「米国はノルドストリーム2に替わる天然ガスを供給できるか」

米国のエネルギー輸出は許可制であったが、シェールガス・石油の生産が急増し、輸出の自由化に切り換えた。

 

米国は天然ガスの輸出入に関しエネルギー省(DOE)の認可が必要であった。
a.DOE長官の輸出入の許可が必要
b.内国民待遇を義務付けたFTA(自由貿易協定)締結した国からの輸入天然ガスを原産地による差別・優遇をしてはならない。
c.内国民待遇を義務付けたFTAを締結した国との天然ガス輸出入にかかる許可申請は修正・遅滞なく認可される。(1938年天然ガス法+1992年エネルギー政策法)

内国民待遇を義務付けたFTAは、オーストラリア、バーレーン、カナダ、チリ、コロンビア、ドミニカ共和国、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ヨルダン、韓国、メキシコ、モロッコ、ニカラグア、オマーン、パナマ、ペルーおよびシンガポールの18ヵ国であり輸出入の認可申請は「修正または遅滞なく」認可される。(内国民待遇のないFTAを締結したイスラエルとコスタリカを除く)
FTA締結国への輸出入許可申請は、1~2ヶ月で認可されるが、未締結国の場合は認可まで数年かかる。

(下記発行誌、滝井光夫先生「米国の天然ガス・LNG 輸出規制と問題点」要約)

季刊 国際貿易と投資 96号

 

米国は天然ガス輸入国であったが、2010年前よりシェールガスの増産が加速し、2011年には純輸入量が全消費の8%に落ち込んだ。輸入が激減した。主な輸入先はパイプラインで供給を受けるカナダであり(94%シェア)、LNG輸入がゼロになっていく。シェールガスの急増に対応すべく輸出拡大に切り換えていく。2013年には未締約国の日本への輸出許可が承認された。その後も多くのプロジェクトが認可されていく。全てLNGとして輸出されるが、米国はLNGを受け入れるタンク、気化装置を持っているものの、液化装置を含む輸出プラントを持っていなかった。2013年に認可されたLNG輸出プラントが稼動し、2016年6月に拡幅工事を完了したパナマ運河を日本向けLNG船が初めて通過するのは2016年12月、翌年1月始めに上越市に到着。その後多くの輸出プラントが認可され次々と稼動を始めた。

米議会はFTA未締結国への輸出認可を遅滞なくすすめるため、2016年度包括歳出予算書(2015年12月18日成立)に挿入された条項によりDOEの輸出認可権が廃止された。下記条文によれば、石炭、石油製品、天然ガス、石油化学原料、関連する材料・機器の輸出制限を課す「大統領権限」を廃止する。(大統領権限とは行政府の権限のことで、エネルギーに関してはDOEが権限を持つ。最終権限は議会・天然資源エネルギー委員会が有する。)

 

FY2016予算書
DIVISION O--OTHER MATTERS
TITLE I--OIL EXPORTS, SAFETY VALVE, AND MARITIME SECURITY
(Sec. 101) The division amends the Energy Policy and Conservation Act (EPCA) to repeal the authority of the President to impose export restrictions upon coal, petroleum products, natural gas, or petrochemical feedstocks, and supplies of related materials or equipment.

以下、原油の輸出制限に関する大統領権限を規定(テロ支援者に対する制裁、国家安全保障の理由、国内の材料不足)
米国の予算年度は、前年10月から当年9月までであり、FY2016は、2015年10月から2016年9月の歳出予算。

2013年から未締結国特に日本向け輸出を認可し、輸出プラント(液化、貯蔵、船積みなど)が稼動を始め、2016年6月に拡幅工事が完了したパナマ運河をLNG船が通過し日本に向かう。2017年には天然ガスの純輸出国になった。
(添付図は EIA Annual Energy Outlook 2021より引用)


2017年1月20日に就任したトランプ大統領は、2018年7月のNATO首脳会議で、防衛費用の負担が不公平だ、多くの国がパイプラインで送られるガスに多額の支払いをしてると批判した。トランプ大統領の警告を無視したドイツに、米上下院が敷設企業への制裁法案を2019年末成立させた。この法律の制裁発動を恐れたスイス企業が敷設作業を中止した。ロシア政府、ドイツ政府の対応があったが、米国の妨害でノルドストリーム2の工事が遅れた。2021年になってバイデン政権になり、2021年5月バイデン政権は制裁の一部を解除した。しかしロシアがウクライナに侵攻した場合、米国はドイツに対しノルドストリーム2の停止を求めている。

ロイター 2018年7月11日
NATO加盟国の拠出不十分、独は「ロシアの人質」=トランプ氏

ロイター 2019年6月13日
トランプ米大統領、ノルドストリーム2計画巡り制裁検討

国際環境経済研究所 2020年10月2日
暗雲漂う「ノルトストリーム2」の行方

 

LNGの輸送には次の設備が必要であり、需給とサプライチェーンの構築(契約と投資)、液化天然ガスLNGの-162℃に耐えられる製造設備、輸送容器の製造には高度な技術と製造期間が必要である。

 

輸出側:液化冷凍設備、LNG貯蔵タンク、船積み設備

運航側:LNG船

輸入側:受入設備、LNG貯蔵タンク、気化装置

 

ノルドストリーム2に替わるLNGを米国から供給するのは、上記設備の増強を行わなければならない。おいそれと出来る話ではない。

 

(次回は歴史を遡りロシアとウクライナのパイプラインを巡る紛争からノルドストリーム稼動まで)