彼女と

ほんの4日前は


ベッドサイドでかみ合わぬ会話を
楽しみながら過ごした


わたしが手に持つコップから直に

『ごっくん ごっくん』と

喉を鳴らしながら
栄養補助飲料を数口飲んだ


ご家族の介助で
ペースト食を1/2量食べた


95才で小柄な彼女は
もうそれでおなかいっぱい(*^^*)


翌日
ケアマネージャーからの知らせで
臨時訪問したら


薄く眼を開き
ぼんやり空を見て
少し右向きに横たわる彼女


普段は介助の時に、
言葉で伝える指示が入らないため


ぎゅっと縮こまっていた身体は
柔らかく弛緩し


右下になった頬袋には
さらさらとした白い唾液が
ほんの少し溜まっている


体内に蓄積した
”いらないもの”たちが
排泄されていく


少し浅い呼吸を繰り返し


永年動いてきて
疲弊しているはずの心臓は


様々なリズムで拍動し
取り込んだ酸素は血液を介して
力一杯全身の細胞に巡る


痛みも 感じない
食べることも 飲むことも 必要ない


全ての苦痛と飲食からは卒業し
”いらないもの”たちを排泄しながら


ゆっくり
ゆっくり


〖今〗を積み重ね
その時に向かう


『もうごはん、
   食べんでいいんでっか?』


息子さんの問いに
全ての苦痛と飲食からの卒業と


傍にいること、触れること
お声を聞かせることが
ご本人のよろこびだとお伝えし


お話することからも卒業した彼女が
〖今〗感じていることを
想像する


ベッドを左の壁沿いに
配置しているため


息子さんが現れるのは
いつも彼女の右側


身体を左に向けると


どうにもうまく
ポジショニングできないため


ずっと右向きだけど


皮膚はどこもキレイ✨


日に日に少しずつ
皮膚のちりめん皺はひろがり


排泄量が少しずつ減り


ちいさくなっていくけれど


今日も
穏やかな
静かな
柔らかなお顔


息子さんと
「昔の想い出を夢でみてるのかな?」

語りあい
笑いあう


今日は看護師のスケジュールが
偶然重なって空いたので
看護師3人で訪問し
逝くひとの『今』を共有する


不思議にこころ暖まる
何だか妙に
心地いい時間(*^^*)


わたしが好きな
高村光太郎の詩集『智恵子抄』


その中でも
「あなたはだんだんきれいになる」と
「レモン哀歌」 が大好き(^-^)



 を(お)んなが 付属品を 
  だんだん棄(す)てると
    どうして こんなに 
       きれいになるのか
          ーあなたはだんだんきれいになるー


彼女もだんだんきれいになる


わたしたちはただ


傍にいる
触れる
語りかける


全てを棄てて


『昔山巓さんてんでしたやうな
  深呼吸を一つして
  あなたの機関はそれなり止ま』る
                               ーレモン哀歌ー

その瞬間的まで。