米国のユダヤ系市民の世論調査が2011年7月21日にJストリートから公表された。結果は、ユダヤ系市民は依然としてオバマ大統領を支持しており、大統領の中東和平への関与を期待している。主なポイントは以下の通りである。


  1. 昨年の調査と同じくユダヤ系市民のオバマ支持は6割に達している。

  2. Jストリートの調査は、6月に発表されたギャロップの調査の結果を裏付けている。ギャロップの調査もオバマ支持の根強さを示した。現段階で大統領選挙が行われれば、ユダヤ系市民は、ロムニー元マサチューセッツ州知事などの名前の出ている共和党候補よりもオバマを支持する。オバマは6割以上の票を取るだろう。

  3. オバマはネタニヤフより人気があるが、クリントン元大統領の人気には及ばない。経済運営(51パーセント)と中東和平問題(44パーセント)に関しては、オバマの評価は低い。議会の中東和平問題への取り組みの評価は、さらに低く27パーセントである。2008年の大統領選挙でオバマに献金した人々の大半(82パーセント)が、2012年の大統領選挙でも献金する。ユダヤ人のオバマ支持は変わらないが、献金するかどうかは分からないとの推測がギャロップ調査の発表後に出されていた。この数字は、そうした推測を否定する結果となる。

  4. 8割が米国の中東和平への積極的な関与を支持している。67パーセントが、イスラエルとアラブ側の両方と米国が違う立場を公然と取るとしても、それを支持するとしている。7割が米国による和平提案を歓迎しており、6割が1967年のラインに沿った和平を支持している。5月の米議会での演説で、イスラエルのネタニヤフ首相が1967年のラインは防衛できないと述べた。にもかかわらず米国のユダヤ人の過半数が、このラインが和平の基礎であると考えているのは興味深い。

  5. パレスチナ国家の樹立に関しての国連での投票が9月に予定されている。いかに米国が投票すべきとの問いに対しては、高齢者層の51パーセントが反対投票を望んでいるのに対し、若年層では賛成41パーセントが、反対39パーセントを上回っている。イスラエルを訪問した経験がないユダヤ人が65パーセントに達する。

  6. 1パーセントがユダヤ「教徒」ではないと答えているが、その全てが自分はユダヤ「人」と考えている。

なおサンプル数は自らがユダヤ人と考える800名である。またJストリートは2008年に創設された組織で、そのスローガンは平和とイスラエルの支持である。つまりパレスチナ国家の樹立とイスラエルとの平和的な共存によって中東問題を解決し、イスラエルの安全保障を図るという主張である。そのために米大統領の積極的な中東和平への関与を求めている。親イスラエルであることは、イスラエル批判を妨げないとのJストリートの姿勢は、エイパックAIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題評議会)に代表される既存の親イスラエル組織とは一線を画している。既存の組織の大半は、ユダヤ人によるイスラエル批判は、敵を利するだけであるとの認識に立ってきた。それゆえ親イスラエル勢力の責務はユダヤ人国家の支持であり批判ではないとし、イスラエル批判をタブー視してきたからである。
(7月11日、記)


*畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2011年7月26日(火)に掲載された文章です。


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