私が読んでいる本、精神科医の岡田尊司先生の「愛着障害~子ども時代を引きずる人々~」(光文社新書)は、今の荒廃した日本社会を改善するうえで、示唆に富んだ多くの情報を提供してくれる。
   これまでもこのブログの中で、折に触れ紹介してきた内容であるが、今一度ここで、「愛着」の考え方が重要視されている理由についての全体像を整理しておきたい。

「愛着」とは、母親と子どもの心の間に形成される「愛の絆」のことである。乳幼児期、特に「臨界期」と呼ばれる愛着形成にとって最も重要な0歳から1歳半の間に適切な養育(母親がいつも近くにいて共感的に世話をすること)を受けた子供はこの愛着を形成することができる。愛着を形成するということは、子どもが母親のことを「この人が自分が困った時に必ず助けてくれる人」と信頼することであるが、それは“母親という「安全基地」を得ること”と表現される。何かストレスを抱えた時には、その「安全基地」に避難して心の傷を癒すことができるのである。
   また、愛着を形成をするうえでは、子供にとっては母親が「特別な一人(オンリーワン)」の存在であって、代わりに母親以外の人間が養育し続けても、愛着の形成は行われにくいとされる。これを「愛着の選択性(子供は母親だけを選ぶ)」という。つまり、上記の「臨界期」に、保育所等の施設に預けられるなどして、母親からの養育を直に受けることが出来なかった子どもは、愛着が形成されず、この「安全基地」を持てなくなる場合が多い。「安全基地」を持てないということは、溜まったストレスを解消することができなくなるために、非常に不安定な精神状態に陥り、様々な問題行動を起こすのである。この状態に陥った人を一般的には「愛着障害」と呼ぶ。(「障害」と呼ばれるが、あくまで環境による後天的な要因によるものであるため、このブログでは「愛着不全」と呼ぶことにする。)
   しかも、この愛着は、その人の“生活の様々な面”について、一生にわたって影響を及ぼすというのである(愛着は「第二の遺伝子」と呼ばれている)。“生活の様々な面”とは、例えば、社会における人間関係能力、知能、自立性、自律性(我慢する力)、異性関係、結婚生活、身体的健康、更には寿命にまで。つまり、安定した愛着が形成された子供は、成長するにつれて「安定型」の愛着スタイルを形成し、これらの“生活の様々な面”において、安定した成果や結果を収める。逆に、愛着が十分に形成されなかった子供は、成長とともに「不安定型」の愛着スタイルを形成し、これらの“生活の様々な面”において、不安定なまたは不十分な成果しか収めることができない。
   ちなみに、「不安定型」愛着スタイルには、大きく分けて「回避型」と「不安型」とがある。社会生活を営む上で特に大切になる対人関係の面では、前者は、人との接触を拒む傾向が強く、後者は、人からの愛情に飢え必要以上に他者に近づきたがる。何れにしても、社会の中では孤立しがちなタイプである。
   そして、その「不安定型」の愛着スタイルを持つ人間は、大人になる過程で“様々な問題”を引き起こす確率が高い。それが岡田氏が愛着障害(愛着不全)が引き起こす問題現象と最も危惧している点である。“様々な問題”とは、例えば、いじめ、不登校、ひきこもり、非行、家庭内暴力、恋愛・結婚回避、セックスレス、離婚、薬物依存、家族内殺人等、毎日ニュースで報道される凄惨な問題ばかりである。

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