しばらく経済と無関係の話を続けます。
 なぜかと言えば、現在執筆中の新作が佳境に差し掛かっており、取り扱っているデータをホームページの方に載せ、コメントを書くいつものやり方だと、さすがにネタばれになってしまうからです。実は、もう随分とネタばれのデータを載せてしまいました(笑
 ご存知の通り、わたしは昨年の六月に採図社さんから作家デビューさせて頂いた、半人前の作家です。但し、この一年間で三つの作品を書く幸運に恵まれ(二つじゃないのです)、出版社も三社とお付き合いがあります。
 そして知ったことは、出版業界は恐ろしく旧態依然とした業界である、ということです。
 まずは、出版社と書店の間に、ど~んと鎮座している出版取次会社の存在があります。しかもこの出版取次は日販、トーハンなど数社しかなく、それぞれが巨大な規模を誇っています。
 日本に書店の数は星の数ほどあり、出版社の数も数百社ある中で、間を取り持つ出版取次が数社しかないのです。不思議です。
 ついでに書くと、例えばトーハンの主要株主は講談社、小学館、集英社、角川書店、学研、新潮社などなど大手出版社ばかり。う~ん、という感じです。なぜ「う~ん」なのかと言えば、さすがに株主の出版社の書籍の方が、その他の出版社のものよりも、取次ぎの際に優先されざるを得ないだろうな、と思うからです。
 また、書物にはISBNという書籍特定番号があるにも関わらず、POSがほとんんど利用されていません。(特に街中の小さな書店は、殆どPOSを備えていません)さすがに紀伊国屋書店などの大手書店は、POSを完備しており、どの書籍が何冊売れたか、全国的に管理しています。(もちろん、amazonなどオンライン系の書店も)但し、書店数で言えば大手ではなく、POSを備えていない小規模書店の方が圧倒的です。
 何が言いたいかというと、書籍という商品は現時点で何冊売れたか、非常に把握しにくい商品であるということです。もちろん、出版数は出版社が完璧に把握していますが、最終ユーザにどれだけ買われたのかは、下手をすると返品が行われるまで分からない場合もあります。出版社は仕方なく、トーハンや紀伊国屋などのPOSデータを購入して、販売点数を管理しているようです。
 この販売点数は、著者に印税を支払う際の基準になるはずなので、非常に重要な情報なのですが、システムは旧態依然としたままなのです。そのため、出版社によって印税を支払う際の販売点数のカウントは、方針が異なります。
 例えばある出版社は、データをかき集めて、売れた数を「推測」して印税を支払うし、別の出版社は「出版」した分、印税を支払います。後者の出版社の方が著者にとってありがたいかというと、実はそうでもありません。後者の出版社の場合は、出版、つまり印刷した分だけ印税を支払わねばならないため、当然ながら初版数や増刷数は検討を重ね、絞り込まざるをえません。結果的に、機会損失が生じている可能性も否定できないのです。
 また、出版した本のプロモーションへの力の入れ方も、出版社によって変わって来ます。
 ずばり、毎月の出版点数が少ない出版社の方が、新人作家の本のプロモーションには力を入れてくれます。出版点数が多いと、売れ筋のものにリソースを集中せざるを得なくなり、海のものとも山のものとも知れない新作は、広告さえ打たれないケースもざらにあります。
 しかし本が売れるには、広告、プロモーションが必須です。そして広告が打たれるには、売れ行きが良くなければならない。まさに鶏と卵のジレンマになっています。
 
 なぜ出版業界の話を延々と書き連ねたかというと、このように関係者が不満を持ちがちな業界にこそ、ビジネスチャンスが転がっていると考えているからです。関係者が不満を持つということは、「こうだったらいいな」という理想系があるはずで、それはつまり「ニーズ」です。
 ニーズを捉えることができれば、ビジネスになるはずで、作者は作家の卵として出版業界を回遊しながら、色々と狡いことを考え続けています。