精神科医である岡田氏のクリニックや提携するカウンセリングセンターには、悩みを持つ夫婦やパートナーが大勢訪れると言います。ここでは、夫婦間で現実によく起こりがちな事例を紹介したいと思います。(岡田2016「夫婦という病」より抜粋)

「妻のAさんには、夫のKさんに関するある深刻な悩みがあった。妻のAさんは、Kさんが帰宅すると、その日あった出来事をつぶさに話して聞かせていた。夫婦としてのコミュニケーションを大切にしたいと思っていたからだ。結婚する前は、KさんはAさんの話に熱心に耳を傾け、的確なアドバイスをおくってくれていた。しかし、結婚してからというもの、次第にKさんはAさんの話に対して半ば上の空になり、ときには鬱陶しがるようになった。しかも、Aさんが最も困っていて一番話を聴いてほしいと思って話をしたときにでさえ、Kさんはそっぽを向いてしまうのだ。そんな時、二男が発達に課題があると医師から診断された。Aさんは、方々に相談に行ったり、療育施設に治療的トレーニ ングに通ったりもし、必死だった。そんな我が子の問題を話せるのはやはり夫のKさん以外にいないと思い、Kさんに相談した。しかし、KさんはAさんの努力や取り組みをいちいち否定したり、他人事のように突き放したりしたのだ。挙句の果てにKさんは、責任の全てがAさんにあるかのように妻を責めた。しかしそれでも、AさんはすがるようにKさんに毎日語り続けた。だが、Kさんはいっそう不機嫌な表情を浮かべ、一人ビールをあおって、まともに話も聞いてもらえなかった。そんなある日、Aさんは夫の態度に腹を立て、「どうしてちゃんと聞いてくれないの。自分の子どものことでしょう。と責めると、Kさんは逆ギレし、「お前がそんなふうにヒステリックだから子どももまともに育たないんだ。 」と、理不尽な言葉を投げつけてきた。声を荒げることもしょっちゅうだった。それに反応してか、子どもたちも父親を嫌うようになっていた。しかし、Kさんにも言い分はあった。Kさんはその頃昇進したばかりで、大きな責任とストレスを抱えるようになっていたのだ。Kさんは、家では会社の愚痴をこぼすことは無かったが、心の中は、仕事のことだけでパンパンになっていたのだ。そんな毎日を送っているうちに、Aさんは離婚する以外にこの状況を解決する道はないのではないかと考えるようになっていた。」

   次回は、この夫婦に対する精神科医の岡田氏の考察を紹介します。