1993年7月下旬から8月3日まで、日韓の交渉官は、ぎりぎりの調整を行い、特に「強制性」の表現を巡って調整を続けた。案文は宮澤総理と金泳三大統領に上げられ了解を取った。最終的に「甘言,強圧による等,総じて本人たちの意思に反して」という表現に修正、8月3日夜、韓国側は最終案を評価(承認)した。翌8月4日河野官房長官が談話を発表した。

2014年6月20日「河野談話」政府調査報告書より抜粋

「5 河野談話の文言を巡るやりとり」

(1)日韓の間で発表内容について緊密に議論を行った。1993年3月には韓国側から協議を行ったことを伏せて日本が自主的に表明を行ったものとするが、韓国側を納得させる内容であると要請された。5月には日本側は、韓国政府からのネガティブな反応を避けるため「強制性」等に認識についてやりとりをしたいと述べた。韓国側名事前に知らせてほしいと要望した。7月28日の日韓外相会談に於いて武藤外相は「発表の文言については内々貴政府に事前にご相談したいと考えている」と述べた。

(2)日本側は1992年7月の加藤官房長官発表以後、各省庁で文書調査を継続、新たに米国国立公文書館などで調査を行った。これらの調査でも「強制連行」を確認することは出来なかった。

(3)談話の原案は1993年7月29日までに起案されていた。(聞き取り調査7月26日~30日、 日韓外相会談7月28日)

(以下コピペ)

 談話の文言の調整は,談話発表の前日となる8月3日までの間,外務省と在日本韓国大使館,在韓国日本大使館と韓国外務部との間で集中的に実施され,遅くとも7月31日には韓国側から最初のコメントがあったことが確認された。

 韓国側との調整の際に,主な論点となったのは,①慰安所の設置に関する軍の関与,②慰安婦募集の際の軍の関与,③慰安婦募集に際しての「強制性」の3点であった。

 慰安所の設置に関する軍の関与について,日本側が提示した軍当局の「意向」という表現に対して,韓国側は,「指示」との表現を求めてきたが,日本側は,慰安所の設置について,軍の「指示」は確認できないとしてこれを受け入れず,「要望」との表現を提案した。また,慰安婦募集の際の軍の関与についても,韓国側は「軍又は軍の指示を受けた業者」がこれに当たったとの文言を提案し,募集を「軍」が行ったこと,及び業者に対しても軍の「指示」があったとの表現を求めてきたが,日本側は,募集は,軍ではなく,軍の意向を受けた業者が主としてこれを行ったことであるので,「軍」を募集の主体とすることは受け入れられない,また,業者に対する軍の「指示」は確認できないとして,軍の「要望」を受けた業者との表現を提案した。これらに対し,韓国側は,慰安所の設置に関する軍の関与,及び,慰安婦の募集の際の軍の関与の双方について,改めて軍の「指図(さしず)」という表現を求めてきたが,日本側は受け入れず,最終的には,設置については,軍当局の「要請」により設営された,募集については,軍の「要請」を受けた業者がこれに当たった,との表現で決着をみた。なお,「お詫びと反省」について,日本側は,「いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた方々ひとりひとりに対し,心からお詫び申し上げる」との原案を提示し,韓国側は,「お詫び」の文言に「反省の気持ち」を追加することを要望し,日本側はこれを受け入れた。この交渉過程で,日本側は宮澤総理,韓国側は金泳三大統領まで案文を上げて最終了解を取った。

 慰安婦募集に際しての「強制性」について,どのような表現・文言で織り込むかが韓国側とのやりとりの核心であった。8月2日の段階でも,韓国側は,いくつかの主要なポイントを除き,日本側から韓国側の期待に応えるべく相当な歩み寄りがあり,その主要な点についても双方の認識の違いは大きくないと述べる一方,越えられない限界があり,韓国国民に対して一部の慰安婦は自発的に慰安婦になったとの印象を与えることはできない旨発言していた。具体的には,日本側原案の「(業者の)甘言,強圧による等本人の意思に反して集められた事例が数多くあり」との表現について,韓国側は,「事例が数多くあり」の部分の削除を求めるも,日本側はすべてが意思に反していた事例であると認定することは困難であるとして拒否した。また,  朝鮮半島における慰安婦の募集に際しての「強制性」にかかる表現について,最後まで調整が実施された。8月2日夜までやりとりが続けられ,「当時の朝鮮半島は我が国の統治下」にあったことを踏まえ,慰安婦の「募集」「移送,管理等」の段階を通じてみた場合,  いかなる経緯であったにせよ,全体として個人の意思に反して行われたことが多かったとの趣旨で「甘言,強圧による等,総じて本人たちの意思に反して」という文言で最終的に調整された。最終的に8月3日夜,在日本韓国大使館から外務省に対し,本国の訓令に基づくとし,金泳三大統領は日本側の現(最終)案を評価しており,韓国政府としては同案文で結構である旨連絡があり,河野談話の文言について最終的に意見の一致をみた。
(以下要旨)
(4)談話の韓国側との事前調整があったことは公表しない、発表の直前に日本側からファックスで発表文を受け取ったことにすると口裏合わせを行った。


(5)8月4日、河野官房長官(自民党総裁)は談話を発表。

2014年6月20日「河野談話」政府調査報告書