1991年1月の宮澤首相訪韓に合わせ、高木弁護士や挺対協が、韓国の犠牲者遺族会の犠牲補償請求に元慰安婦を加え日本政府を相手取り提訴する。韓国政府は、韓国内の対日批判の高まりが宮澤首相訪韓時に問題にならないよう事前の措置を日本政府に求めた。そのさなか、朝日新聞が火種を炎上させる慰安婦強制連行のキャンペーンを行う。その炎上を消火すべく加藤官房長官が謝罪と反省の書簡を送る。日韓首脳会談では、真相究明としかるべき措置を求められ、宮澤総理は、軍の関与を認め、さらなる事実調査を行う旨、述べた。
 
読売新聞 1991年12月6日夕刊
「韓国人元慰安婦ら提訴 日本に補償7億円求める」
 太平洋戦争中、日本軍の従軍慰安婦や軍人、軍属に強制徴用された韓国人とその遺族が、国を相手取り、植民地支配と戦争で受けた犠牲の補償として総額7億円を求める訴えを6日、東京地裁に起こした。原告は、「韓国・太平洋戦争犠牲者遺族会」(ソウル、会員約1万5千人)の金鐘大会長(54)ら35人。一人一律2千万円の補償を請求した。プライバシー問題などからこれまで登場することのなかった元従軍慰安婦3人が、初めて原告に加わった。
 訴状によると、このうち、提訴のためソウルから来日した女性(67)は、16歳で出稼ぎに誘われ、慰安婦とは知らずに軍用列車で中国北部へ運ばれ、「アイ子」の名前で無理矢理日本軍将兵の相手をさせられた。
 上海に行った女性(69)は、拒否すると殴るけるの暴行を受け、子どもを産めない体になった。ラバウルの女性(69)は、将兵以外の民間人とは一切接触がなく「慰安婦は民間業者が連れ歩いたとする国会答弁はうそ」と訴えている。(以下省略) 
 
朝日新聞 1992年(平成4年)1月11日
 1992年1月16日からの韓国訪問を前に、1月11日、朝日新聞が一大キャンペーンを行う。軍人軍属の戦後補償請求に慰安婦を加えた訴訟であるが、慰安婦だけをクローズアップして「慰安所 軍関与示す資料」「防衛庁図書館に旧日本軍の通達・日誌」「部隊に設置指示 募集含め統制・監督参謀長名で、次官印も」「〈民間任せ〉政府見解揺らぐ」と派手な見出し。
 
従軍慰安婦の説明「多くは朝鮮人女性」
 1930年代、中国で日本軍兵士による強姦事件が多発したため、反日感情を抑えるのと性病を防ぐために慰安所を設けた。元軍人や軍医などの証言によると、開設当初から約八割が朝鮮人女性だったといわれる。太平洋戦争に入ると、主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した。その数は八万とも二十万人とのいわれる。
解説:HAZAMAさんのブログ
 
2014年6月20日「河野談話」政府調査報告書より
1宮澤総理訪韓に至るまでの日韓間のやりとり(~1992年1月)
(1)1991年8月14日に韓国で元慰安婦が最初に名乗り出た後,同年12月6日には韓国の元慰安婦3名が東京地裁に提訴した。1992年1月に宮澤総理の訪韓が予定される中,韓国における慰安婦問題への関心及び対日批判の高まりを受け, 日韓外交当局は同問題が総理訪韓の際に懸案化することを懸念していた。1991年12月以降, 韓国側より複数の機会に,慰安婦問題が宮澤総理訪韓時に懸案化しないよう,日本側において事前に何らかの措置を講じることが望ましいとの考えが伝達された。また,韓国側は総理訪韓前に日本側が例えば官房長官談話のような形で何らかの立場表明を行うことも一案であるとの認識を示し,日本政府が申し訳なかったという姿勢を示し,これが両国間の摩擦要因とならないように配慮してほしいとして,総理訪韓前の同問題への対応を求めた。既に同年12月の時点で,日本側における内々の検討においても,「できれば総理より, 日本軍の関与を事実上是認し,反省と遺憾の意の表明を行って頂く方が適当」であり,また, 「単に口頭の謝罪だけでは韓国世論が治まらない可能性」があるとして,慰安婦のための慰霊碑建立といった象徴的な措置をとることが選択肢に挙がっていた。
(2)日本側は,1991年12月に内閣外政審議室の調整の下,関係する可能性のある省庁において調査を開始した。1992年1月7日には防衛研究所で軍の関与を示す文書が発見されたことが報告されている。その後,1月11日にはこの文書について朝日新聞が報道したことを契機に,韓国国内における対日批判が過熱した。1月13日には, 加藤官房長官は,「今の段階でどういう,どの程度の関与ということを申し上げる段階にはありませんが,軍の関与は否定できない」,「いわゆる従軍慰安婦として筆舌に尽くし難い辛苦をなめられた方々に対し,衷心よりお詫びと反省の気持ちを申し上げたい」との趣旨を定例記者会見で述べた。 (3)1992年1月16日~18日の宮澤総理訪韓時の首脳会談では,盧泰愚大統領から「加藤官房長官が旧日本軍の関与を認め,謝罪と反省の意を表明いただいたことを評価。今後,真相究明の努力と,日本のしかるべき措置を期待」するとの発言があり,宮澤総理から,「従軍慰安婦の募集や慰安所の経営等に旧日本軍が関与していた動かしがたい事実を知るに至った。日本政府としては公にこれを認め,心から謝罪する立場を決定」,「従軍慰安婦として筆舌に尽くし難い辛苦をなめられた方々に対し,衷心よりお詫びと反省の気持ちを表明したい」,「昨年末より政府関係省庁において調査してきたが,今後とも引き続き資料発掘,事実究明を誠心誠意行っていきたい」との意向を述べた。