風力発電

 

欧州や中国北部、北米北部と比べ風速が劣る日本、地域的な気象条件の差を努力で埋めることは出来ない。(同一の発電機での発電量は、欧州が日本の1.5倍)そして、日本の系統連系は北海道や山頂などの発電適地からの送電に対応していない。

風力発電は、風の力を受けるブレード(プロペラ)を回し増速機で回転を増し発電機を回す方式が一般的である。「増速機+発電機」を「多極同期発電機」に置き換えた方式もある。
基本的には、風の力即ち風速が早ければ早いほど発電量が多くなる。風力発電を設置する場所の風速、即ち「風況」が投資判断の決め手になる。次に、発電した電力を系統まで接続する送電線コスト、環境アセスメントと設置場所周辺の住民あるいは利権者との合意取り付け、そして電力買取り価格が採算に見合うのか判断して投資を決める。

最初に検討する風況は、ヨーロッパや中国北部、北米に比べて、日本は適地が少ない。
発電に向く風速は 6m/s以上と言われている。日本の陸上風力は、「平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、以下ポテンシャル報告書」の「図4-6 陸上風力の賦存量分布図」に示されているように、山脈の山頂と海岸縁の一部、地域的には東北北部より北に偏っている。

「図4-12 陸上風力の電力供給エリア別の導入ポテンシャル分布状況」は、電力供給エリア(電力会社)別の可能な発電能力を算出したグラフである。北海道と東北以外は、期待できない。

洋上風力について、「図4-14 洋上風力の風速分布図」、「図4-17 洋上風力の電力供給エリア別の導入ポテンシャル分布状況」を見ると九州、北海道、東北が適しているが、実現するには多くの障害を越えなければならない。

ポテンシャル報告書
https://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/

外国との比較、特に風力発電の稼動が多い欧州と比較したレポートがある。東京大学の下記レポートは、図6 欧州7地点、日本4地点、台湾5地点の月間平均風速、図8 欧州、日本、台湾の仮想立地点の月間平均風速を見れば、日本の平均風速は欧州の8割に満たない。特に夏期においては風速6m/sを下回る場所がある。
12頁

「日本と台湾の年間平均風速はそれぞれ7.7m/sec、8.0m/secとほぼ同水準であり、月間平均風速については日本が6月〜9月の4ヶ月間、台湾が4月〜6月の3ヶ月間7m/secを下回り、採算性のある発電が期待できない状態が続くことを示している。

 これに対して欧州は、年平均風速が10m/secに達しており、風況の悪い4月〜8月の4ヶ月間ですら日本の年平均風速を上回る風況にある。

 この結果、日本の年間設備利用率は35.4%であるのに対し、欧州は54.6%に達しており、同一の発電機から日本の5割増の電気が生み出されることが分かる。また、日本の6月〜9月の4ヶ月間の月間設備利用率は20%台にとどまっており、この期間は発電量が大きく低下することが分かる。」

東京大学公共政策大学院 
風況の違いによる日本と欧州の洋上風力発電経済性の比較

WindEuropeの欧州風力の統計から
・各国設置量(+新規)の図

・TABLE 1 2020年、各国の新規設置量と累積設置量、陸上と洋上と合計


上記の統計によれば、大西洋と北海に面した沿岸国の設置量が多く、2020年までドイツ(63GW)、スペイン(27GW)、英国(24GW)、フランス(18GW)、欧州全体で 220GW(219,546MW)が設置されている。日本は、2019年までに4.2GWである。

欧州との違いは何なのか、それは、風力発電の設置が多い欧州の国々は大西洋、北海をへて吹き付けるほぼ一定した強い偏西風があるからで、日本においては津軽海峡から北の地域が該当する。「アジアとヨーロッパの緯度」の図を見ると、北緯40度には盛岡、秋田、45度には稚内があるが、欧州の北海は50度より北にある。

 

偏西風の通り道の違いで風況に大きな差があり、日本では秋田・岩手北部より南は風況が悪く風力発電に適していない。

それでは、北海道に風力発電を増やせば、という考えになるが、既に再エネだけで北海道全需要を上回る事態になっていて再エネの出力制御を発電事業者に依頼している。

 

北海道電力 2021年4月20日
北海道エリアにおける再生可能エネルギーの導入拡大に伴う対応について

北海道電力の余剰電力を取り込む揚水発電所は40万kW(60万kWhへの増強計画あり)の1個所であり、本州との連系線は従来からの60万kWと2019年3月から稼動した30万kW、合計90万kWの能力であり、これ以上本州には送電できない。(2018年9月の北海道胆振東部地震により発生した北海道エリアのブラックアウト対策として更なる増強計画がある。)
京極発電所(揚水発電)
北本連系設備(直流送電)

ヨーロッパ北部と同緯度の北海道は雪がなければ太陽光も風力も適地であるが、余剰電力を受け入れる最大能力は、130万kWまでである。北海道への太陽光と風力設置は、揚水発電と本州との連系線の増設が前提となる。

風力発電設置の障害

なお、風力発電は、景観、騒音、バードストライク等の環境アセスメント、及び地権者との調整に時間がかかり、設置稼動まで多くの壁を越えなければならない。

3月24日に提出された日本風力発電協会の意見書の12頁に、FIT入札募集量の拡大」と「系統制約の解消」と設置量を制約している系統などの設備制約の緩和と、「環境アセスメント規模要件見直し」「環境アセスメント期間の短縮」「森林エリアでの設置に係る許認可手続の迅速化」「所有者不明土地使用手続の迅速化」と環境規制の緩和を要求している。具体的には13頁に「保安林区域内への立地促進/指定解除要件等の緩和」「自然公園内の立地制約の解消」「緑の回廊への立地の推進」「耕作放棄地・荒廃農地への立地促進/農振除外要件の緩和」の規制緩和である。

 

系統連系への送電問題については、15頁(系統連系運用、送電線網の増強、大消費地までの送電、送電線施設。運営の負担)、16頁(海底直流送電線網)などのの提案が行われている。

 

総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第39回会合)3月24日
日本風力発電協会

洋上風力については、国土交通省が「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」を仕切っているが、次の段階で具体的な投資計画は見当たらない。

洋上風力産業ビジョン(第1次)(令和2年12月15日)
洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発ロードマップ(令和3年4月1日(木))

 

まとめ

日本の風力発電の適地は、北緯40度の津軽海峡(欧州ではスペイン・マドリード)から北、偏西風の通り道である北海道、本州でも山脈の山頂があるが、消費地までの送電線の敷設が必要になる。風況が弱い日本では、採算のとれる発電量の見込みが少なく、環境アセスメントに時間がかかり投資が進まない。そして、落雷や台風の被害におびえなければならない。

 

風力発電に適した気象条件の欧州と異なり、日本の風況は弱く、採算的に不利である。