11月の投票に向けてアメリカの大統領選挙が盛り上がってきた。ということは、現在のオバマ大統領の任期の終了が近づいているわけだ。
来年1月をもってオバマは2期8年の任期をまっとうする。この2期8年のオバマ政権の外交上の最大の成果は、おそらくイランとの核問題に関する包括的な合意であろう。これは、昨年の7月のイランとアメリカなどの主要大国6カ国との間の合意である。一方でイランは核開発にかんしてのきびしい制限や査察を受け入れる。他方で主要6カ国はイランに対する経済制裁を緩和する。これが、合意の核心である。これによってイランの核武装を阻止したとオバマ政権は主張している。
イランによる核兵器の開発を阻止するためには戦争も辞さないとオバマ自身が発言していたので、合意の成立の報道は、これで戦争が避けられたとの安堵感で迎えられた。
合意からすでに1年以上がたち、当時のアメリカとイラン関係についての詳細が次第に報道されるようになった。そうした報道の中でも注目されているのが、この7月にアメリカで公開されて話題を呼んでいる映画『ゼロ・デイズ』がある。
テーマはアメリカのイランに対するサイバー攻撃である。
2010年にイランの核関連施設でウラン濃縮用の遠心分離機が次々と壊れるという事件が発生した。翌11年になってようやくイスラエルとアメリカの諜報機関が共謀して送り込んだコンピューター・ウイルスが引き起こした事件だと広く報道されるようになった。このウイルスには「スタックスネット」という名前がついている。
この事実は広く知られていたのだが、映画製作のための関係者のインタビューを通じて新たな事実も浮かび上がってきた。それは交渉が不調に終わった場合のオバマ政権のイラン攻撃計画に関してである。前述のように軍事力を行使してでもイランの核保有を阻止するとオバマは宣言していた。必要になった場合には、どのような攻撃を考えていたのだろうか。
この映画の関係者の証言によれば、攻撃計画は「ニトロゼウス」と命名されており、イランに対する大規模な電子戦、つまりサイバー攻撃が予定されていた。目標となるのは防空施設や電力網などであり、イランの国防体制と国内経済を麻痺ひさせる計画であった。
>>次回につづく
※「まなぶ」9月号P.44に掲載されたものです。
NHK出版
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