新緑の季節となり、各大学のキャンパスも落ち着いてきた時期である。
昨年度入試の各種統計資料もそろそろ出始める時期であるので、新しい試みとして香川大学の入試事情について時系列的に考察を加えたい。
そこで、まず新制大学として発足した頃の香川大学について、受験界での評価を見てみよう。
いま筆者の手元にある一番古い資料、昭和36年、すなわち今から約50年前の1961年8月号の「蛍雪時代」付録「旺文社模試から見た大学入試難易ランキング」によると、香川大学の位置は下記のとおりである。この当時はまだ経済、教育、農学部の3学部編成で現在の半分の規模のため、ここでは看板学部であり、私立大学を含めて比較がしやすい社会科学系の経済学部で見てみよう。
なお、この頃には「偏差値」という概念はまだない。また、各国公立大学は一期校・二期校に分かれてそれぞれ独自の入試を行っていた時代である。このため、あくまで旺文社模試の参加者8万人の入試合否結果追跡の集計である。旺文社模試(英数国主要3教科)での得点を、各大学(学部)別の志望者平均点、受験者平均点、合格者平均点を按分して集計し、順位付けを行っている。なお、数学を含んだ3教科だけでそれぞれを比較しているため、私立大学の順位が総じて低くなっているが、国公立と私立大学の合格者層のレベルを示すという点ではこれもひとつの切り口である。
以上、今のセンター試験の偏差値による難易度ランキングとは精度が異なることを理解されたい。
1961年8月号の「蛍雪時代」付録「旺文社模試から見た大学入試難易ランキング」
※入試前年の11月に実施した340点満点の旺文社模試(英語120点+国語100点+数学120点)成績から
《経・商学部系/国公私立大学合計88学部》
(志願者平均点)(受験者平均点)(合格者平均点)
1.東京大(文Ⅰ=法・経に進振) 200 202 222
2.一橋大(経済学部) 197 197 220
3.一橋大(商学部) 191 191 211
4.一橋大(社会学部) 187 187 213
5.京都大(経済学部) 186 186 196
6.神戸大(経営学部) 180 181 195
7.名古屋大(経済学部) 173 173 195
8.神戸大(経済学部) 174 175 186
9.横浜国立大(経済学部) 173 159 197
10.慶応義塾大(経済学部) 169 168 191
11.大阪大(経済学部) 159 160 184
12.東北大(経済学部) 156 156 179
13.九州大(経済学部) 160 159 170
14.小樽商大 160 156 172
15.横浜市立大(商学部) 150 153 169
16.滋賀大(経済学部) 154 143 171
17.早稲田大(政治経済学部) 149 150 163
18.慶応義塾大(商学部) 147 147 167
19.大阪市立大(商学部) 147 147 163
20.長崎大(経済学部) 142 144 170
21.大分大(経済学部) 148 144 160
22.広島大(政治経済学部) 144 143 162
23.大阪市立大(経済学部) 143 146 162
24.神戸商科大※現兵庫県立大 140 142 162
25.香川大(経済学部) 145 139 158
26.山口大(経済学部) 147 136 160
27.北海道大(文類=文系すべてに進振) 138 137 161
28.関西学院大(経済学部) 133 133 166
29.和歌山大(経済学部) 144 131 153
30.福島大(経済学部) 142 134 151
31.富山大(経済学部) 132 128 156
32.都立大(法経学部)※現首都大学東京 123 130 159
33.南山大(経済学部) 122 130 149
34.上智大(経済学部) 128 129 143
35.早稲田大(商学部) 124 123 151
36.大阪府立大(経済学部) 119 118 108
37.同志社大(経済学部) 118 119 141
38.関西学院大(商学部) 116 117 134
39.高崎経済大(経済学部) 111 112 135
40.東北学院大(文経学部) 115 115 121
41.成蹊大(政治経済学部) 107 110 125
42.日本社会事業大 111 112 118
43.同志社大(商学部) 105 105 123
44.松山商科大 107 108 104
45.北九州大学(商学部) 102 102 115
46位以下省略
これを見て「えっ」と思われるかもしれないが、これが戦後新制大学になって約12年後の各大学の入試難易度である。
戦前からの蓄積のある一橋、神戸の旧制商大がかなり上位にあって、名古屋、横浜国大など都会の旧官立高商系経済学部がこれに続く。今では近代経済学の一旗頭とされる大阪大はまだ評価が定まっていない。
よく国公立とひとくくりにされるが、公立大学は旧制商大だった大阪市立大学を除いてはいずれも規模が小さく、戦後派の都立大学の場合は、複合学部で教官も手薄なうえ実社会にまだ有力な先輩も居ないことが致命的な欠点として下位に甘んじている。旧帝大である北海道大学文類(共通一次試験になるまで文系一括募集で、2年までの成績で進振が行われた)も同じ理由だろう。当時は飛行機など庶民には手が届かず、東京の学会へは北海道から鉄道と青函連絡船を乗り継いで二日がかりで行かねばならなかった。それでなくても極寒の北海道ということで、教官の定数はなかなか充足されず、すでに戦前の高商時代から一橋系の少壮教授を多数揃えて定評のある小樽商大よりも下に見られていた。
その点、香川大の位置そのものは現在とあまり変わっていないことがわかる。上位というわけではないが、これは戦災校であったことが影響しているものと思われる。このため難易度では中位程度だが、しかし入試制度では香川大学は二期校にまわったため、入学者の上位層は東大・京大失敗組も取り込んで、その学問水準はかなり高かったようである。
なお、この時期、まだ香川大学に法学部は設置されていない。経済学部のなかに法律系のゼミがあり、卒業後に法律学者になった者も数名いる が、合格者平均点でいうと14位の北海道大(文類)と15位の岡山大(法文学部)の中間に位置している。
※参考
《法学部系/国公私立大学合計45学部》
(志願者平均点)(受験者平均点)(合格者平均点)
1.東京大(文Ⅰ=法・経に進振) 200 202 222
2.一橋大(法学部) 191 193 216
3.一橋大(社会学部) 187 187 213
4.京都大(法学部) 190 191 208
5.名古屋大(法学部) 169 168 187
6.大阪大(法学部) 169 169 182
7.神戸大(法学部) 165 165 179
8.東北大(法学部) 156 157 184
9.九州大(法学部) 151 152 169
10.早稲田大(政治経済学部) 149 150 163
11.慶応義塾大(法学部) 145 145 165
12.広島大(政治経済学部) 144 143 162
13.大阪市立大(法学部) 137 140 162
14.北海道大(文類=文系すべてに進振) 138 137 161
15.岡山大(法文学部) 130 131 153
16.都立大(法経学部)※現首都大学東京 123 130 159
17.金沢大(法文学部) 129 129 147
18.早稲田大(法学部) 119 119 147
19.熊本大(法文学部) 114 114 134
20.上智大(法学部) 111 111 133
21.関西学院大(法学部) 113 113 129
22.成蹊大(政治経済学部) 107 110 125
23.日本社会事業大 111 112 118
24.中央大(法学部) 107 108 125
25.青山学院大(法学部) 100 104 111
26.学習院大(政治経済学部) 100 101 109
27.関西大(法学部) 99 101 109
28.同志社大(法学部) 78 101 115
29.関西学院大(社会学部) 92 92 106
30.立命館大(法学部) 92 94 104
31.立教大(法学部) 90 89 103
32.立教大(社会学部) 81 81 97
33.明治大(法学部) 85 84 89
34位以下省略
(2008.04.28)