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戻ってきた

 

懐かしのチャモアペット・ムエタイ・アカデミー

 

また会長に教わりながら練習ができる

ここからまた仕切り直しで頑張るぞ、と決意した 
 

 

しかし 

 



それから程なくし、次の望まない転機が訪れた。 
 
 
 
「東日本大震災」 


 
これが転機になった人は数多くいるだろうが私もその一人だった。 
 
 
地元仙台を離れ東京で暮らす自分にとってあの時期は

何もできないもどかしさに苦しんだ時期だった。 
 
 
大切な地元が悲惨な目にあっているのに駆けつけることができない。 
 
 
もし行っても何も力になれないであろう自分が無力で惨めでどうしようもなかった。 
 
 
家族親戚の安否確認ができた後に考えたことは

これからのことだった。 
 
 
「一刻も早く地元に帰りたい」と心から思った。 
 
 
自分を育ててくれた地元のために

泥かきでもいいから行いたいと思った。 
 
 
そんな時テレビに映る一人の少年がいた。 
 


フィギュアスケートの羽生結弦選手だった。 
 


彼は地元仙台にむけてこう言っていた 
 


「フィギュアスケートで元気を届けたい」と。 
 


私はその瞬間「何を綺麗ごとを言ってんだ」と思った。 
 
家にも帰れず家族にも会えずの人が多くいるこの状況の中で

何を悠長なことを言っているのだと憤慨する気持ちすらあった。 
 

 

 


私はというとそれまで人生をかけたつもりで行っていたキックボクシングに

まるで取り掛かれないでいた。 
 


「生きているだけで幸せなのに壊しあって、なんて無意味なんだろう」 
 


「自分がキックボクシングで頑張ったところで地元のなんの力になれるのだろう」 
 
 
虚無感に苛まれながら震災月に行われる予定だった試合は流れ

再度組まれた試合も断ることにした。 
 
 
結局はメジャー競技に対する嫉妬や

自分の競技に対する想いや覚悟が

羽生君と違い少なかっただけなのだ。 
 
 
しかしここでもう一度自分の気持ちを確認することができたのは怪我の功名かもしれない。 
 
 
そもそもなんで自分は最初に空手を始めたのか? 
 


原点を振り返った時思い出したのは 
 


「弱く無力な自分が許せなかった」からだと思いだした。 
 


そもそも殴り合いは好きではないし

スポットライトや歓声を浴びて気持ちが昂るようなタイプでもなかった。 
 


つまりリングに上がる「興業」には向いてなかったのだ。 
 


でもそれに気づいてからは

胸の中の違和感がふっと消えた。 
 


これまで試合に勝ってもたいして嬉しくなかったのはそのためだったのだ。 
 


誰かと勝ち負けを競いたかったわけではなく

自分自身に勝ちたかっただけだった。 
 

 


いつからだったのだろう。 
 


強くなることにとらわれていた。 
 


目的は弱い自分からの脱却で、その為の手段として武術・格闘技があったのに 
格闘技でチャンピオンになることが目的になってしまっていた。 
 
 
そう思って振り返ると 
過去の弱い自分はもういなかった。 
 


もちろんまだまだ未熟な点はいっぱいあるが

空手から始まり、逃げ出すことをやめたし

常にチャレンジし続けてきた。 
 


その過程で中学生の自分に絡んできたような

チンピラみたいな人間との交流もあり

そういう彼らもまた弱いからこそ

そういう態度をとってしまうのだと気づいた。 
 


弱い自分からの脱却の過程でもがいていた、と思うと

自分と同類にすら思えた。 
 
 
いつの間にか過去のトラウマから解放されていた。 
 
 
もう警備員を頼らなくてもいいし

チンピラも自分と同じ弱者だと気付けた。 
 
 

 


『自分に合わないキックボクシングはやめて地元に帰ろう』 

 

 

 

 

大きな決断を下した。 

 

 

 

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