意外に知られていませんが、自動車やデジタルカメラ、プラズマテレビや液晶テレビなど、一般の消費者が購入する「消費財」が日本の輸出に占める割合は、恐ろしく低いです。日本の輸出の実に七割以上が、工業用原料や一般機械、電気機械など「企業」が購入する資本財になります。

http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_05.html#JPEXPO04-07

 JETROのデータを調査したところ、一般の人から、何となく日本の輸出の花形のように思われている耐久消費財(家庭用電気機器、乗用車など)のシェアは、20%もいっていませんでした。
 今までにも何人かの経済学者がこの点を指摘し、日本の輸出産業は円高に強い構造だと主張していましたが、定量的なデータを見たことがないので、自分で作ってみました。確かに2004年から07年までの四年間は、資本財が日本の輸出の平均75%を占めています。(面倒なので、03年以前は見ていません。興味がある人は、情報ソースに昔の数値も載っていますので、調べてみてください。)
 企業が購入する資本財は、一般消費財とは異なり、価格よりも品質が重視され、かつ一度選択すると取引関係上、簡単には購入先を変えれません。確かに日本は他の消費財輸出が中心の国々よりは、通貨高に強い構造と言えそうです。一般の消費者は、消費財の価格が上がれば、少々の品質には目を瞑り、安い製品に流れる可能性もありますが、資本財の場合はそうはいきません。価格だけで購入先を選択すると、下手をすると品質問題でラインが止まる可能性もあり、リスクが大きすぎるからです。
 しかも最近の資源高で、新日鉄などの資本財メーカは容赦ない値上げを行っていますが、韓国企業などの購入側は、仕入先を変えることもできず、涙を飲んでいます。特に新日鉄などが生産する高品質の鉄は、事実上、代替製品がありませんので、少々の値上げには文句も言えないような状況のようです。
 
 さて、以前の記事で、わたしは日本の外需依存がせいぜい15%、16%で、他国に比べると外需依存度が高いなどとは言えない。むしろ日本は内需依存国家だ、と書きました。(アメリカと比較するなら、話は別ですが)
http://blogs.yahoo.co.jp/takaakimitsuhashi/3336604.html
 その上、日本の輸出産業の花形のように思われている耐久消費財の輸出に占める割合が、わずか20%と言うことは・・・
 耐久消費財の輸出の規模は、対日本のGDP比でわずか3%強ということになります。
 つまり「円高になると、日本の輸出の花である電化製品や自動車産業が大打撃を受け、日本経済は破綻する!」などの論調があったとしたら、それは単純に「嘘」ということになります。どんなに脆弱な経済であったとしても、たかだか対GDP比3%の産業が打撃を受けたくらいで、崩壊だの破綻だのするはずもありません。
 もちろん、日本の輸出産業の圧倒的な主力である資本財の輸出がダメージを受ければ、日本経済も無傷とは言えなくなるでしょう。ただし、資本財がダメージを受けるときは、資本財を購入する海外の消費財企業が破綻した後のことになります。
 つまり、日本の迂回(鵜飼)貿易に組み込まれている各国の輸出産業が崩壊し、その次に日本の資本財輸出産業が打撃を受けるということになります。円高で「日本の輸出産業は破綻する!」と叫んでいる似非経済学者は、日本の鵜となっている各国の輸出産業が破綻するまで待った方がよろしいかと。


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http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/index.htm