2020年日本に輸入されたパネルは総額2,539億円、そのうち中国製パネルは80%のシェア(貿易統計2,085億円)であった。
基本計画の2030年目標の100GWにするためには、導入済み55.8GWを差し引き44GWと、7月21日追加された200~400億kWh(太陽光に換算して16GW~32GW)の中央値24GWを加算して68GW相当の太陽光パネル(モジュール)を設置することになる。

下記資源エネルギー庁の2020年11月「太陽光発電について」26頁にパネルの国際市況の推移が記載され、2020年1月時点で1kW当たり約2万円と報告されている。
これか2030年までに設置される68GWの80%が中国製だとして、総額1兆円以上を中国に貢ぐことになる。(コントローラを含むシステム価格は12万円/kWほどであるから、国内に進出している中国企業に発注すれば最大6兆円となる。)

 

20,000円/kW x 68,000,000kW x 0.8 = 1.088 x 10^12円 = 1.088兆円

資源エネルギー庁の2020年11月「太陽光発電について」

すでに2011年~2020年の10年間で国外に4兆円、そのうち中国に2.54兆円を払っている。これを日本国民が電力料金として負担している。

      中国       全輸入
2020年 2,085億円   2,639億円
2019年 2,143億円   3,034億円
2018年 2,105億円   3,194億円
2017年 2,205億円   3,397億円
2016年 3,055億円   4,420億円
2015年 4,486億円   6,673億円
2014年 5,187億円   8,167億円
2013年 3,012億円   5,905億円
2012年  803億円   1,662億円
2011年  378億円    938億円
合計  25,459億円   40,029億円   
(貿易統計より、コード8541 40 020)

圧倒的な中国企業のシェア

下記日経XTECHの記事は、ブルームバーグNEFのレポートを引用して中国の太陽光製品のシェアを記載している。中国に続いて韓国、北米、台湾と、2006年まで世界のトップを走っていた日本勢は、その他に入っている。
中国シェア
ポリシリコン 66%
セル      78%
モジュール  72%

日経XTECH 2021年5月17日
脱炭素を担う太陽光パネルは中国独占、日本が脱炭素化で主導権を奪うには?

中国製PVのシェア拡大の経緯

ドイツのFIT推進によりPVの生産が急成長した時期(2003年~2008年)、半導体用ポリシリコンをHemlockを初めとする日米のメーカーが製造していた。(下記記事2004年のポリシリコン生産能力:添付表)PV用は、半導体向けの規格外品や半導体製造におけるテスト品のリサイクル・ウェーハーなどを利用していた。最も逼迫したシリコン不足の時期、中国では廃品のICのモールドを外し内部のシリコンチップを取り出す仕事が成り立っていた。当時のポリシリコンメーカーは、価格維持のため、増産投資を控えていた。ポリシリコンメーカーは、生産にかかわる技術・ノウハウを機密としていた。Hemlock社やWacker社は、PVメーカーとの前払い長期契約を前提に設備を増強していた。(この高額前払いの長期契約は、資金の手当てが出来たQ-cellsを2007年世界一にしたが、FITによるPV製品の値下がりで資金回収ができなく、2012年破産した。2013年の中国サンテック社の破産も同様。)

中国人は、世界中の技術者に声をかけ、技術を導入し、ガス蒸留・還元法を建設し始めた。TCSは毒性と引火性(消火できない)の問題で、非常に危険な物質である。集めた技術が一流でなかったため、2007年最初のプラント(四川省)を吹き飛ばした。しかし、投資熱は冷めず多くのポリシリコン工場が立ち上がったが、2008年の金融危機(リーマンショック)を機に、中国政府は電力消費削減を口実に2/3の工場を閉鎖した。

この間、Hemlock社やWacker社は中国にポリシリコンを輸出していたが、2013年の中国政府の輸入規制に耐えられずHemlock社は中国市場を失うことになった。この穴を埋めるべく、中国企業が、四川省、青海省、新疆ウィグル自治区、内モンゴルなど電力費の安価な辺境地区にポリシリコン工場を建設していく。(世界を股にかけた技術者達が門外不出の技術を教えていく。)その結果が、現在PVのシェア70%以上の競争力を得ることになった。ポリシリコンの生産は、2004年3万トン、2020年はPV用生産の6社だけでも47万トンと急拡大する。(ドイツのWacher社を除き5社は中国企業である。)


半導体用ポリシリコン(2004年のSeven Sisters)は日本企業が影響力を持っていた。

Hemlock:米国、Dow corning、信越化学、三菱マテリアル出資
Wacker:ドイツ、新日鐵シリコンを買収しその後生産拡大
ASiMI:米国、REC社がコマツから買収
トクヤマ:日本
MEMC:米国、中東資本が買収、現在はシンガポール資本のGlobalWafers社の傘下
三菱マテリアル:日本
三菱ポリシリコン:日本
大阪(住友)チタニウム:日本

 

Bernreuter Research 2021年5月21日更新記事
POLYSILICON MANUFACTURERS

米国政府は、6月、新疆ウイグル自治区の強制労働を口実にこの地域で製造されたPVの輸入禁止を施行したが、次の理由で強制労働が問題ではなく、PVの普及は中国に国富を貢ぐことになると気がついたのだろうと筆者は感じている。

(1) シリコン製造(金属シリコンからインゴット作成まで)は、巨大な装置産業であり、危険物を取り扱い製品品質の厳重な管理が必要とされる。従って、高度に訓練された忠誠心の高い従業員が従事しなければならない。強制労働があるとしたらシリカや石炭の採掘かもしれないが、大型の鉱山機械を使い露天掘りを行えば済む話。
(2) PV製造(ウェーハー作成からモジュール作成まで)は、いわゆる人海戦術で生産を行う。危険物質も少なく、人手が集まる大都市周辺(沿岸部、長江沿いなど)に工場がある。

 

日本国内における国産と輸入の比率

JPEAの出荷統計の2020年度のモジュール出荷量を見てみると、海外生産は84%まで比率を上げている。上記貿易統計(金額)とは対応しないが、単純計算では80%x84%=67%が中国製のシェアになる。

 

国内生産   796,772kW  16%

海外生産  4,331,016kW  84%

国内出荷  5,128,013kW 100%

FITは産業自滅制度

日本では、民主党政権下2012年7月から固定価格買取制度(フィードインタリフ:FIT)が始まり、太陽光は家庭用で1kWh当たり42円の買取価格で始まった。この時の消費電力料金は約22円であった。この差がインセンティブになり、2013年から家庭用、産業用のPV設置が急増した。

ドイツの緑の党が主導し、2000年施行の再生可能エネルギー法、2003年施行の原子力発電廃止法により、風力発電、太陽光発電のFIT(フィードインタリフ)を実施してきた。FIT制度は、EU諸国に拡散し、特にPVについては、日照時間の長いスペインに世界中の投資家がメガソーラーを投資した。スペイン政府はその負担に耐えられず、リーマンショックの対策に合わせて2009年より受け入れ停止、2010年より受け入れ枠の制限と補助率の低減を実施した。

2000年頃設立されたドイツのPVメーカーやPV装置メーカーは、FITの波に乗って急成長した。2007年にはドイツQ-cellsが出荷量世界一の座をシャープから奪った。(シャープはシリコンの争奪に負け生産未達になった:前述)併行してドイツのPV装置メーカーが、各国、特に中国、台湾、韓国などにターンキー契約(生産技術込み)のPV製造設備を納入していった。ドイツ企業は、競争相手を作っていったのである。

2009年のスペインショックで、FITを引き下げたドイツ、チェコ、イタリアなどがスペイン枠を引き受けた。この時期、ドイツ、中国、米国のPVメーカーが生産量を急拡大し価格競争がさらに激化した。業界トップのQ-cellsは、売上を超える赤字を出し、ドイツ国内の工場を閉鎖し、マレーシアに生産移管をおこなった。
2011年に入り、チェコ新規停止、イギリスFIT引き下げ、ドイツも2012年からのFIT引き下げ(年率5%から16%の削減)を発表したが、大幅な駆け込み投資に衝撃を受けたドイツ政府は、2012年2月に、FITをさらに段階的に引き下げ2013年にFITを停止することを発表した。

各国政府の制度変更は、PVメーカーやPV装置メーカーの経営を直撃した。ドイツが育てた中国の低価格のPVは、世界のシェア2/3を占め、米国、ドイツ、フランス、イギリスなどの多くのPV関連企業が破綻した。世界一だったQ-cellsは2012年4月破産し、その後韓国のハンファ社に引き取られた。最盛期ドイツのPV産業は36万人の雇用を抱えていた。Q-cellsの後、世界一になった中国のサンテック社(民営+豪大学の合弁)も2013年3月に破産した。

日本市場で目にするPVメーカーは、中国の地方政府(共産党)が支援するメーカー(世界の77%のシェア)、米国のサンパワー社(最高率PV、東芝が販売)、ファースト・ソーラー社(シリコンを使わないカドミウム・テルルの薄膜タイプ)、シャープをはじめとする日本企業(規模拡大は出来なかったが、2012年からのFITに助けられた)、韓国ハンファ(Q-cells)などのパネルやシステムメーカーなど。(台湾はセルやモジュールなどの委託生産品)

この欧州のFIT崩壊の時期に、日本政府はFITを設定し2012年から施行したのである。

FIT制度は、インセンティブを付けた固定買取価格を設定し、PV等の量産効果を期待し大量設置を促すことから始まり、年々引下げていく。そのコスト低減をPVメーカーやPV装置メーカーに強制するのだが、材料、特にポリシリコンや人件費、装置のコスト低減が追従しなく破綻に追い込まれる。PVや風力発電にかかわる製造業は、長生きできない。破綻したQ-cellsの減額された資産を買い取ったハンファのように復活する。中国においては最終的に地方政府の支援あるいは経営で生き延びる。