夏休み明けの9月17日に再開した米下院では、連邦債務上限や2024年度連邦予算(2023年10月~2024年9月)の重要法案の成立を目指していた。マッカーシー下院議長(共和党)が民主党と協議し、9月30日に、11月17日までのつなぎ予算を可決させた。ウクライナ支援、国境管理、支出削減などの問題で、共和党内保守強硬派「フリーダム・コーカス」(下記NHK記事と宮沢氏解説)の反対を押し切って成立させた。

 フリーダム・コーカスに属するマット・ゲーツ下院議員が、民主党に協力を求めたマッカーシー下院議長の解任動議を提出、10月3日の採決により、8人の共和党員と民主党全員の賛成により216:210で動議を可決した。
 後任の下院議長選は10月11日、候補としては、スカリス院内総務、エマー院内幹事などの名前が挙がっているが、スカリス院内総務は血液ガンで治療中。

 マッカーシー下院議長は、バイデン大統領を弾劾裁判に持ち込むため、司法委員会、監視委員会、歳入委員会における証拠集めを指示していた。ゲーツ下院議員はより強硬であった。(下記日経記事)一方民主党はバイデン弾劾を避ける努力を推し進めている。油と水の利害関係の組み合わせが、マッカーシー下院議長解任に同意した。民主党としては、議会運営が遅れること共和党の内紛を利用することが期待できると考えたのだろうと思う。しかし、フリーダム・コーカスの主張を受け入れれば、よりバイデン政権攻撃の勢いが増すのだが。

Bloomberg 10月4日
マッカーシー米下院議長解任、史上初-共和党保守強硬派の造反で

 

NHK 10月2日
「つなぎ予算」成立でアメリカ政府機関の閉鎖回避も混乱続く

フリーダム・コーカス(東京財団の宮沢氏の解説)

 

 カンザス州ウィチタには、エネルギー・コングロマリットのコーク・インダストリーズ(Koch Industries)がある。同社を経営するチャールズ・コーク(Charles Koch)とデイビッド・コーク(David Koch 2019年8月没)の資産はそれぞれ220億ドルに達し、二人は共に『フォーブス(Forbes)』誌の世界長者番付(2011年版)の18位に入っている。(2023年それぞれ590億ドル、合計するとビル・ゲイツより多い)
 コーク兄弟は、共和党の保守派を支援し勢力の拡大を実現してきた。2010年の中間選挙でティーパーティー派が多くの議席を獲得し、その後下院ではフリーダム・コーカスという勢力になる。2016年の大統領選挙を控え、2015年に、コーク兄弟がウイスコンシンのスコット・ウォーカー知事、マルコ・ルビオ上院議員、ランド・ポール上院議員、テッド・クルーズ上院議員等をイベントに招待し、9億ドルの資金提供を行うと表明した。2016年にはコーク兄弟の期待が外れトランプ氏が共和党の大統領候補となった。

東京財団政策研究所 宮沢智之氏
非介入派を支えるコーク財団―クインジー研究所の誕生―(2019年)
コーク兄弟(Koch Brothers)についての考察(2011年)
フォーブス世界長者番付・億万長者ランキング(2023年版)

日経 9月13日
米下院議長、大統領弾劾調査を強行 民主党は猛反発

 

(次回、バイデン弾劾調査、トランプ訴訟のその後)