イランの支援

 

同じシーア派ということもあって、フーシー派はイランの軍事支援を受けている。だがイランのシーア派は、12人イマーム派と呼ばれ、シーア派の中では別の流れである。おそらくイランは2010年代に入ってから、とくに技術援助を本格化させたようだ。イランから直接に、またレバノンのヘズボッラー経由でも支援がフーシー派に与えられてきた。その成果が、現在のフーシー派のミサイルやドローン戦力である。

 

軍事的にはフーシー派は、サウジアラビアなどが支援してきたイエメン「政府」を圧倒している。サウジアラビアは、2010年頃からイエメンに介入してきた。そしてフーシー派がサナアを制圧した翌年の15年からは、本格的に介入してフーシー派を爆撃したり、同派が利用しているホデイダ港を封鎖したりした。そのため、食糧を輸入に頼るイエメンでは飢餓が広がった。現在、サウジアラビアに接するイエメン北部を中心に同国の国土の広い部分をフーシー派が支配している。10月19日から、つまりガザのハマスが奇襲に成功した12日後からイスラエルに向けてドローンや弾道ミサイルを発射している。その大半は紅海上のアメリカやフランスの艦艇によって、あるいはサウジアラビアによって撃墜されている。また、イスラエルの対空ミサイル網が捕捉に成功している。

 

フーシー派の対イスラエル攻撃の動機はなんだろうか。軍事支援してきたイランの意向を受けての動きだろうか。どうも、そうではないようだ。イラン自身は、ハマスの10月の対イスラエル作戦は事前に知らされていなかったようだ。また、イスラエルやアメリカとの戦争に巻き込まれるのは避けたいとの意向を何度も明確にしている。ということは、フーシー派は、フーシー派の計算と論理で行動しているのだろう。その計算とはなにか。一つは、イエメン国内でのパレスチナ人に対する同情心が高まっているからだ。イエメン人は、同じアラブ人として強い連帯心を感じているようだ。イエメン国内では大規模なパレスチナ支持のデモがくり返し行われている。

 

フーシー派は、ガザのパレスチナ人のためにイスラエルと戦う唯一の勢力として自己の正統性をイエメン人に、そしてアラブ・イスラム世界全体にアッピールしている。フーシー派の戦は、口先ではガザ支援を訴えながら、会議を開いてイスラエル非難声明をだすだけで、じっさいにはなにもしないアラブ・イスラム諸国への痛烈な批判でもある。

紅海

 

このフーシー派の対イスラエル攻撃において、じっさいに強い衝撃を国際社会に与えているのは、イスラエルに向けてのドローンやミサイルの発射ではない。紅海におけるイスラエルがらみの船舶に対する拿捕や攻撃である。

 

11月19日に日本郵船がチャーターしていた輸送船の「ギャラクシー・リーダー」号が拿捕され、乗組員25人が拘束された。この船の所有関係を見ると、一部がイスラエル資本というのがフーシー派の行動の対象となった理由のようだ。またフーシー派は、船舶に対する攻撃を行った。

 

そして12月10日にフーシー派は、イスラエルに向かう船以外は攻撃の対象としないと発表している。つまり、イスラエルを利する船以外はねらわないというわけだ。イスラエル資本でなく、イスラエルから、あるいはイスラエルに向かう船でなければ、安全なのだろうか。

 

紅海はスエズ運河につながっている。アジアとヨーロッパを結ぶ交通の要である。世界の貨物の1割程度がこの海域を通っている。それゆえ、フーシー派の行動は世界貿易への大きな障害となる。すでに大手の船会社や石油会社が何社も、この海域からの迂うかい回を発表している。この措置が長期に及べば、世界の物価にはね返るだろう。インフレ圧力となるだろう。紅海とスエズ運河を使う代わりに南アフリカ回りで航海した場合には、距離が約4割は長くなるからだ。その分の船のチャーター料金、燃料代、人件費、保険料などの運航費が増える。

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