羽生二冠の先手「横歩取り」を味わおう。。 | 柔らかい手~個人的将棋ブログ

羽生二冠の先手「横歩取り」を味わおう。。

ゴールデンウィーク明けから

タイトル戦を含め 、精力的に公式対局をこなしてきた将棋界ですが

本日はなぜか1局も組まれていません。


ということでこの機会に

来週の火曜日に行われます第70期名人戦7番勝負/第4局

先手となる羽生二冠の気になる対局を振り返ってみたいと思います。






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5手目▲2五歩。



上図での持ち駒


▲羽生二冠: なし

△高橋九段: なし



今回の棋譜は

昨年の10月20日に行われました第70期A級順位戦/4回戦

高橋道雄九段戦。



先手・羽生二冠は初手▲7六歩から△3四歩~▲2六歩~△8四歩~と

お互いに角道を開け飛車先の歩を突く居飛車王道ので出し。


上図5手目に羽生二冠はさらに飛車先の歩を伸ばしました。

高橋九段の応手は、飛車先の歩を同じく伸ばす△8五歩(6手目)。



以下、▲7八金~△3二金と双方、角に金を密着させ

おなじみ「横歩取り」へと進行。。





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18手目△8四飛。


上図での持ち駒


▲羽生二冠: 歩3

△高橋九段: 歩2




羽生二冠が

史上3人目となる全勝優勝を飾った第70期A級順位戦。

このうち先手となった5局中3局で「横歩取り」を採用。


開幕から3局連続採用となった第68期名人戦 に代表される

10年度あたりからグッと「横歩取り」の採用率が上がった羽生二冠。


この3年間の「横歩取り」での成績は

27戦18勝9敗(.667)。


しかし、羽生二冠の興味は

もっぱら後手番時の「横歩取り」にむけられているようで


前期の第69期名人戦でも

全7局中、「横歩取り」となった3局は全て後手番で1勝2敗。

無念の名人陥落 となった最終戦も「横歩取り」での黒星でした。



もともと後手が不利と言われる「横歩取り」

「中座飛車」「中原囲い」「松尾流」など優れた対策が出ているものの

その流れは大筋ではかわらず


羽生二冠のここ3年間の「横歩取り」後手番での成績は

17戦9勝8敗。


逆に言うと

羽生二冠が「横歩取り」で先手を持った時の強さは格別で

この3年の成績でみると9勝1敗。通算勝利率も7割7分を超えています。




前期は一度も投入されなかった

羽生二冠の先手「横歩取り」が今年の名人戦でそろそろ火をふくのでは。。


また6月に開幕をむかえる第83期棋聖戦5番勝負で

挑戦者に迎える中村太地六段も「横歩取り」を得意としており

今後、しばらくは鍵を握る戦型と言えるのかもしれません。



今回の相手・高橋九段といえば「矢倉」の大家として有名ですが

後手番では「横歩取り」を得意とし、その研究には定評があります。


しかし、A級順位戦での対羽生二冠戦ということもあってか

高橋九段は十八番の「△8五飛」とはせず、8四の地点に飛車を引く

クラシカルな形をとりました。





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28手目△8六歩。


上図での持ち駒


▲羽生二冠: 歩2

△高橋九段: 歩



そこから

通常は先手が用いることの多い「中住まい」に構え

高橋九段は8筋から仕掛けを開始。。




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34手目△8八角成。



上図での持ち駒


▲羽生二冠: 歩3

△高橋九段: 角、歩2



飛車先の歩を切り

羽生二冠が3筋の歩を突きこせば(31手目▲3五歩)

その浮いた歩を飛車で狙い(32手目△8五飛)


羽生二冠がその歩を守れば(33手目▲2六飛)

すかさず角交換を敢行(上図34手目△8八角成)


高橋九段は

先手の動きをつつきながら動きまわり、揺さぶりをかけます。





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36手目△5四角。


上図での持ち駒


▲羽生二冠: 角、歩3

△高橋九段: 歩2


そして見晴らし良好、絶好の角の打ちこみ。。


明らかに用意されていた高橋九段の研究、作戦の前に

羽生二冠はジッと我慢の展開が続きます。。



ここで羽生二冠は長考に沈み

1時間と40分後に指された37手目は▲2六飛でした。




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45手目▲7五歩。


上図での持ち駒


▲羽生二冠: 角、歩2

△高橋九段: 歩2



ここまで腰を落として耐えてきた羽生二冠が

じわじわと反撃開始。。


左の桂馬の跳躍(43手目▲3七桂馬)で

浮いた高橋飛車の稼動域は一気に狭まりました。


さらに7筋の歩を突き

後手に「飛車で取りに来い」と催促すると同時に

5筋の歩上に居座る自軍の飛車の8筋への移動経路を確保。





柔らかい手~個人的将棋ブログ-67


67手目▲5六角。


上図での持ち駒


▲羽生二冠: 歩2

△高橋九段: 歩3



序盤から中盤にかけて

大威張りしていたはずの高橋九段の飛車と角が

あれよあれよという間に逆に押さえ込まれてしまいました。。




そうはさせじと高橋九段は

次に飛車を5筋へと振り直しましたが(68手目△5四飛)

羽生二冠はかまわず、閉じていた角道を開く▲4四歩。。




柔らかい手~個人的将棋ブログ-75


75手目▲2三歩。


上図での持ち駒


▲羽生二冠: 角、歩2

△高橋九段: 角、歩4



角交換から、受けの利かない2三の地点に歩の垂らし

羽生二冠らしい膨らみのある柔らかい手が続きます。。




柔らかい手~個人的将棋ブログ-86


86手目△5四香。


上図での持ち駒


▲羽生二冠: 歩4

△高橋九段: 角、歩3



高橋九段、勝負の一撃。

羽生二冠は飛車を見捨てて、「と」金で銀と桂馬を捕獲。。



【 投了図・93手目▲3八銀 】




柔らかい手~個人的将棋ブログ-93


投了図での持ち駒


▲羽生二冠: 金、桂、歩4

△高橋九段: 角、歩4



86手目△5四香から

▲2四「と」~△5六香~▲3三「と」~△2九飛~▲4三「と」~△同玉

そして93手目▲3八銀と進行し、高橋九段無念の投了。



激しくなることが多い「横歩取り」で

綿密な計算と駆け引きの末、渋く勝利をものにした羽生二冠。


名人戦でもぜひ、拝見したい戦い模様であります。







「毎日の将棋学」