12.日本は韓国に賠償金を支払ったからそれでいいのか? 1)

(「従軍慰安婦問題」決着ーー泥さんが、右派のウソを元から断つ.に対する批判

 文玉珠さんの証言を見ていくと当時の情景や兵士たちのこと仲間のことが現実味をおびて目に浮かんで来る。その点、金福童さんの証言は全く非現実的であり本当か?と疑わざるを得ない。文さんは、兵士たちとりわけ将官に気に入られ差し入れやチップだけではなく戦況などの情報入手や送金の便宜など軍属以上の便宜を得ていたのだろうと感じる。

 さて、文さんの貯金通帳を無効にした1965年日韓基本条約・請求権並びに経済協力協定について間違った解釈が流布されているので正しい理解を紹介する。ネット上で流布されている「賠償問題」について、泥さんは「日本は韓国に賠償していない」と断言している。賠償した又は賠償していないと言う議論は、当該条約と協定を理解していないことを示している。日韓の交渉は賠償問題ではなく、一つの国(大日本帝国)が日本国と大韓民国(北朝鮮含む)に分かれる時の財産分割の問題である。いわば離婚協議の問題と考えればよい。日本国は、占領した中国(中華民国)や南方諸国、太平洋諸国には、賠償を行い、最終的には1951年サンフランシスコ平和条約締結でロシアと北朝鮮を除き解決した。その後大陸の主権が中華人民共和国に移り、1972年田中首相率いる交渉団が「日中共同声明」で国交正常化を実現した。この共同声明で中国(北京)は戦争賠償請求を放棄する宣言を行った。大日本帝国は朝鮮半島及び台湾と共に連合国と戦ったのであって敵ではなかった。従って、戦争賠償を行う相手ではない。(韓国は植民地支配の被害を請求しているようだが、1910年日韓併合から終戦までの35年間、日本政府は多額の資金を投入し、奴隷制(両班・賤民)解放、学校建設、産業近代化などを推進し、朝鮮半島の人口が倍増したことを公平に評価しなければならない。)

 簡単にその経緯を示す。

1.朝鮮は1910年より日本国になり、大東亜戦争で連合国と戦った仲間である。(朴正煕元大統領は、帝国陸軍士官学校出、満州軍第8師団中尉として終戦を迎える。朝鮮戦争時、韓国軍の指揮官は元日本軍人が多くいた。)
2.従って、敗戦により、日本も朝鮮も敗戦国の扱いになった。
3.GHQの戦後処理の政策として、朝鮮半島をソ連と北緯38度線を境に分割統治を行い、アメリカにいた李承晩を朝鮮半島に帰還させ、1948年大韓民国を建国させた。
4.李承晩は、1951年サンフランシスコ平和条約の署名を求めるが、連合国より拒否される。
5.1950年6月25日に勃発した朝鮮戦争では、李承晩政権は敗退を重ね、米軍(国連軍)に指揮権を渡し、1953年7月27日、38度線で休戦になる。
6.李承晩は極端な反日政策をとり、李承晩ライン設定など日本人を迫害する。
7.李承晩はその後独裁政権を維持し、政敵をつぶして行くが、不正選挙糾弾のデモが全国に広まり1960年4月失脚、5月米国に亡命。
8.その後、クーデターで軍事政権を樹立した朴正煕大統領と佐藤栄作首相の間で、1965年日韓基本条約が締結される。

その内容は
(1)一つの国が二つ(北を入れると三つ)に分かれるときの、双方の国民が他方に残した財産権の精算問題であり、最終的にチャラにした。
(2)この時の交渉において、賠償問題として取り上げられたのは、李ラインによる日本漁民の被害補償問題であったが、これも請求を放棄した。
(3)韓国の経済発展のため、無償3億ドル、有償2億ドル、民間借款3億ドルの供与及び融資を行った。(賠償金でも補償金でもない)
(4)GHQの帰還事業不徹底や朝鮮半島の李政権の独裁と朝鮮戦争から逃れた人々が日本に居残り、いわゆる在日朝鮮人の法的保護を規定した。

 

 1965年の日韓基本条約では、それぞれの国民への財産返還は、その国が行うべきとされている。従って、韓国政府が朝鮮人慰安婦の財産を返還すべき問題となるが、公式記録では「慰安婦」の言葉も現れない。しかし、敗戦、GHQの朝鮮における日本財産の没収(軍令第33号)、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の建国、朝鮮戦争という混乱により、財産・証拠が散逸、また日韓基本条約の内容を韓国国民に隠すなど、財産請求の機会が失われた。

 泥さんは、ネットで韓国への賠償は済んでいると言われているが、韓国への経済協力金であり済んでいないと意味のない計算を書いている。繰り返し言うが日韓請求権並びに経済協力協定は、賠償問題ではなく戦後処理の財産分割の問題であり、経済協力は発展途上の韓国の経済自立を支援するものであった。

 無償3億ドルはタイド(ひもつき)で日本の生産物と役務を提供し、有償2億ドルは資金提供するもタイドが義務づけられている。つまり、無償3億ドルは日本国内だけで資金が回り、有償2億ドルは韓国を回り日本に戻る契約である。(詳しくは東大田中研の資料集・協定書を参照のこと)泥さんはこの契約に不満を抱いて意味のない計算を書いているのだが、日本政府だけでなく誰も資金を無駄に贈与することはしない。

 泥さんはどのような行為に「賠償」を求めているのだろうか。この慰安婦シリーズならば日本軍の慰安所経営つまり戦争被害なのか、植民地支配被害なのか、次稿にも書かれていない。

 

JICA「対韓無償資金協力および技術協力に関する調査報告書」

9頁中段

 この「無償資金3億ドル」は、現金ではなく日本の生産物および日本人の役務により 、10年間にわたって分割供与された。また同金額中からは、協定当時における清算勘定 の対日債務約 4,586万ドル(銀行手数料を含む)が、同じ期間に無利子で分割相殺された。一方 、「有償資金 2億ドル」は、韓国の経済開発に必要な産業施設や機械類の導入に 所用される外資の一部をまかなうため 、当時の海外経済協力基金により金利 3.5 %、据置き期間 7年を含む償還期間 20年という長期低利借款として供与された。


東京大学東洋文化研究所(田中研) 日本と朝鮮半島関係資料集

日韓請求権並びに経済協力協定 1965年6月22日

 

日韓請求権並びに経済協力協定,第一議定書

 

日韓請求権並びに経済協力協定,第二議定書

 

日韓請求権並びに経済協力協定,交換公文(第一議定書の実施細目に関する交換公文)

日韓請求権並びに経済協力協定,交換公文(請求権経済協力協定第一条1(b)の規定の実施に関する交換公文)

日韓請求権並びに経済協力協定,交換公文(請求権経済協力協定第一条2に定める合同委員会に関する交換公文)

日韓請求権並びに経済協力協定,合意議事録(1)

日韓請求権並びに経済協力協定,合意議事録(2)

日韓請求権並びに経済協力協定,交換公文(商業上の民間信用供与に関する交換公文)

 政府の無償3億ドル、有償2億ドルの資金提供、及びその後のODA提供と返済を下表に示す。

 韓国には、1965年日韓基本条約経済協力以降、無償約19億ドル供与、有償6,455億円を貸付け、2009年に返済が完了し、15.7億ドル(1727億円、110円/$として)の回収益になった。(ネットで流布しているデータの多くは、回収(返済)を含んでいない。)

 

個別案件の一覧表(ネットで贈与だと拡散されている)

海外経済協力基金史 国際協力銀行(編纂・発行), 2003.

3部 投融資業務の推移と効果--2章 円借款の地域別・国別特色 (2.08MB)
(左側しおり、韓国をクリック、190、191頁に案件一覧、下記添付)