜には、送り火よろしくキャンドルナイトで死者をお墓に送り出す儀式が各家いえの軒先で執り行われていた。


さて、今夜はサタデーナイトのハロウィーンナイト。

私が滞在している語学学校は、人里離れた広大なファームの中にある。マニラから車で3時間ほどかかる片田舎にあって、人里に出るには「トライシクル」と呼ばれる三輪バイクを飛ばして10分ほどかかる。ここでは、若者たちを満足させる娯楽はあまり多くない、というか、ない。

そんな中で、サタデーナイトのハロウィーン。
さて、どう騒ごうかと、みな思案するわけです。



私はというと特に予定もなく(することもないので)、学校の宿題でも粛々とこなそうかと考えていたのだけれど、金曜日の夜になって、語学学校の他の生徒や日本人スタッフが、ナイトクラブに行こうと誘ってくれた。


今は語学学校の閑散期らしく、生徒は私含めて3人しかいないくて、女子は私だけだった。語学学校のスタッフやインターン生などを含めても、10人足らずだ。そのほとんどが関西出身の大学生だった。


フィリピンのクラブなんてそうそういけるもんじゃないしなと思って、私は二つ返事で彼らの誘いにのった。普段はあまりパーティーガールな人間ではないのだけれど、なにかおもしろいことが起こりそうな予感がしたので、意気揚々とついていった。




土曜日の夕方になって大学生たちに連れられ、ジープニーというバスのようなものとトライシクルを乗り継ぎ、二時間半くらいかけてマリラウという繁華街に出た。例えるならば、千葉の田舎の繁華街のような趣で、でっかいイオンが町の中心にそびえ立っているのと同じように、こちらで幅を利かせているでっかいモール(SMモール)がでんと鎮座していた。

私たちは、そのショッピングモール内のレストランで夕食を済ませ、モールの向かいにあるナイトクラブに入っていった。


エントランス料金は30ペソ。約90円足らずである。しかもそのとき少額の持ち合わせがなかった私は、エントランスのいかついお兄さんに困った顔をして20ペソにまけてもらった。世界共通で女子はおとく、ってね。


クラブの中は前方中央にステージがあってバンドが生歌演奏をしていた。ステージの前にはダンスフロアと小さな丸いお立ち台があって、ダンスフロアを囲むように、テーブルと椅子がずらりと並べられていた。クラブというよりバブル期のディスコのような雰囲気だった。(といっても平成生まれなので、実際のディスコは知らない)


私たちが入店したのは午後9時近く。まだ客もまばらで、ステージではモノマネタレントのコロッケにそっくりのシンガーが、あまったるいバラードを熱唱していた。大音量で流れるバラードとチカチカせわしなく変わる照明の下で私たちはとりあえずビールで乾杯した。フロア全体が温まる前に、こちらも臨戦態勢に入っておかないと、である。



飲みだしてからの一時間は単調なバラードが続いた。私たちは飲み続けた。夜10時過ぎになって、客もちらほら入り出し、曲調もダンスミュージックに変わってきた。私たちは、酒を飲んでは踊り、踊っては席に戻って飲み、また踊った。だんだん店全体の熱気も盛り上がってきて、さっきまでの昭和・バブルな雰囲気が熱気ムンムンの六本木よろしくなってきていた。



その時分になって、4、5人のフィリピーナが私たちのテーブルにやってきた。皆、小柄でかわいらしく、見た目はまだティーンだった。彼女たちがテーブルに来る前に女子トイレ内で見かけたのだけれど、メイクをなおしたりおしゃべりしている様子は本当にかわいらしいものだった。



「あ、これ、俺の彼女っす。」


そう言って、平井堅なみに彫りが深くどうみても現地人にしか見えない大学生スタッフくんがフィリピーナの一人を紹介してくれた。残りの女の子たちは彼女の妹とその友達たちとのことだった。


フィリピーナたちは日本人を挟むようにしてそれぞれの隣に座った。さながらフィリピンパブのようになった。ちょうど人数もフィリピーナと日本人(男)が半々。私は彼女たちが連れてきた小太りのおかまちゃんと話しながら、この後の展開にわくわくしていた。





つづく。