誰が為に君は戦う | 欧州野球狂の詩

欧州野球狂の詩

日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 去る9月3日から10日まで宮崎で開催された、U18アジア選手権。ご存知の通り、日本代表はスーパーラウンドで韓国と台湾に連敗を喫し、3位決定戦で中国に勝利して何とか来年のU-18ワールドカップへの出場権を死守した。この結末は、日本代表の選手たちが望んでいたものでは当然なかったはずだが、大半が甲子園県予選から甲子園を経てここまでずっと走り続けてきた面々。彼らにはまずは何より1人の野球ファンとして「お疲れさまでした」という労いの言葉をかけたい。

 

 だが一方で、その「期待外れの結果」しか手にすることができなかったことに対しては、非常にシビアな目を以て対峙しなければならないだろう。何故日本は勝てなかったのか。もちろん、そこには様々な要因があるだろう。いったん甲子園で燃え尽きた選手たちが抱える疲労、左打者・好打者偏重の打線の構成、地方大会から通算で1517球を投げぬいた吉田輝星投手(金足農業)の相変わらずの酷使(今回は他に好投手がいくらでもいたにもかかわらず)、木製バットへの対応などなど。しかしそれ以前に、今回の日本代表には根本的に欠けていたものがあると思う。「何のためにこの大会を戦うのか」「この戦いを通じて何を得て、何を持ち帰り、どう日本球界に還元するのか」という目的意識だ。

 

 U18代表の首脳陣は、今回のアジア選手権を日本球界の中でどのように位置づけていたのか。この大会を制することが、我が国のベースボールコミュニティにとってどのような意味を持つのかという目的意識を、きちんと関係者同士で共有し明確化できていただろうか。残念ながら、傍目にはそこが曖昧なままになってしまっていたようにしか見えない。あまり想像したくはないが、もしかして今回の代表チームに関わった大人たちは、アジア選手権にせよW杯にせよ、単なる「甲子園を沸かせたスターたちによるオールスター戦」程度にしか考えていないのではないか。もしそうだとすれば彼らは猛省すべきだ。そんな安直な意識で戦って勝てるほど、少なくとも韓国や台湾は甘い相手ではない。

 

 かつて野球とソフトボールが五輪で毎回行われていた頃から、日本代表は決して世界の舞台における絶対王者ではなかった。輝かしい実績を誇るNPBのスタープレーヤーたちを集めてさえ、正式競技への採用後はただの一度として金メダルを手にしていない。五輪と同様、大リーガーが出場しないからと楽勝ムードが立ち込めたプレミア12だってベスト4どまりだった。WBCでは第1回から2連覇を達成したが、予選ラウンドが導入され参加国が28に増えてからは、やはり決勝には進めていない。繰り返すが、野球日本代表は日本人が思っているほど世界的には圧倒的なチームではないのだ(W杯6連覇という大偉業を達成した女子代表はともかくとして)。

 

 だからこそ、日本代表に求められるのは「何のためにこの大会にエントリーするのか」「何のために頂点を目指すのか」というビジョンをきちんとまず明確に定めることだ。ここがあやふやなままだから、選手選考にせよバットへの対応にせよ試合での投手起用にせよ、全ての面においてどのように取り組むべきかが統一できず、結果として組織としての芯が通らない状態になってしまう。ナショナルプライドは、国際大会を戦う上での重要なモチベーションの源だ。試合前に君が代を歌い、日の丸を背負って戦うことはあらゆるスポーツの日本代表選手にとって誇りだろう。だが、国を背負うからには相応にやらなければならないことがある。「ぼくのかんがえたさいきょうのにほんだいひょう」で臨みさえすれば頂点をとれる、そんな簡単な世界では国際野球はもはやないのだから。

 

 

 

 

 そしてもう1つ指摘せずにはいられないのは、一部メディアにみられる新興国への無関心さだ。一次ラウンドで香港に26-0、スリランカに15-0で圧勝した後、ネットにこんな文章が躍った。「レベルどころか普及に差がありすぎる」「こんなに大差がつくなんて日本代表の選手たちのためにもならない」「こんなんじゃ野球が五輪を外されて当たり前」(https://biz-journal.jp/gj/2018/09/post_7751.html)。正論だし、そこを否定することはできない。試合を見ていた方々の中にも「こんなんじゃ野球にならない」と内心呟かれた方は少なくなかっただろう。だが、この記事を書いた記者は大事なことを忘れている。「これほどの大差がついてしまうのは何故なのか」「盛んな国が少ないとは言うが、その理由は何なのか」「それを解決するために例えば日本ができることはないのか」という考察や提言だ。

 

 確かに、香港やスリランカはお世辞にも日本と野球で肩を並べるような国ではなかった。それは結果にもプロセスにもはっきりと表れている。だが、弱小国をあげつらって弱いと嘲笑するだけなら小学生でもできる。我々読者は、そんな内容にも意義にも乏しい薄っぺらい記事の発信をメディアに期待しているわけではない。「このままではマイナースポーツのイメージが強まるだけ」と記事にはあるが、「では何故そもそも野球はマイナースポーツなのか」「マイナースポーツとしての地位を脱却するためにはどんな取り組みが必要なのか」まで考えなければ、たとえ何十年経とうがアジアの野球はずっとこのままだ。いや、もしかしたら数十年後には野球というスポーツ自体廃れてしまっているかもしれない(もちろん、そんな未来は断じて望んでいないけれど)。現状を否定するならするで、自分なりに何かしらの建設的な解決策を提示するのが大人の仕事というものではないだろうか。

 

 もちろん実際に解決策を提示できて、それが誰の目から見ても実に理にかなったものであったとしても、それを実際に実行に移すのは誰もができることではない。かくいう自分にだって、乗り越えなければならない課題はいくらもである。でも、たとえすぐに行動に移すことはできなくたって関心を持つことはできるし、自分なりに色々調べて知識を得ることはできるはずだ。普及という意味で言えば、年代別国際大会である今回のアジア選手権は、問題意識を持つきっかけとしてはある種ぴったりだとさえ思う。願わくは、こうした国際大会を通じて国際的な野球事情に疑問や興味関心を持つ人が増えてほしい。「誰も興味を持たなければ、そこには何もないのと同じ」という言葉は、ある側面では必ずしも正しくないと思う。たとえ目を向ける人が限られていたとしても、そこに誰かがいる限りは背後にその人の人生があるのだから。

 

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